「通販の限界」を超えるために―中堅ブランドが今、備えておくべきこと

お客様が求める体験は、画面の向こうにとどまりません。通販に安心と共感を求める時代に、中堅ブランドが未来に向けて整えるべき“次の一手”とは。今回のコラムは、『日本流通産業新聞』2月11日号に掲載された「強い通販化粧品会社になるために 基礎講座Q&A vol.69」です。ぜひご覧ください。

日本流通産業新聞
通販・ネットビジネス・健康食品・美容業界などの最新動向を専門的に取り上げる業界紙です。実務に直結する情報を多角的に発信し、多くのビジネス関係者に支持されています。

忙しい人向け|対談で学ぶ〝コロナ後の「生き残り戦略」とLTVを高める顧客接点〟

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ブランドを磨き、体質を強くすることが生き残りの鍵

通販化粧品会社 担当者

アフターコロナに生き残るブランドの条件は、どんなことが考えられますか。これからも「通販化粧品」という業態のみで大丈夫でしょうか。また、今後のために、中堅企業ができる範囲と規模で、どんな準備をしておくべきなのか。アフターコロナに再び成長するブランドになるためのヒントがほしいです。

アフターコロナ時代に生き残るためには、まず今のビジネスをしっかり守る必要があります。業態に差はあっても、現在のコロナ禍を生き抜くためには、これまでの収益構造を維持し、強い企業体質を作っておく必要があります。

アフターコロナ時代は、しなやかで強い体質の会社しか生き残れないでしょう。そのため即変化に対応できる、強さと賢さが必要になってくると思います。強い体質を作るためには、これまで課題だと思いつつも先延ばししていたこと、目をつぶっていたことを総ざらいして適切な解決策を講じていくことです。つまりは、あらゆる場面で日常の業務を「カイゼン」していくことです。

これは経営者層だけの話ではありません。現場の社員も巻き込んで、全社員で業務の「改革・改善」をして体質強化をしておかないと、アフターコロナ時代に対応できないでしょう。

変わる購買行動に対応し、通販も「ショールーム化」を視野に

一方で、店頭販売のブランドはコロナ禍にあっても販売活動が滞ることがないように、非接触型の販売手法を取り入れ始めています。そして新たなサービスの仕組みを構築し始めています。世界中にワクチンが配布され、今回のコロナ禍が解消されても、人々の生活は完全に元に戻ることはないでしょう。

「ニューノーマル1」時代になると、今回開発されたサービスも引き続き継続していくと考えられます。いわば対面販売と非接触型のサービスが同じブランドの中で共存し、お客さまの都合によってサービスが選ばれるようになるでしょう。

通信販売はその逆で、「試したい」「触ってみたい」ニーズに応えるために、ショールーム的な機能を持つ店舗も必要になります。最近の購買行動として、店頭販売を入り口に通販購入へ移行したお客さまのLTVは、通販メディアが入り口のお客さまよりも高くなっているデータもあります。

つまり、これからはフル装備でお客さまに向き合わないと、アクセスの機会すら減ってしまうことになってしまいます。通信販売でも、「通販だけ」という業態に固執するのではなく、何か新しい手法を取り入れてほしいものです。

ブランドの原点を見直し、差別化の軸を明確に

この二つを実施したら、次は現在のビジネスの「棚卸し」をすることでしょう。他社との差別化ポイントを明確にして、自社のブランド価値を磨き上げることです。アフターコロナの時代は、本当に価値のある商品しか生き残れないと思います。何しろ消費者たちは、これまで消費していた商品は、実はなくてもそんなに困らないことを知ってしまったのです。

一方で本当に大事なもの、自分に不可欠なものは、どうしても手に入れたいと思うはずです。つまりお客さまに「選ばれるブランドになる」ことが、とても大切な時代になると予測されます。そのためにはブランドの目的やコンセプトを再度磨き上げて、価値を上げる必要があります。

ブランドを支えるのは「一人のカリスマ」ではなく「チームの力」

ブランド価値を高めるためには、ファンの仲間を作ることです。お客さまだけではありません。例えば身近な社員や関係者などステークホルダーたちも仲間です。そのような関係者全員の意識を一致させる「インナーブランディング」こそ、最も重要です。

関わるスタッフの意識や目的を統一することによって、常に複数の目で、「アイデアを探す」「役に立つことを見つける」などの行為が、ブランドの価値をさらに高めることになります。今日のブランディングは、1人のカリスマがつくり上げるものではありません。スタッフ全員が、あるいはお客さまも巻き込んだ「参加型」の仕組みを作ることこそ、強いブランディングの条件です。

そうすれば、お客さまの中にもファンが生まれ、エバンジェリスト2が生まれて、強い絆の輪が広がっていくことでしょう。

株式会社フォー・レディー 代表
鯉渕登志子

この数年、多くの企業様が“ブランドの原点を見つめ直す”時期を迎えています。フォー・レディーは、ブランドの想いを言語化し、お客様に“選ばれる理由”を一緒に作り上げていく伴走型のパートナーです。コロナ禍で止まった時間を、再び動かすお手伝いをいたします。

用語解説

  1. ニューノーマル-コロナ禍を経て生まれた「新しい生活様式」「新しい価値観」を指します。働き方や購買行動、ブランドとの接し方など、従来とは異なる基準が定着した時代のことを意味します。 ↩︎
  2. エバンジェリスト-ブランドや商品に強い愛着を持ち、周囲に積極的にその魅力を伝えてくれる“伝道者”のような存在。口コミやSNSでの発信を通じて、自然な形でブランドのファンを増やす役割を果たします。 ↩︎

深掘りQ&A

店舗を持たずに“リアル接点”は作れる?

常設店舗がなくても大丈夫です。期間限定のポップアップショップやイベント出展、他ブランドとのコラボ展示など、体験を通じて“ブランドに触れられる場”を作ることが大切です。

なぜ今、ブランド見直しが増えているの?

コロナ禍で広告や販売活動が制限され、「お客様に本当に必要とされる価値は何か」を問い直す企業が増えたためです。一時的な売上より、“共感”と“信頼”を軸にしたブランドづくりが重視されています。

ファンを増やすには何をすれば?

お客様の声や体験を積極的に発信し、共感を呼ぶストーリーを伝えること。会報誌やSNSでの登場企画、オンライン座談会など、お客様が“参加できる仕組み”がファン育成の近道です。

ABOUT US
株式会社フォー・レディー 代表 鯉渕登志子
日本大学芸術学部卒業後、アパレル業界団体にてファッション経営情報誌の編集に携わり、カネボウファッション研究所を経て、1982年に株式会社フォー・レディーを設立。これまで手がけた化粧品・ファッション通販企業は180社を超えます。一貫して「女性を中心とした生活者ターゲット」に寄り添い、消費者の実感から発想することを信条としています。 「自分が使って心から納得できるものを届ける」というポリシーのもと、コンセプト設計からクリエイティブ制作までを一貫して行っています。また、日本通信販売協会などでの講演実績も多数あり、生活者視点のマーケティングを広く発信しています。

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