リニューアルの落とし穴——“新しさ”だけでは支持されない理由

売上の停滞をきっかけに、主力商品のリニューアルを検討する企業は少なくありません。しかし、安易な刷新は、長年のファン離れを招くことも。新しさを追う前に見つめ直すべきは、「なぜ変えるのか」という原点です。今回のコラムは、『日本流通産業新聞』11月4日号に掲載された「強い通販化粧品会社になるために 基礎講座Q&A vol.76」です。ぜひご覧ください。

日本流通産業新聞
通販・ネットビジネス・健康食品・美容業界などの最新動向を専門的に取り上げる業界紙です。実務に直結する情報を多角的に発信し、多くのビジネス関係者に支持されています。

忙しい人向け|対談で学ぶ〝新成分導入の落とし穴とロングセラーを磨き続ける戦略〟

忙しくてなかなか文章を読む時間がない方向け、スキマ時間に聞くだけで学べる音声版をご用意しました。

時代に合わせることは大切。けれど「なぜ変えるのか」を伝えている?

通販化粧品会社 担当者

弊社の主力スキンケアラインの売り上げが落ちてきているため、そろそろリニューアルした方がいいのではと考えていますが、昔からの愛用者さまが多いので、”反発”の心配もあります。リニューアルを成功させる秘訣を教えてください。

多くの通販化粧品会社では、3~5年程度の頻度で何らかの小さなリニューアルをしているようです。理由はさまざまですが、多くはお客さまからの”要望の声”がもとになっていることが多いようです。

例えば、「容器が開けにくい」「テクスチャーがベタベタする」「すぐに効果を実感できない」などの声に対応してリニューアルする場合は、その理由を丁寧に説明することで、リニューアルを好意的に受け止めてもらえるようです。

しかし、「新成分を配合して新客獲得の広告を強く打ち出したい」「容器コストを抑えたい」など会社側の事情でリニューアルに踏み切る場合、会社の都合だけではなく、既存のお客さまのメリットを考えなくてはなりません。時代のニーズに合わせたリニューアルは必要ですが、目的をしっかりと見極めた上で進めたいものです。

つまり、何のためにリニューアルするのかという「Why(なぜ)」が最も大事だと思います。リニューアルの最大の目的は、「お客さまの便益」を強化することのはずです。リニューアルによって、お客さまがどんな満足、効果、利便性を得られるかが一番重要です。

話題性を取るためとか、イメージを上げるためとか、コスト削減とか、それも大事な理由には違いありません。しかし一番目の理由ではありません。やはりリニューアルは、お客さまの「キレイを実現するため」を中心に据えて行うべきです。

ファン離れは、コミュニケーション不足から起こる

多くの会社のリニューアル広告を見ていると、時々”リニューアルがお客さまに与える影響”をやや軽視しているのではないか思うことがあります。特にスキンケア商品は、その商品を愛用している既存顧客が多ければ多いほど、リニューアルによってファンの心が離れるリスクも大きくなります。お客さまは、使い慣れた愛用品のテクスチャーが少し変わっただけでも、「私の化粧品ではなくなってしまった」と感じるようです。

通販化粧品会社のお客さまに話をうかがうと、「本当は前の商品の方が好きだった。なぜ変えてしまったのか。前の商品を復活してほしい」という声を耳にすることがあります。これはリニューアル時のコミュニケーションが十分でなかったということでしょう。

「伝える」だけでなく、「一緒に進める」リニューアルへ

通販化粧品はお客さまと定期的にコミュニケーションを取る手段を持っているのが大きな利点です。会報誌やメルマガなどの定期刊行物で「なぜリニューアルするのか」時間をかけて丁寧に伝えることもできるはずです。

例えば、徐々に情報を開示する告知方法。人気商品としてファンの声を紹介→あえて要望や意見も公開→さらに良い物にするためにリニューアル決定→予告発表→リニューアル詳細発表、というようにお客さまの声からスタートし、段階を踏んだ告知なら、愛用品が変わってしまうという不安も払しょくし、改良への期待感を高めることもできるでしょう。

また、開発段階で愛用者さまに試用モニターを依頼するなど、リニューアル施策にお客さまを巻き込むことも、成功の秘訣です。お客さまは自分の意見が取り入れられることで、「自分たちも改良に参加している」という参加意識が高まります。

“最も大切なお客さま”への誠実さが、リニューアル成功を決める

定期購入利用者が多い商品の場合は、さらに慎重を期す必要があります。都度買いのお客さまに比べLTVが高く、ファン意識も高い定期顧客は、最も大切にするべき存在だからです。定期便で自動的に送られてくる愛用商品が、いつの間にか変わっていたなどという事態は、お客さまのショックも大きく、離脱の原因になってしまうこともあります。

定期顧客に対しては、都度買いの一般会員に先駆けてDMを送り、先行してサンプルを送付するなど、誠実で丁寧なコミュニケーションをするべきです。それによってお客さま自身も「自分は大切にされているお客さまなのだ」という意識が生まれ、さらにブランドへの愛着が高まることでしょう。

リニューアルは、自社の商品がお客さまの求めるものとずれていないか、を問い直す良い機会です。成分や処方をハイスペックに改良することも大切ですが、それだけはお客さまに受け入れられるリニューアルにはなりません。

「なぜリニューアルするのか」を十分に検討し、お客さまのインサイトを研究したりするなど、じっくり取り組むことで、成功するリニューアルになるはずです。

株式会社フォー・レディー 代表
鯉渕登志子

フォー・レディーは、数多くのリニューアル告知を支援し、成功も失敗も見てきました。だからこそ、「大切なお客さまにどう伝えるか」を誰よりも理解しています。リニューアルの想いを丁寧に届ける方法、私たちにお任せください。

深掘りQ&A

リニューアルのタイミングは、どのように見極めればいいですか?

売上だけで判断するのは危険です。お客さまアンケートや問い合わせ内容、SNSでの声などに「不満」ではなく“期待”が見えるとき――たとえば「もっと浸透しやすくなれば」「香りが選べたら」など、前向きな声が増えたときがリニューアルの好機です。数字よりも「お客さまが次の進化を望んでいるかどうか」が判断基準になります。

リニューアルで“失敗”してしまう一番の原因は?

「社内目線」で完結してしまうことです。開発・営業・マーケティングがそれぞれの目的で動き、「なぜ変えるのか」が一本に通っていないケースが多いです。お客さまが知りたいのは“変更点”ではなく、“なぜ変えるのか”。ここが曖昧なまま発売日を迎えると、ファンの不信感につながります。

定期顧客への告知で特に気をつけるべきことは?

「先に」「特別に」「丁寧に」の3ステップです。最もブランドを支えてくれている定期顧客には、一般告知よりも早く、特別感のある形(先行DM・サンプル送付など)で伝えることが大切です。“自分たちは特別に扱われている”という実感が、ブランドへの愛着を深めます。

ABOUT US
株式会社フォー・レディー 代表 鯉渕登志子
日本大学芸術学部卒業後、アパレル業界団体にてファッション経営情報誌の編集に携わり、カネボウファッション研究所を経て、1982年に株式会社フォー・レディーを設立。これまで手がけた化粧品・ファッション通販企業は180社を超えます。一貫して「女性を中心とした生活者ターゲット」に寄り添い、消費者の実感から発想することを信条としています。 「自分が使って心から納得できるものを届ける」というポリシーのもと、コンセプト設計からクリエイティブ制作までを一貫して行っています。また、日本通信販売協会などでの講演実績も多数あり、生活者視点のマーケティングを広く発信しています。

BACK TO INDEX