通販化粧品の売上不振、その理由はコロナだけではない

「コロナ禍だから仕方ない」と思っていませんか。同じ状況下でも、逆に売上を伸ばしている会社が存在します。その違いを生む要因はどこにあるのでしょう。今回のコラムは、『日本流通産業新聞』10月15日号に掲載された「強い通販化粧品会社になるために 基礎講座Q&A vol.66」です。ぜひご覧ください。

日本流通産業新聞
通販・ネットビジネス・健康食品・美容業界などの最新動向を専門的に取り上げる業界紙です。実務に直結する情報を多角的に発信し、多くのビジネス関係者に支持されています。

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コロナ禍はピンチであると同時に、自社を磨くチャンスです

通販化粧品会社 担当者

コロナ禍の中、他社の化粧品売り上げは伸びているのに、わが社は落ち込んでいます。コロナ禍でも、既存の通販化粧品会社はチャンスと捉えてさまざまな施策を打ち出したり、店頭販売の会社はEC・通販に乗り出したりと、営業活動が活発化してきました。しかし、わが社ではなかなか売り上げが伸びません。

今回のコロナ禍の打撃ですが、まず4~6月までの店頭販売の自粛期間中は、本当にすべてが止まってしまったような状況だったと思います。しかし9月に入って店頭販売が軌道に乗り始めたころから、徐々に売り上げも回復してきたようです。そんな中で御社の回復が遅れているようであれば、それはコロナ禍の打撃だけではなく、もともと現在のお客さまのニーズと合わなくなってきた仕組みにメスを入れる前に、コロナ禍に突入してしまったためではありませんか?

化粧品だけでなく他商材の通信販売でも見られることですが、そもそもの問題点をそのままにしておいたところに、今回の打撃を受けた会社は、より大きな傷を負っているように感じます。

いつも問題点を探して早めに対応している会社、いわばチャレンジ精神の旺盛な会社は立ち直りも早く、傷も浅いような気がします。

「もの売り」だけではお客さまの共感は生まれない

通販化粧品でいえば、一昨年あたりから新規顧客獲得は全く効率が悪く、CPO1もCPR2もとても高騰しており、通常のビジネスの仕組みでは、投資金額を何年かかっても回収できないような構造になっていました。それを知りつつ旧来型の通販の広告展開で運営してきた会社も多いと思います。

本来であればきちんとブランドの訴求ポイントを整頓して、値引きではない方法で、ニーズのあるお客さまに正しい情報を届ける、いわばブランディングとマルチメディア戦略の両方が必要なのに、その手を打ってこなかったこと。

あるいは、他社との差別化が明確でない「安易な商品開発」を続けてきたこと。お手入れ方法についても「独自の美容メソッド」の提案ができないため、使用後のお客さまの実感や共感を引き出すことができていないこと。化粧品という「もの」は売っていても、「お手入れのアドバイスなどが充実していない」こと。

数え上げればきりがありませんが、いずれも「化粧品を売る」ビジネスには不可欠な体制を整えていないということです。そのような状況では、もしコロナ禍がなかったとしても、いずれ売り上げが頭打ちになってビジネスは厳しくなっていったことでしょう。

真の回復の鍵は、“お客さまの声”にある

コロナ禍の中でも売り上げを落とさず、むしろ対前年比で伸ばし続けている会社は、先に挙げた課題を日々解決するためのチャレンジを続けてきた会社であり、それを応援する固定のファン層を多く抱えている会社です。その根底にあるのは、本来、自分の会社は「お客さまに何を届ける会社なのか」という商売の基本を全社員が、全力で共感しているかということだと思います。

それが単なるテクニック論で「何割値引くと、どれだけのレスポンス率が見込めるか」などのピンポイントのデータばかりで考えるようになると、いつしかお客さま不在のビジネスになっていたはずです。

そのような状況では、コロナ禍がなかったとしても、いずれは衰退するビジネスになっていたかもしれません。売れないこと、お客さまが離れてしまっていること、なんでも「コロナ禍」のせいにしないで、お客さまの今の声に耳を傾け、何をどのように提供すれば、受け入れてもらえるのか。

もう一度「お客さまのニーズとベネフィットに応える」ことを念頭に、自分自身のビジネスモデルの棚卸をしてみると良いと思います。おそらく平常時には、何となく分かっていて、「手を打たなくては……」と思っていたことが全く改善されておらず、そのまま「見なかったこと」や「先送りにしていたこと」がたくさんあると思います。

早く売り上げを回復してほしいですが、ここで思いっきり振り返り作業をして、ビジネスに磨きをかけることが、御社の将来にとっては最も有効なことであると思います。

株式会社フォー・レディー 代表
鯉渕登志子

「売れない理由」を探すのではなく、「選ばれる理由」をつくることが大切です。フォー・レディーは、ブランドの訴求点を整え、お客さまの声を起点にした仕組みづくりを通じて、御社と共に成長への道を描きます。

用語解説

  1. CPO(新規獲得単価)-1件の注文を獲得するためにかかった広告費用のこと。例えば広告費100万円で新規注文1,000件を獲得した場合、CPOは1,000円となる。 ↩︎
  2. CPR(反応単価)-1件の問い合わせ・資料請求・申込みなど、レスポンスを得るためにかかった広告費用。CPOより手前の段階での効果を測る指標。 ↩︎

深掘りQ&A

コロナ禍で売上を伸ばした通販化粧品会社は、具体的にどんな施策をしていたのですか?

多くは「新規獲得」よりも「既存顧客の育成」に注力しました。会報誌やSNSでのコミュニケーションを強化し、自宅時間に役立つ美容情報やお手入れの工夫を発信。安心や楽しさを提供することでファン層を逃さなかったのです。

「棚卸し」とは具体的に何をすることですか?

商品や広告施策を振り返り、「お客さまに何を届ける会社なのか」を改めて定義することです。ブランドコンセプト、顧客データの分析、コミュニケーションの方法を洗い出し、改善の優先順位を決めていきます。

今後の通販化粧品会社が特に取り組むべきテーマは何でしょうか?

「ロイヤル顧客の育成」が最重要です。新規獲得コストが高騰する中で、既存のお客さまを定期購入やクロスセルにつなげ、LTVを高める仕組みを整えることが持続的な成長につながります。

ABOUT US
株式会社フォー・レディー 代表 鯉渕登志子
日本大学芸術学部卒業後、アパレル業界団体にてファッション経営情報誌の編集に携わり、カネボウファッション研究所を経て、1982年に株式会社フォー・レディーを設立。これまで手がけた化粧品・ファッション通販企業は180社を超えます。一貫して「女性を中心とした生活者ターゲット」に寄り添い、消費者の実感から発想することを信条としています。 「自分が使って心から納得できるものを届ける」というポリシーのもと、コンセプト設計からクリエイティブ制作までを一貫して行っています。また、日本通信販売協会などでの講演実績も多数あり、生活者視点のマーケティングを広く発信しています。

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