「新成分配合」は、本当に売上アップにつながるのか?

新しい美容成分を配合した化粧品が次々に登場しています。「うちもそろそろリニューアルを」と考える企業も多いでしょう。確かに「新配合」「最新成分」といった言葉は響きがよく、話題性も抜群です。しかし、本当にお客さまにとって価値のある変化になっているでしょうか。今回のコラムは、『日本流通産業新聞』3月18日号に掲載された「強い通販化粧品会社になるために 基礎講座Q&A vol.70」です。ぜひご覧ください。

日本流通産業新聞
通販・ネットビジネス・健康食品・美容業界などの最新動向を専門的に取り上げる業界紙です。実務に直結する情報を多角的に発信し、多くのビジネス関係者に支持されています。

忙しい人向け|対談で学ぶ〝新成分導入の落とし穴とロングセラーを磨き続ける戦略〟

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ロングセラーを進化させる鍵は、新成分よりも“意味のある改良”

通販化粧品会社 担当者

最近新しい美容成分を配合した新商品や既存商品のリニューアルが相次いでいます。わが社も新成分を配合した商品を開発すべきかどうか迷っています。「新美容成分を配合した〇〇」など、新発売やリニューアルの記事が目立つので気になっています。わが社は発売から10年目となるロングセラーの看板商品があるので安定はしているのですが、何か新しい成分配合の商品を出すべきでしょうか。

通販で化粧品を売っていると、分かりやすい成分訴求や簡単なお手入れ方法などをアピールするだけで、レスポンス率が高くなることはよく経験することです。そのため、大型の新成分が発売されれば気になってソワソワする気持ちはよく分かります。

しかし、これまで業界内で大型の新成分として話題にあがった商品でも、なかなかヒットに結び付かなかった例はたくさんあります。成分名をアピールするだけで一般の女性たちがその効果効能をイメージできるのは、本当によく知られた成分だけです。

特別に美容が大好きなお客さまは別として、一般の女性が「美容成分としての認識を持っている」と調査で回答しているのは、コラーゲン、ヒアルロン酸、プラセンタ、ビタミンC、セラミドなどの成分で、その後に続く成分名をあげる人はごくわずかです。

もちろん原料メーカーも新成分発売時に大型なプロモーションを行いますので、業界内では大きな話題になります。また通販の場合は成分名を入れて「新配合」とするだけで、売り上げが上がることもあります。しかしそれは一時的な現象に過ぎないと思います。

つまり新しい成分が話題になっているからといって、すぐに取り入れてロングセラー商品をリニューアルしてしまうのは、少し慎重に考えた方がよいと思います。

新成分導入は、広告目的ではなくブランド価値向上のために

まずは、その成分が自社のブランドコンセプトに合っているかどうか、新成分が配合されることで使ってくれているお客さまがどんなメリットを享受できるのかを先に考えるべきです。広告宣伝の文言に組み込む目的で導入するのは、本来の姿ではありません。まずは効果効能の面でお客さまの便益を最初に考えるべきです。

次に自社のブランドのコンセプトや、これまでの美容の考え方と齟齬がないかどうかも検証すべきでしょう。その上で導入するべきと判断した場合は、新成分が配合されたことで、リニューアルされた商品は、これから先も人気商品であり続けることができるでしょうか。その点も考えておくべきです。

人気成分を配合したというだけでは意味がないと思います。人気成分を配合したら、さらにレベルアップして、もう一度ロングセラーの道を歩み出すくらいの価値を生み出したいものです。

ロングセラーを守るのは“コンセプトに基づく進化”

長い間、人気の商品があることはありがたいことですが、ロングセラー商品にも問題は多くあるはずで、今日の化粧品の進化に追い付いておらず、原料や処方が古いために、お客さまから「古いブランドだ」と思われてしまうこともまた事実です。

圧倒的な支持者が存在するにもかかわらず、衰退が始まっている商品もあるはずです。そのような商品は、新成分の登場に関係なく、常に進化させるブラッシュアップの方法が必要なのではないでしょうか。

その中で、新成分がコンセプトに合致するものであれば導入すべきでしょうし、方向性が異なるものであれば、別の方法でブラッシュアップすべきだと思います。つまり大切なことは、新成分を導入したことでお客さまの便益が増すのか、単なる広告宣伝のためなのかで導入の意味が変わってくると思います。そして今日のお客さまは、そのような開発者の思惑を敏感に感じ取り、自分に利益のない新商品やリニューアルには動かされないものです。

お客さま自身も進化して賢くなっているので、「〇〇成分配合」だけでは飛び付かなくなっています。例えば、トライアルとして1個くらいは購入しても、自分自身の肌実感が伴わない商品を購入し続けることはないのです。 

株式会社フォー・レディー 代表
鯉渕登志子

化粧品の世界は常に進化しています。けれど、本当にお客様の心を動かすのは、流行ではなく、そのブランドが貫いてきた想いです。フォー・レディーは、その“らしさ”を見つめ直し、時代に合わせて磨き続けるお手伝いをします。

深掘りQ&A

ロングセラー商品を見直すタイミングは、どう判断すべき?

「売上が下がってから」では遅い場合が多いです。むしろ、お客様が離れる前に“気配”を察知することが大切。たとえば、アンケートの自由記述欄に「昔からあるけど、最近は買っていない」といった声が増えたらサインです。新成分導入を検討するより前に、まずは既存ユーザーの満足度や不満点を丁寧に拾い直すことが最初の一歩になります。

“意味のある進化”を実現するには、何から始めればいい?

.一番の近道は、お客様の「変わらない悩み」と「変化している期待」を明確にすることです。市場がどう変わっても、お客様が求めている根本的な価値(安心感・信頼・美しさの実感など)は大きくは変わりません。そこに“今の時代にふさわしいアプローチ”を掛け合わせるのが「意味のある進化」です。フォー・レディーでは、グループインタビューや座談会を通じて、お客様の声から次のブランドの方向性を一緒に導き出しています。

ABOUT US
株式会社フォー・レディー 代表 鯉渕登志子
日本大学芸術学部卒業後、アパレル業界団体にてファッション経営情報誌の編集に携わり、カネボウファッション研究所を経て、1982年に株式会社フォー・レディーを設立。これまで手がけた化粧品・ファッション通販企業は180社を超えます。一貫して「女性を中心とした生活者ターゲット」に寄り添い、消費者の実感から発想することを信条としています。 「自分が使って心から納得できるものを届ける」というポリシーのもと、コンセプト設計からクリエイティブ制作までを一貫して行っています。また、日本通信販売協会などでの講演実績も多数あり、生活者視点のマーケティングを広く発信しています。

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