「不要不急」から「なくてはならない」へ―ブランドづくりの第一歩

一時の流行や割引では、お客様の心は動かなくなりました。今、必要なのは、数ではなく“熱量”のある顧客を育てること。商品やサービスの存在理由を見つめ直し、ブランドとしての「想い」をどう伝えていくか――。アフターコロナを生き抜く鍵は、そこにあります。今回のコラムは、『日本流通産業新聞』1月21日号に掲載された「強い通販化粧品会社になるために 基礎講座Q&A vol.68」です。ぜひご覧ください。

日本流通産業新聞
通販・ネットビジネス・健康食品・美容業界などの最新動向を専門的に取り上げる業界紙です。実務に直結する情報を多角的に発信し、多くのビジネス関係者に支持されています。

忙しい人向け|対談で学ぶ〝「熱量」が逆境を跳ね返すブランド再生戦略〟

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共感と体験の積み重ねが、ファンを生む仕組みになる

通販化粧品会社 担当者

今、店頭販売と比較すると通販は各社とも大きく売り上げを伸ばしているようですが、化粧品通販である当社はあまり伸びていません。マスク生活でメーク商品が全く伸びていないことが響いています。新規顧客獲得も動いていません。今、何をしておくべきでしょうか。

日本通信販売協会の売り上げデータを見ても、食品と生活雑貨の売り上げは前年よりも大きく伸びていますが、化粧品や衣料品の伸び率はそれほどではありません。ステイホームの時期が長くなっていますので、食材や家具などのニーズが高まるのは当然と言えます。しかし、化粧品や衣料品はアイテムによって売り上げの格差が激しく変動しています。

新規顧客獲得にかかるコストが高くなっている割に、人数を獲得できないので、投資金額を回収するためには、長い期間が必要になっています。その半面、競合が激しくなっており、初回割引のサービス競争が響き、離脱するお客さまも多く、LTVは低くなる一方と言えます。

新規顧客獲得がなかなかうまくいかなくなった理由は、あまりに新規参入企業が多くなり競合が激化したこと、もう一方ではECが通販のメインメディアになったため、ECの新規顧客獲得の価格が上がったことなどが挙げられます。

ECの初期の段階から新規顧客獲得に取り組んできた企業と比較して、メリットが少なくなってきていると言えるでしょう。コロナ禍の下でその影響は大きくなっていると思います。いわばビジネスモデルをもう一度見直す時期に来ているのかもしれません。

通販化粧品はまず新規顧客獲得が成功しないと、採算が取れる規模まで到達しません。しかし新規顧客獲得のみに傾注し過ぎると、獲得したお客さまが、安定的に継続購入してくれる時代はすでに終了してしまっているので、収益の悪いビジネスになってしまいます。要は、ビジネスの基本に立ち戻って、バランスの良い運営をしていかなければなりません。

コンセプトを磨き、価値を伝える――LTV向上の第一歩

新規顧客獲得がうまくいかないのであれば、既存のお客さまのLTVを上げる以外に方法はありません。そのためには、お客さまに購入メリットや使い続けることのベネフィットをきちんと訴求できる「コンセプト」を明確に打ち出していくべきです。

その商品の存在理由を明確にすることで、他社とは差別化された唯一無二のポイントを打ち出し、お客さまが実際に使用してその価値を認め、コンセプト通りの効果を実感し価値を認めてくれたら、「不要不急の商品」ではなく、そのお客さまにとっては、「必要欠くべからざる商品」になると思います。 多くのお客さまでなくても、ファンとか、熱心な信奉者、エバンジェリストのようなものと考えても良いでしょう。

今こそ、心を動かすブランド体験を積み上げるとき

要はファンとしての熱量がどれだけあるかということです。

そして今は、そのような中心顧客、核となるお客さまを一人でも多く育成しておくべきでしょう。そんな方々にマイブランドとして、他の商品には代えられないブランド価値を発信できれば求心力は高まると思います。

ファンになってもらうべき価値を生み出すためには、商品開発だけではなく感動を与えるようなサービス、気分を上げるアート的表現なども必要でしょう。商品のポジショニングやコンセプトを明確にすることで、より明確なメッセージが表現できるようになります。

また、コンセプトが明確になることで、業務に関わるスタッフの目標が一つになり、さまざまな業務にも磨きがかかることでしょう。それはどんなビジネスでも同じことです。関わるスタッフの熱量が成功をもたらすのです。

思わぬ感動や、熱い気持ちを伝えることによってお客さまに「想い」が伝わり、心の底から、「私の好きな商品」だと感じてもらえるようになります。そして本当にお客さまのお役に立ち、感謝されるブランドになれば「不要不急商品」から脱出できます。

コロナ禍の下でもやるべきことはたくさんあります。アフターコロナを見据えて、将来のブランド価値を高める活動をしておくことが、今最もやっておくべきことだと思います。

株式会社フォー・レディー 代表
鯉渕登志子

フォー・レディーは、ブランドの存在理由を明確にし、お客様・商品・スタッフの想いをひとつに結ぶ戦略設計を行います。コンセプト開発からCRM施策、コミュニケーションデザインまでを一気通貫で支援し、ファンが育ち、企業が育つ“持続型ブランド経営”を実現します。

深掘りQ&A

「ファンづくり」は、どの企業でも必要な取り組みなのでしょうか?

どんな業種・規模の企業にも必要です。特に通販化粧品のように競合が多く、商品の機能差が小さい市場では、「どこで買うか」より「誰から買うか」「どんな想いに共感できるか」が購買を左右します。ファンづくりとは、単なるマーケティング施策ではなく、“企業の哲学をお客様に伝える活動”でもあります。

ファンを増やすには、どんな仕組みから整えるべきですか?

最初に見直すべきは“顧客データのつながり”です。DM、EC、LINE、コールセンターなど、バラバラになりがちな顧客接点を整理し、「一人のお客様の体験」として把握できる状態にすること。そのうえで、「どんなお客様を中心に育てたいか(核顧客像)」を定義すると、施策の方向性が定まります。

熱量を高めるために、どんなコミュニケーションが効果的ですか?

商品説明より、“気持ちに寄り添う発信”が効果的です。たとえば、会報誌やメールで「使う喜び」「開発者の想い」「お客様の声」などを丁寧に伝えると、共感や信頼が育ちます。特にアフターコロナ期は、人との関係を実感できる温かいコミュニケーションが、ブランドの差別化になります。

 スタッフの「熱量」を上げるには、どうすればよいでしょうか?

コンセプトの“共有”が第一歩です。自分たちが何を目指しているのか、どんな価値を届けたいのかが明確になると、日々の行動に一貫性が生まれます。社内の朝礼や社報などで「お客様の声」「成功事例」を共有し、社員一人ひとりが“自分の仕事が誰の笑顔につながるか”を実感できる環境をつくることが重要です。

ABOUT US
株式会社フォー・レディー 代表 鯉渕登志子
日本大学芸術学部卒業後、アパレル業界団体にてファッション経営情報誌の編集に携わり、カネボウファッション研究所を経て、1982年に株式会社フォー・レディーを設立。これまで手がけた化粧品・ファッション通販企業は180社を超えます。一貫して「女性を中心とした生活者ターゲット」に寄り添い、消費者の実感から発想することを信条としています。 「自分が使って心から納得できるものを届ける」というポリシーのもと、コンセプト設計からクリエイティブ制作までを一貫して行っています。また、日本通信販売協会などでの講演実績も多数あり、生活者視点のマーケティングを広く発信しています。

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