アフターコロナで強いブランドになるために ― 今こそ“弱点”を見直す時

コロナ禍によって、売上を大きく伸ばすことが難しい状況が続いています。しかし、その停滞の裏で、これまで見過ごされてきた「弱点」が浮き彫りになっている企業も少なくありません。アフターコロナの復活を見据えるなら、今こそその弱点を正直に見つめ直し、強いブランド体質へ変わるチャンスです。今回のコラムは、『日本流通産業新聞』11月19日号に掲載された「強い通販化粧品会社になるために 基礎講座Q&A vol.67」です。ぜひご覧ください。

日本流通産業新聞
通販・ネットビジネス・健康食品・美容業界などの最新動向を専門的に取り上げる業界紙です。実務に直結する情報を多角的に発信し、多くのビジネス関係者に支持されています。

忙しい人向け|対談で学ぶ〝コロナ禍をチャンスに「弱点を強みに変える」3つの戦略〟

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今こそ「弱点の棚卸し」―ピンチの時期こそ、ブランドを強くする好機

通販化粧品会社 担当者

コロナ禍の現在、何をしても売り上げを大きく伸ばすことは不可能です。だとすれば今の時期になにをしておくべきか、復活するときにどのような体質のブランドになるべきかを見越して、今やっておくべきことをアドバイスしてください。

コロナ禍において消費者の買い物行動が制限されるため、一見すると無駄と思えるもの、それほど関心がないものの消費が抑えられ、生活に必要不可欠なものと、ファンとしてどうしても欲しい必要度の高いもの以外は売れなくなっています。

そのため各社とも、コロナ禍の前から弱みや課題ではあったが、「先送り」して解決策を講じていなかった問題点が、より鮮明に顕在化しているように見えます。つまりコロナ禍で「弱点」が露呈しているのです。

その弱点を正直に認め、この時期だからこそ「ピンチをチャンスに」の発想で、解決に向けて動き出す会社は、アフターコロナで強い復活を果たすことになると思います。そのため当社では今の時期に「弱点を棚卸して、強い会社になってもらうべき対応策を提案」したいと考えています。

感覚ではなく“根拠”で見る―データと対話で課題をあぶり出す

例えば、徹底した数字分析をあまり行ってこなかった会社の場合、これまでの売上管理表とともにさまざまな視点でRFM1表などを出して、数字から現状の弱点を洗い出す作業をしましょう。単なる販売データだけではなく、商品開発に結び付くようなデータ分析まで行うことが重要です。

また、社内の部門ごとのコミュニケーションがあまり円滑ではなく、目的を共有できていない場合は、全社員アンケートと全社員参加のブレインストーミングを、繰り返し実施して問題点を抽出し、社員の問題意識と目指すべき方向性をまとめて、全員の目的を一本化させることが必要です。

“売る力”より“伝える力”、美容教育を再構築する

店頭販売に比較して、美容教育が不足している通販化粧品会社は、今こそ美容教育2に力を注ぐべきです。今後、通販化粧品会社でも「カウンセリング」ができない会社は、お客さまに支持されなくなるでしょう。コロナ禍のもとでウェブ接客などが高い人気が出たことを振り返ればよく分かりますが、お客さまは販売員のアドバイスを求めているのです。

そのため、販売員(カスタマー対応のスタッフ)には、ブランドとして統一された美容マニュアル(紙、ウェブ、動画を合わせて用意)などを整備し、美容メソッドを明確に教育するべきです。コロナ禍の時期を利用して、全社員の美容教育を徹底しましょう。

お客さまの声をブランドの力にし、ファンを育てる仕組みをつくる

徹底的にお客さまの声を吸い上げる仕組みができていない会社は、お客さまとのウェブミーティングなどを駆使して、グループインタビューや座談会、モニター会など、お客さま参加型企画をもっと多くしましょう。

通信販売ではどうしてもお客さまとの関係が希薄になりがちなので、意識してお客さまとの接点を多くしないと、熱いファンは育成できません。気が付いたときには、ライトユーザーの大集団だったというブランドもあります。

