紙媒体はもういらない?それとも、いまこそ必要?

ウェブ広告やSNSが主流になり、「紙はもう古い」と言われる時代。確かにコストやスピードを考えれば、デジタル中心の判断は合理的です。それでも、ブランドの想いや温度を伝えるとき、紙ならではの力があるのも事実。通販企業がいま考えるべきは、「紙か、ウェブか」ではなく――どう活かし合うか、ということではないでしょうか。今回のコラムは、『日本流通産業新聞』4月22日号に掲載された「強い通販化粧品会社になるために 基礎講座Q&A vol.71」です。ぜひご覧ください。

日本流通産業新聞
通販・ネットビジネス・健康食品・美容業界などの最新動向を専門的に取り上げる業界紙です。実務に直結する情報を多角的に発信し、多くのビジネス関係者に支持されています。

忙しい人向け|対談で学ぶ〝紙媒体は「コスト」ではなく「武器」だった?〟

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紙をやめるかではなく、どう活かすかが通販の分かれ道

通販化粧品会社 担当者

今まで紙のDMや会報誌を作っていましたが、印刷費や送料がかかることもあり、今後はやめようと思っています。また、会報誌は直接売り上げに貢献していないように見えるし、社内のリソースも足らず、最近のお客さまは紙媒体など読んでいないのでは、と思っています。

まず結論から言うと、紙とウェブの両方をやるべきです。通販事業の売り上げ拡大には、オフラインとオンライン、両方のコミュニケーションを組み合わせて相乗効果を狙うのが鉄則です。

事業規模が小さいうちは、ウェブ媒体のみで新規顧客を獲得することが多いですが、商品送付時にブランドの世界観や商品情報を伝える同梱ツールは必須です。特に女性の美しくなりたいという欲求に応えるスキンケア商材は、商品を使うことによって実現する未来のゴールイメージを提示しないと使い続けてもらえません。

ある程度、新規顧客が獲得できるようになったら、ロイヤル顧客を増やすために会報誌などのコニュケーションツールを始めるタイミングです。印刷効率などを考えると顧客数が3,000人を超えたくらいでスタートするとよいでしょう。ただし、紙媒体だけ、ウェブだけ、というバラバラのコミュニケーションでは、お金をかけてもそれに見合った効果を得られません。両方の媒体を組み合わせることで、双方の特性が生かせるのです。

紙とデジタルの“掛け合わせ”が成果を生む

紙媒体とウェブの相乗効果については、各種の調査結果でも明らかです。同じターゲットに対して「紙のDMだけを送る層」「メールだけを送る層」「紙のDMとメールを組み合わせて送る層」で比較検証したところ、「メールだけ」「紙DMだけ」よりも「紙DM+メール」の方が、クリック率が高かったそうです(日本郵便調べ)。

また、別の調査ではCV率についても違いが出ました。紙のカタログを送付した場合とメールでデジタルのカタログを送付した場合では、LPサイトへのCTRにはそれほど大きな差は出なかったが、CVには大きな差があったそうです。

紙のカタログを送付したお客さまは、デジタルカタログを送付したお客さまに比べ、17倍以上のCVとなったとの結果が出たそうです(日本郵便調べ)。このことから、紙のカタログを受け取ったお客さまは、購買意欲が比較的高い状態でLPにアクセスしていたと推測できます。このように、今でも紙のDMが、お客さまの購買行動を後押しする大きな力を持っていることは確実です。

もちろん紙媒体は印刷費や送料など部数を増やすほどコストがかかります。対策としては、顧客ランクによって送付ボリュームに差をつけることをお勧めします。

例えば会報誌なら、長く愛用してくれているロイヤル顧客を中心に送りましょう。会報誌はブランドの世界観を伝えるのに有効で、自社のファン作りに力を発揮するからです。ライト層にはページ数を減らして送る、ウェブでのコンテンツ提供のみにする、などの手段で費用を削減するのもよいでしょう。

紙をやめる前に、“売れる会報誌”の条件を見直そう

ちなみに、会報誌の送料を削減するために商品同梱で送る企業もありますが、そうすることで期間限定キャンペーンが行いづらくなり、会報誌で売り上げを作ることが難しくなります。ファンとのコミュニケーションだけが目的になってしまうと、コストのかかる会報誌を送り続けるのは不可能です。目先の送料コストを生み出すためにも、「売れる会報誌」を送る必要があるのです。「会報誌が届いたら商品を買う」ことを習慣付ける、つまり「お金を払う」ことで、お客さまはますますファンになるのです。

新規の紙媒体広告についても、いきなりウェブに切り替えて紙媒体を一切やめてしまうのは危険です。お客さまの世代にも左右されますが、ある得意先では、紙媒体をやめたことで新規獲得はもちろん既存顧客の継続率も10~15%程度減ったとか。お客さまの心理として「勢いのあるブランドを使いたい」と思う人が多く、露出が少なくなると「このブランド、人気がないのかしら?」と不安に感じるようです。

このように、ウェブ上でのコミュニケーションが主流になった現在でも、紙媒体の力は健在です。ただし、かけた費用に見合った効果が出るかは、コンテンツの内容や表現の品質、送付タイミングによって変わってきます。

通販事業の良いところは、行った施策の結果がデータとして蓄積できるところ。過去の事例から導き出されたセオリーがあるとはいえ、自社の商品特性や顧客の行動パターンに合わせてテストしてみることが、自社らしい成功の近道と言えるのではないでしょうか。

株式会社フォー・レディー 代表
鯉渕登志子

お客さまとの関係を深めるためのツールは、単なる「紙」や「デザイン」ではなく、コミュニケーションの設計そのものです。フォー・レディーでは、会報誌やDMといった制作物の企画・制作にとどまらず、お客さまとの関係性をどのように築き、どう育てていくかという視点から、最適な活用ツールのご提案をしています。

深掘りQ&A

なぜ紙媒体をやめる企業が増えているのですか?

デジタル広告やSNSは即効性があり、成果を数値で追いやすいからだと思います。一方で、紙媒体は「効果が見えにくい」「コストが高い」と誤解されがちです。しかし、紙の効果は“短期の反応”ではなく、“長期の関係づくり”に表れます。成果の見え方が違うだけで、目的を明確にすれば十分に費用対効果を出せます。

会報誌で「売れる」かどうかは、何が決め手になりますか?

デザインや誌面の豪華さではなく、“お客さまの行動を変える一言”があるかどうかです。「次のキャンペーンが楽しみ」「また読もう」と感じさせる仕掛けがある会報誌は、自然と購買につながります。特集企画・登場人物・タイミングの3つが鍵になります。

ABOUT US
株式会社フォー・レディー 代表 鯉渕登志子
日本大学芸術学部卒業後、アパレル業界団体にてファッション経営情報誌の編集に携わり、カネボウファッション研究所を経て、1982年に株式会社フォー・レディーを設立。これまで手がけた化粧品・ファッション通販企業は180社を超えます。一貫して「女性を中心とした生活者ターゲット」に寄り添い、消費者の実感から発想することを信条としています。 「自分が使って心から納得できるものを届ける」というポリシーのもと、コンセプト設計からクリエイティブ制作までを一貫して行っています。また、日本通信販売協会などでの講演実績も多数あり、生活者視点のマーケティングを広く発信しています。

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