通販だけでは届かない“体験”がある。今こそ店舗を持つ時

通販で着実にファンを増やしてきた化粧品ブランドが、いま「店舗」を持つ動きを見せています。デジタルの便利さが進むほどに、リアルな体験の価値が高まっている――。その背景には、購買行動やブランドとの関係性に起きた、大きな変化があります。今回のコラムは、『日本流通産業新聞』9月23日号に掲載された「強い通販化粧品会社になるために 基礎講座Q&A vol.75」です。ぜひご覧ください。

日本流通産業新聞
通販・ネットビジネス・健康食品・美容業界などの最新動向を専門的に取り上げる業界紙です。実務に直結する情報を多角的に発信し、多くのビジネス関係者に支持されています。

忙しい人向け|対談で学ぶ〝「オンラインか店舗か」の時代は終わり!〟

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通販で育ったブランドが、“リアルの力”を手に入れる時

通販化粧品会社 担当者

通信販売でスキンケア化粧品を販売して10年目になります。最近あるショッピングセンターから「直営店舗を出さないか」とお話があり検討しています。店舗運営の経験がない中、どうしたらいいか迷っています。

通販化粧品の会社が”店舗”を持つことはずいぶん前から行われていますが、そのほとんどは規模が大きくなってから出店する、というイメージでした。ところが最近は創業して1~2年で店舗を持つような会社も出てきています。

また、店販と通販の両方で運営してきた大手の中には、創業は通販からスタートした会社でも、現在では店舗の売り上げの方が大きくなっている会社も出てきています。ただし、コロナ禍に突入してからは少し様相が異なって、通販に揺り戻しが来ているようです。これも通販の仕組みを持っていることで、店舗専売メーカーよりも有利に動いているということでしょう。

いずれにしても、これからは通販と店販の境目はなくなると考えられます。コロナ禍の前から、ウェブショッピングの台頭、店頭のショールーム化はいわれてきたことですが、コロナ禍に突入して、それが一気に加速化したようです。

通販も店販も、“どちらか”ではなく“どちらも”の時代へ

コロナ禍に突入する以前は、店舗で買うか、通販で買うか、お客さまの好みで分かれていました。すなわち「私はお店で買いたい」というお客さまは、店頭に行って商品を見て、販売員に説明を聞いて購入するスタイルが身に付いているお客さまでした。

逆に通販で購入するお客さまは電話でも、ウェブでも、紙媒体でも、「私は販売員と対面するのが煩わしいから、便利な通販」「私の好きな商品は通販でしか売っていないので」などの理由で通販を選んでいました。

ところがコロナ禍を経験して、非接触販売が推奨されると同時に、キャッシュレスや宅配便の充実、また購入する前にネット検索が当たり前という消費行動が定着しつつあります。そのため店舗販売の会社でも、通販的な仕組みを取り入れ、ネット検索に対応し、ウェブで接客したり、商品を宅配するサービスを始めています。これはもう通販と全く同じ販売スタイルです。まして会ったこともない通販のオペレーターより、店舗で顔見知りになっている販売員が対応してくれるのですから、安心感が違います。

つまりこれからのニューノーマルな価値観の中では、調べるのはネット検索、直接実物を見たい場合は店舗で、買い物は便利な通販で、などとさまざまなルートからアクセスできる窓口がないと、お客さまに選ばれないという事態になってしまうのです。

リアルの場には、ウェブでは伝えきれない力がある

そんな世の中が現実になってきているのですから、チャンスがあればぜひ店舗を持つべきです。特に卸販売ではなく、ショッピングセンターの中で、直営店として出店するならば、通販と店販のお客さま名簿を共有化することも可能でしょうから、将来店販と通販を融合させる戦略もできるでしょう。

これまで未経験の「店舗を出店」するということで、出店に関わるコストや社員の教育費などを考えると、大きな投資が必要かもしれませんが、将来的に必ずその経験が役立つと思います。

