「対応の差」がブランドの差になる。――通販接客の落とし穴

お客さま対応において、同じ質問をしてもスタッフによって返答が違う──。そんな経験をしたことはありませんか。いま、通販企業に求められているのは、スキルや知識の差を埋める「統一された接客方針」です。対応のばらつきが信頼を揺るがす今、企業はどこから見直すべきなのでしょうか。今回のコラムは、『日本流通産業新聞』12月2日号に掲載された「強い通販化粧品会社になるために 基礎講座Q&A vol.77」です。ぜひご覧ください。

日本流通産業新聞
通販・ネットビジネス・健康食品・美容業界などの最新動向を専門的に取り上げる業界紙です。実務に直結する情報を多角的に発信し、多くのビジネス関係者に支持されています。

忙しい人向け|対談で学ぶ〝企業風土・情報共有・対応から学ぶ「神接客」の極意〟

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お客さまの安心感を生むには、方針の共有が欠かせない

通販化粧品会社 担当者

お客さまからのクレームが少なくなりません。日々対応に追われるばかりです。当社はシニア層をお客さまにしている通販化粧品会社ですが、そのため電話対応とウェブ対応の両方が求められ、社員のスキルもなかなか追い付いていないのが現状です。満足度の高い接客ができるようになる秘訣があれば教えてください。

先日、あるコールセンター会社が発信しているメルマガを読み、本当に不当なクレームで言いがかりをつけてくるお客さまが多くなっていると思いました。

コロナ禍になってお客さまもストレスのはけ口として感情をぶつけてきているケースも多いように思います。そのようなお客さまに対して、冷静で誠実な対応をしているコールセンターのスタッフには頭が下がる思いです。

しかし、振り返ってみれば、通販会社の方も十分な対応ができている会社ばかりではないと思います。私が個人的に購入している通販会社も、時に不思議な対応や、お客さまに対する思いやりが不足していると思う対応に遭遇することがあります。

最近経験したことでも、いくつか疑問に思うことがありました。一つは対応するスタッフによって、情報の提供内容が異なった事例です。あるデジタル機器メーカーに電話で問い合わせをしたところ、最初の問い合わせ時には「在庫がなくなることがあるので、ウェブで早めに注文をしてほしい」と言い、ウェブ注文が嫌いな私の都合も聞かず「ウェブでしか受け付けていない」と念を押されました。

しかし、2回目の問い合わせに対応してくれたスタッフは「お客さまの問い合わせの商品は、定番品なので在庫が切れることはほぼありません」と回答。商品が欲しい日程を伝えると、「何日ごろまでにまたお電話でご注文を!」と明確に伝えてくれました。スキルの違いからヒアリング内容で差が出たのかもしれませんが、2回目の対応でシニア層を思いやる言葉に安心し、そのブランドに対する不信感が増大するまでには至りませんでした。

固定客として会員登録している通販会社では、何度も同じ説明をしなければならないとことが面倒に感じるときがあります。前回の注文の際に話したことが次回の担当者に共有されていないのです。一度使わないと断った商品を複数回薦められたり、お届け方法の指定を何度も説明させられたり、時々こちら側の都合を記録していないのではないかと思うことがあります。これはカスタマースタッフの責任ではなく、会社の情報共有の仕組みの問題だと思います。

“マニュアル外”の対応にこそ、企業の姿勢が表れる

また、一番トラブルのもとになるケースは、マニュアル通りではないイレギュラーな対応をお願いしたときです。私はフルタイムで働いているため、通販商品を受け取る日時を毎月の最終日曜日の最終時間帯と決めています。ほとんどの買い物、親族からの荷物もここに集中させています。ところが定期便サービスでこの配送指定が難しい会社や、ウェブ注文で日付ではなく曜日指定配送をできるシステムがないところも多いようです。そのため定期便で買い物をするときは、毎回、配送方法のお願いをすることに大変苦労します。

先日、FAX注文書の欄外に先のお願いを記載して送信したところ、完全に無視されて配送してきた会社がありました。一方、ある会社は、携帯電話に「ご注文通りに発送させていただきます」と丁寧に留守録を残してくれていました。つまり先の会社は、イレギュラーな対応についてスタッフに十分浸透しておらず、後の会社はサービスとは何かが社内に浸透しているのだと思います。

一言の対応で、お客さまの信頼は失われる

極めつけは、私の友人が、ある会社の美容相談にお電話したときのこと。友人は、二つのブランドの中で、どちらが自分の肌悩みに合った化粧品なのかを確認したいため、コールセンターの対応スタッフに尋ねていたのですが、なかなか説明に納得できず、どちらにするか迷ってしまったようです。そのため電話口で悩む時間が少し長くなってしまったところ、通販会社のスタッフから「では、今日はよろしいですか?」と言われ、注文せずに終わったとのこと。本気で購入するつもりだったのに、相手から終話されて、思わず買う気が失せたようです。

販売促進を仕事にしている私たちからすると、1人のお客さまからのお問い合わせを取るために、日々苦労しているにもかかわらず、受け手のスタッフが、自ら終話したことを聞いてショックを受けました。

これではファンを増やすどころか、お客さまを失っています。このようなスタッフ一人一人の小さな行為がお客さまの怒りを誘うこともあるということを、私たちは謙虚に受け止めなくてはならないと思います。

株式会社フォー・レディー 代表
鯉渕登志子

私たちフォー・レディーは、ブランドの想いをお客さまに届けるために、「伝え方」「仕組み」「しくみのまわし方」まで、一緒に整えていきます。コールセンターの応対調査やお客さま満足度分析など、原因の見える化から改善設計まで、現場に寄り添いながらサポートします。

深掘りQ&A

「ホスピタリティ」を社員全員で共有するには、どうすればいい?

まずは、会社としての“おもてなし方針”を言語化することが第一歩です。「私たちはお客さまにどう接する会社でありたいのか」を具体的な言葉にし、社内ミーティングや事例共有会で繰り返し伝えていく。さらに、対応事例を「良い対応/改善が必要な対応」として蓄積・共有すると、抽象論ではなく“自社らしいホスピタリティ”が浸透します。

スタッフによって対応が違う原因はどこにある?

多くの場合、“マニュアルの整備不足”ではなく、“情報共有の断絶”にあります。顧客データベースが分断されていたり、更新ルールがあいまいだったりすることで、お客さまの要望が次の担当者に引き継がれません。CRMやFAQツールの活用と同時に、「更新したらチームで知らせる」という意識付けが必要です。

 イレギュラー対応の判断をどう社員に任せればいい?

“自由にやっていい”ではなく、“判断の軸を共有する”ことが大切です。「お客さまの不便を減らす行動は歓迎」「安全や法令に関わることは上長判断」など、判断基準を明示しておけば、現場は迷わず柔軟に動けます。日常的に「ナイス判断」を称賛・共有する文化づくりも有効です。

ABOUT US
株式会社フォー・レディー 代表 鯉渕登志子
日本大学芸術学部卒業後、アパレル業界団体にてファッション経営情報誌の編集に携わり、カネボウファッション研究所を経て、1982年に株式会社フォー・レディーを設立。これまで手がけた化粧品・ファッション通販企業は180社を超えます。一貫して「女性を中心とした生活者ターゲット」に寄り添い、消費者の実感から発想することを信条としています。 「自分が使って心から納得できるものを届ける」というポリシーのもと、コンセプト設計からクリエイティブ制作までを一貫して行っています。また、日本通信販売協会などでの講演実績も多数あり、生活者視点のマーケティングを広く発信しています。

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