リアルなシニアを知る。 若手社員に必要な“顧客理解”とは?

シニア層をターゲットにした化粧品市場は拡大を続けています。しかし、現場で企画や販促を担うのは若い世代が中心。「こうだろう」と想像だけで進めてしまい、どこかピントのずれた商品やコミュニケーションになってしまうこともあります。本当にシニア層を理解する第一歩は、意外にもシンプルな“ある行動”から始まります。今回のコラムは、『日本流通産業新聞』5月12日号に掲載された「強い通販化粧品会社になるために 基礎講座Q&A vol.81」です。ぜひご覧ください。

日本流通産業新聞
通販・ネットビジネス・健康食品・美容業界などの最新動向を専門的に取り上げる業界紙です。実務に直結する情報を多角的に発信し、多くのビジネス関係者に支持されています。

忙しい人向け|対談で学ぶ〝顧客の声とシニア層の「心」を掴む深掘り戦略〟

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データではなく、“接点”がシニア理解を深める

通販化粧品会社 担当者

シニア向けの通販化粧品を販売しており、現在、売り上げは拡大しています。ただ、社員が若いためシニア向けの企画が思うようにまとまらず、販売促進や商品開発がズレている気がします。シニアについて学ばせる良い方法はないでしょうか?

これは、ほとんどの通販化粧品会社が持つ共通の悩みと言ってもいいかもしれません。実は、シニア向け化粧品の通販会社が伸び悩む要因の一つでもあります。

特に、成長が著しい会社は若い社員が多く、ほとんどの社員にとってシニアの気持ちは「想像する」しかありません。今後、シニア層向け化粧品マーケットがますます広がってくることを考えると、必ず市場はさらに競合が激化するでしょう。生き残っていくためには、「想像」ではなく「リアル」なシニアを知っておく必要があります。

会って、話して、気づく。そこから始まる理解

シニア層のニーズを商品やサービスに反映するのに一番良い方法は、シニア層にスタッフになってもらい、接客をしてもらうことです。商品開発に携わってもらうのも良いかもしれません。ただ、現実的には難しいという企業が多いはずです。

そこで、社員への教育として効果的なのは、若い社員をなるべくシニア層に近づけることです。知らないものは理解できないので、さまざまな方法を使い、シニア層との接点を多くする工夫が必要です。

まずは店舗で実際にシニア層の接客をしてもらいましょう。おそらく、イメージしていた「シニア層」よりずいぶん活動的できれいなお客さまが多いことを実感するはずです。

通販会社なのですぐには店舗を作れないというのであれば、若い社員にコールセンターで電話を取ってもらうのも有効な手段です。実際に新入社員の最初の配属は、コールセンターで電話対応という会社は多いはずです。電話を通じてお客さまの声を知り、お手紙やコメントからリアルなシニア層の声を聞くことができます。

ほかにもシニア層が参加しやすいイベントを開催するという方法があります。気軽にお客さまに集まっていただく仕組みを作りイベントを開催しましょう。シニア層に接する機会は多ければ多いほど学ぶことも多いからです。「あ、こういう方々のために化粧品を作るのか」と若い社員の理解が深まるはずです。ちなみに、メークイベントなどを開催した際はポーチの中身を見せてもらえば、「どんな化粧品をどんな風に使っているのか」を観察することができます。

想像の人物ではなく、“生きたペルソナ”を描く

ここまでは「接点を増やす」ためによく行っている方法です。しかしこれだけでは、「理解する」といっても限界があります。よりビジネスに結び付けるためには、さらなる工夫が必要です。

私のお勧めは、「ペルソナ像=オピニオンリーダー1のイメージ」を作ること。できれば身近にいるシニア女性をモデルとして設定し、その人を観察することでリアルなシニア層を理解しましょう。そして、「ペルソナ2像」を作り、命を吹き込むように仮の名前を付けたり、出身地や趣味、性格なども細かく設定し、その「ペルソナ像」をお客さまのイメージ像として決めることで、ターゲットイメージが明確になります。形式だけにならないよう、イメージ像に人格を与え続けることも大切です。

お客さまを“ひとくくり”にしない視点を持つ

こうした調査を通じてポイントとなるのは、「シニア層にもいろいろな人がいる」ということに若い社員が気づくことです。

例えば、化粧崩れしにくい商品が人気の会社と、肌に優しいエイジングケアが人気の会社では、お客さまの特徴が微妙に異なります。調査を通じて自社のお客さまの特徴をよく知り、理解することです。

お客さまとの接点を増やすには、お宅に訪問して密着インタビューをするのも良いでしょう。ライフスタイルのほか、隠れたニーズを引き出すこともできるかもしれません。

また、ロイヤルのお客さまには担当者を決め、専属のフォロースタッフ制度にすることもお勧めです。担当制になると、社員はそのお客さまのことを常に考えるようになります。「この前はこれを買っていただいたから、今度はこれが必要になるかな?」など、想像力を働かせられるようになり、やがてシニア層のお客さまのことを深く理解できるようになります。

こうした「接点」や「知る」努力を徹底してやらない限り、シニア層を知らない社員がビジネスを続けることになります。大切なのはシニア層のお客さまの「姿」だけでなく「心」までを理解できるようになることです。

株式会社フォー・レディー 代表
鯉渕登志子

お客さまの心を知ることは、数字では測れない学びです。その気づきが、ブランドを強く、社員を成長させます。シニアの思考や消費行動を理解するための調査なら、フォー・レディーにお任せください。

用語解説

  1. オピニオンリーダー-周囲の購買や意識に影響を与える発信力を持った人。特定の分野で信頼を集める存在であり、マーケティングでは「他の消費者の行動を動かす鍵」として注目されます。 ↩︎
  2. ペルソナ-商品やサービスの典型的な利用者像を具体的に描いた「仮想の人物像」。年齢や職業、趣味、価値観などを細かく設定することで、“誰に届けるのか”を明確にし、企画やコミュニケーションの精度を高める手法です。 ↩︎

深掘りQ&A

シニア層の「本音」を引き出すには、どんな質問が効果的ですか?

「何を買ったか」ではなく、「なぜそれを選んだのか」を聞くことがポイントです。目的や背景にある“思い”を尋ねることで、表面的なニーズの奥にある価値観や生活観が見えてきます。

若い社員がシニア層に抵抗感を持たずに話すには?

“教える/教えられる”という関係ではなく、“理解し合う”姿勢で向き合うこと。まずは「きれいですね」「いつもどんなふうにお手入れされているんですか?」など、日常の話題から自然に会話を始めるのがおすすめです。

ペルソナ設定は一度作れば終わりですか?

いいえ。お客さまの価値観や生活環境は常に変化しています。アンケートやインタビューを通じて定期的に見直し、“今のシニア像”に合わせてアップデートしていくことが大切です。

ABOUT US
株式会社フォー・レディー 代表 鯉渕登志子
日本大学芸術学部卒業後、アパレル業界団体にてファッション経営情報誌の編集に携わり、カネボウファッション研究所を経て、1982年に株式会社フォー・レディーを設立。これまで手がけた化粧品・ファッション通販企業は180社を超えます。一貫して「女性を中心とした生活者ターゲット」に寄り添い、消費者の実感から発想することを信条としています。 「自分が使って心から納得できるものを届ける」というポリシーのもと、コンセプト設計からクリエイティブ制作までを一貫して行っています。また、日本通信販売協会などでの講演実績も多数あり、生活者視点のマーケティングを広く発信しています。

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