コロナ禍を経て、私たちが学んだことは、「人は、他人と交わることがいかに大切で、人生の喜びに直結している」ことです。単にウェブや音声でつながるだけでなく、空間を共有し五感でつながることがいかに大切だったか、対面することが少なくなって、身にしみて感じたはずです。

店舗に一足踏み入れば、空間演出やビジュアル表現でブランドの世界観を感じることができ、高揚する気持ちも体感できます。これはウェブや電話やテレビや紙媒体の情報量よりも圧倒的に膨大な情報量です。しかも、店舗では実物を見て、触れてから購入できるのです。対面接客は多くの情報伝達が可能なのです。また、店舗のメリットとしては、お客さまのお顔を見ながら「ヒアリング」ができます。これは貴重な情報収集の機会でもあります。

勝敗を決めるのは、販売形態ではなく“ブランドの力”

店頭販売でビューティーアドバイザーに接客してもらったお客さまが、そのあとウェブ通販で購入した場合、一般の通販のお客さまより、継続率が長くなったり、LTVが高くなったりというデータもあります。これからは、通販か店販かという販売形態の違いの影響はだんだん薄れていくと考えられます。

要は、その商品がお客さまにとって必要なブランドなのかどうかという、ブランドの主張や機能が支持されるかどうかが、大切になってくると予測されます。そのためにも販売業態は、どのような方法でも情報発信できる「フル装備1」が必要だと思います。

株式会社フォー・レディー 代表
鯉渕登志子

これからの時代に必要なのは、“どこで売るか”ではなく、“どう伝えるか”。通販でも店販でも、お客さまが心から共感できるブランド体験を届けることが、長く選ばれる企業の条件になっていくでしょう。フォー・レディーは、通販・店販を問わず、ブランドの価値を最大化するコミュニケーション戦略を提案します。

用語解説

  1. フル装備の情報発信-通販・店販・ウェブ・SNS・会報誌など、あらゆるチャネルを活用して一貫したブランドメッセージを発信すること。販売経路の多様化が進むなか、どの窓口でも同じ世界観を体感できる状態を意味する。 ↩︎

深掘りQ&A

通販会社が店舗を出すメリットは何ですか?

一番のメリットは、“お客さまの声を直接聞ける”ことです。リアルの場では、実際に手に取って試す様子や、言葉にしにくい反応からも多くのヒントを得られます。これはアンケートやデータ分析だけでは分からない「感情データ」です。その声を通販施策や商品開発に還元することで、LTV(顧客生涯価値)の向上につながります。

どんな形態の店舗から始めるのが現実的ですか?

常設店舗にこだわらず、期間限定ショップ(POP UP)やSC内インショップからのスタートも有効です。まずは接客体験やお客さまの反応をテストし、得られたデータを次の出店戦略に活かすことをおすすめします。

フォー・レディーはどんな支援ができますか?

出店そのものの企画から、店頭販促物・会員育成ツールの設計まで、通販とリアルを融合させたコミュニケーション設計を行います。特に、店舗で得た顧客の声を通販施策に活かす「リアル連動型CRM」や、ブランド体験を統一するツールデザインなど、現場起点の支援が得意です。

ABOUT US
株式会社フォー・レディー 代表 鯉渕登志子
日本大学芸術学部卒業後、アパレル業界団体にてファッション経営情報誌の編集に携わり、カネボウファッション研究所を経て、1982年に株式会社フォー・レディーを設立。これまで手がけた化粧品・ファッション通販企業は180社を超えます。一貫して「女性を中心とした生活者ターゲット」に寄り添い、消費者の実感から発想することを信条としています。 「自分が使って心から納得できるものを届ける」というポリシーのもと、コンセプト設計からクリエイティブ制作までを一貫して行っています。また、日本通信販売協会などでの講演実績も多数あり、生活者視点のマーケティングを広く発信しています。

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