女性のヘアケアといえば、かつては「使用することで髪がいかに美しくなるか」をうたったものがほとんどだったが、最近は「髪のボリュームアップ」をうたう発毛・育毛ケアが台頭している。この傾向は2010年頃から顕著になってきており、現在も留まるところを知らない。弊社では業務の一環として毎日の新聞広告の動向をチェックしているが、最近は女性用育毛ケアの広告が掲載されない日は無い。また、弊社がお手伝いしているクライアントも顧客ターゲットが40代以降~シニア世代の場合、ここ数年次々と育毛ケア商品をリリースしていることからも、女性用育毛ケア市場が活気づいていることを肌身で感じる。
こうした女性用育毛ケア活況の背景には、「高齢化」と美魔女ブームに見られるようなアンチエイジング意識の浸透が大きいと思われる。以前は「年だから」とあきらめていた年齢の縛りがどんどんなくなっていき、「いつまでもキレイで若々しくありたい」という欲望に対し、世間的な抑圧が軽くなった(一昔前なら「いい年をして」「年甲斐もなく」と揶揄されただろう)ことが、女性の飽くなき美の追求をますます加速させていることは間違いない。
さらに、「更年期」「尿失禁」などネガティブなイメージの女性の生理現象について、社会風潮がオープンになってきたことも見逃せない。女性の育毛へのニーズは昔からあったはずだが、薄毛の症状が男性のようにあからさまに見えない分、確信も持てないし恥ずかしいというメンタリティーがあったと思われる。実際、女性用育毛ケアを開発したクライアントの中には、「薄毛や抜け毛などダイレクトな表現を使わず、育毛ケアであることを伝える」ことに腐心していた向きがある。つまり、薄毛や抜け毛と言ってしまうと「それは私のことじゃない!」と拒否反応を示されるからだ。
しかし、育毛ケアが浸透してきたことにより、今や女性にとって薄毛の悩みはそれほどタブーではなくなった。かつては対面で買うには抵抗があるため、通販を利用する女性が多かったかもしれないが、最近ではドラッグストアでも女性用育毛商品の扱いは増加、売上も好調だという。またターゲット層も以前より広がりを見せ、「モウガL モルティ(株式会社バスクリン)」のように20~30代の女性が手に取りやすいデザイン・価格帯の育毛ケア商品も登場している。ほかにも「アデノバイタル スカルプエッセンス(資生堂)」は、男女兼用のサロン向け育毛剤として注目を集めている。
今年に入ってからは、ライオンが中高年女性向けヘアケアシリーズ「Fleuria(フルリア)」を発売。シャンプーの前にコンディショナーを使うという独自の使用手順だ。また9月には、花王のエイジングヘアケアシリーズセグレタが「セグレタシャンプー ふっくら仕上げ」を発売予定。コンディショナー不要で短い髪をボリュームアップさせるという商品で、いずれも乱立する女性用育毛ケア商品群で埋没しないための個性や工夫が感じられる。
今や飽和状態になりつつある女性用育毛ケア市場の中で、頭ひとつ抜きんでることは容易ではない。消費者の育毛ケアに対する経験値も高まっていく今後は、本当の実力を備えた商品のみが生き残っていくだろう。
(K.O)