CRMの設計を徹底させて、ロイヤルユーザーは会報誌(紙、ウェブなど)でさまざまな企画を実施し、ファンコミュニティーを作りましょう。お客さま同士の「美容の井戸端会議」のようなものを作ることができれば、ファン作りは成功します。

そのようなファン組織を通じて、お客さまのインサイトに迫っていけば、お客さまのリアルな声を多く聞くことができます。しかもそれはロイヤルカスタマーの声なので、大変貴重な情報になります。

またファンが増えれば、新規顧客開発も容易になります。お客さま同士のやり取りもSNS上で展開されるようになり、場合によってはお客さま同士が、使い方など情報交換をしてくれるでしょう。それが拡散すれば、自然にブランドのユーザー体験が広まり、ロイヤルティーが高まります。またさまざまなコンテンツも生まれてきます。

このようにコロナ禍でもやるべきことはたくさんあります。アフターコロナを目指して、将来のブランド価値を高める活動をしておくことが、今こそ重要だと思います。

株式会社フォー・レディー 代表
鯉渕登志子

データ分析から美容教育、ファン育成まで――。お客様との関係性を見直し、アフターコロナで“選ばれるブランド”へ成長するための仕組みづくりを、私たちが伴走しながらご提案します。

用語解説

  1. RFM分析-「Recency(最新購買日)」「Frequency(購買頻度)」「Monetary(購買金額)」の3指標で顧客を分類・評価する分析手法。どの顧客が“優良顧客”か、“離脱予備群”かを可視化し、CRM施策の優先順位を明確にできます。通販企業では、定期顧客の維持やクロスセル・アップセル戦略の設計に欠かせない基礎分析です。 ↩︎
  2. 美容教育-販売員やカスタマーサポートスタッフが、ブランドの美容理論や商品特性を理解し、正しいアドバイスができるようにする教育活動。通販企業においても“非対面でのカウンセリング力”が問われる時代に不可欠な要素です。 ↩︎

深掘りQ&A

「弱点を棚卸しする」と言っても、どこから手をつければよいですか?

まずは「数字で見える課題」と「見えない課題」を分けて整理しましょう。前者はRFM分析や売上構成比などの“データ分析”で把握できますが、後者――つまり「なぜそうなったのか」は、現場スタッフの声から見えてきます。社内アンケートやオンライン座談会を組み合わせると、数字の背景が立体的に見えてくるはずです。

美容教育を進めても、すぐ売上に結びつかないのでは?

たしかに短期的な数字には現れにくいですが、顧客満足度の向上には直結します。「相談できるブランド」「信頼できるスタッフ」という印象が蓄積されることで、定期購入の継続率や紹介率が確実に上がります。教育投資は“LTVを高めるための先行投資”と考えるのがポイントです。

ファンコミュニティーづくりは、どの規模の企業でも実施可能ですか?

はい。むしろ規模が小さい企業ほど、熱量の高いファンを生み出しやすいです。
大切なのは「人数」よりも「関係性の質」。10人でも深くつながる仕組みがあれば、そこから口コミや共感の輪が広がります。SNSでの交流や小規模なオンライン座談会からでも、立派な“ファンコミュニティはつくれます。

ABOUT US
株式会社フォー・レディー 代表 鯉渕登志子
日本大学芸術学部卒業後、アパレル業界団体にてファッション経営情報誌の編集に携わり、カネボウファッション研究所を経て、1982年に株式会社フォー・レディーを設立。これまで手がけた化粧品・ファッション通販企業は180社を超えます。一貫して「女性を中心とした生活者ターゲット」に寄り添い、消費者の実感から発想することを信条としています。 「自分が使って心から納得できるものを届ける」というポリシーのもと、コンセプト設計からクリエイティブ制作までを一貫して行っています。また、日本通信販売協会などでの講演実績も多数あり、生活者視点のマーケティングを広く発信しています。

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