「売れる化粧品」と「いい化粧品」は、どう違う?

化粧品の開発と聞くと、成分や処方の知識が中心と思われがちです。しかし通販の世界では、それだけではヒット商品は生まれません。なぜなら“いい化粧品”であっても、“売れる化粧品”とは限らないからです。お客さまの声や売上データを読み解き、生活者のリアルな感覚に寄り添う――。そんな視点の転換こそが、いま通販の商品開発者に求められています。今回のコラムは、『日本流通産業新聞』9月1日号に掲載された「強い通販化粧品会社になるために 基礎講座Q&A vol.84」です。ぜひご覧ください。

日本流通産業新聞
通販・ネットビジネス・健康食品・美容業界などの最新動向を専門的に取り上げる業界紙です。実務に直結する情報を多角的に発信し、多くのビジネス関係者に支持されています。

忙しい人向け|対談で学ぶ〝売れる商品を生む「マーケター開発者」になる方法〟

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いま、開発者に必要なのは処方より“洞察力”

通販化粧品会社 担当者

最近、商品開発の担当者になりました。もともと理系の学部に在籍していたので多少の知識はあるのですが、そちらの知識よりも「売り上げデータをよく見なさい」と言われています。

通販化粧品会社の商品開発は、単にモノを作ればよいという業務だけではなく、さまざまな販売データ分析も不可欠と言えます。それはマーケッターと開発者が一体となったような役割を期待されているからです。

今回は主にマーケッターとして通販化粧品の商品開発はどんな点に気を付けたらよいかという点に絞って、私自身が商品開発をお手伝いするときに注意しているポイントを解説します。

まず通販化粧品会社の商品開発は既存顧客向けなのか、まったく新しいお客さまを獲得するためのスタートアップの商品なのかによって変わります。今回はある程度の顧客を抱えている既存の通販化粧品会社の場合を想定しましょう。

私が商品開発を手伝う場合は、まず既存のお客さまの販売データを徹底的に調べます。そこで注目するのは多く売れている商品はもちろんですが、なぜ売れているかを見極めます。

次に注目するのは、広告出稿量もあまり多くなく、販売数量もさほど多くないが、リピート率が高い商品を必ずマークします。

お客さまにアンケート調査をして調べるのは、他社で定期的に購入している商品や、買ってみたいと注目している商品です。モニター会やレッスン会では使用している他社化粧品を見せてもらう、あるいはポーチの中身を見せてもらう機会も多くしています。人気店舗では売れ筋商品をチェックし、ほとんどすべての通販化粧品の広告には目を通しています。

データだけでなく、現場でトレンドをつかむ力を

これはすべて世の中の美容トレンドや潮流を知るためのマーケッターの仕事です。もちろん自分だけで調べことができない膨大な調査データを取り寄せることもあります。

原料メーカーやOEM1メーカーにも人脈を作っておけば貴重な情報を提供してもらえます。場合によっては、プレゼンテーションをしてもらうことも良い方法です。

次に大切なことは、いろいろな化粧品を実際に自分で使用してみることです。幸い私は肌トラブルが少ない方なので、日頃からいろいろな化粧品を試用しています。そうすると料理と同じで、「味の違い」のようなものが分かってきます。より多くの化粧品を使った経験のある人の方が、優れた商品を開発できるのではないでしょうか。

ある美容家と仕事をしたときに、美容への知識の豊富さ、世界中の化粧品を使っているなど、驚くような豊富な経験に圧倒されました。もちろん完成した商品のクオリティーはとてもレベルの高いものでした。

お客さまの声で、商品を磨き上げる

商品のバルク2サンプルができたら、ターゲット層にモニター調査をして感触を確かめてもらうことも必要です。このとき、分からないように競合商品も同時に試用してもらい比較調査をしています。調査はすべての項目を10段階評価、競合よりは高い点数が付くまでサンプルの修正をします。

お客さま調査はバルクの比較だけではありません。条件が許せば、パッケージデザインやキャッチフレーズ、広告デザインもダミー案を作成して、好みのモノを選んでもらうようにします。

さらにこれまで販売してきた他の商品との訴求ポイントをチェックし「美容メソッド」との矛盾がないかを確認します。これまで多くのお客さまが購入してくれた商品との合わせ使いが可能かどうかも大事なことです。これらはすべてお客さま目線でチェックすることが必要です。

最後に、それでも新商品発売の不安があったら、まずは「限定品」として、数量限定などで販売し、お客さまの反応を見て、次シーズンに「ご好評につき定番商品化」をするという二段階の販売方法もあります。あるいは「テスト販売で、お客さまのご意見をうかがい、その後本格的に販売する」というスタイルで、お客さま参加型の商品開発という方法も面白いかもしれません。

いずれにしても通販化粧品の商品開発は、マーケティング業務をきっちりやることが不可欠だと思います。

株式会社フォー・レディー 代表
鯉渕登志子

処方を磨くだけでなく、データを読み、声を聞き、肌で感じる。その積み重ねが、“売れる理由”をつくります。どんなに優れた成分も、どんなに洗練されたデザインも、お客さまの共感がなければ、ブランドの力にはなりません。フォー・レディーは、そんな“お客さまを見つめる開発”を支援します。

用語解説

  1. OEM-自社で製造設備を持たず、外部のメーカーに商品の製造を委託する形態。通販化粧品企業の多くが採用しており、原料や処方の提案力が選定の鍵になります。 ↩︎
  2. バルク-化粧品の中身そのもののこと。パッケージに充填される前の状態を指します。テクスチャーや香り、使用感などを確認する段階で使用されます。 ↩︎

深掘りQ&A

なぜ、開発者でも「マーケティング視点」が必要なのですか?

化粧品は「正しい処方」だけでは支持されません。お客さまは“自分に合うか”“信頼できるか”を感覚的に判断します。理論的な安全性や効果だけでなく、その価値を“どう伝えるか”を設計できるのがマーケッター視点。開発とマーケティングは、いまや一体の仕事です。

 データ分析ばかりしていると、発想が狭くなりませんか?

その通りです。数字は「結果」であり「原因」ではありません。データを見たあとは、必ず現場を見に行く、実際に使ってみる――その往復が大切です。数字に偏らず、感覚を確かめる姿勢がヒットを生みます。

社内で意見が割れたときは、どう判断すればよいですか?

「誰のための商品か」に立ち返るのが最も確実です。社内の好みや立場に左右されず、ターゲット顧客のリアルな声を基準にすれば、判断がぶれません。フォー・レディーでは、そのためのモニター会や座談会設計もサポートしています。

開発者として“感性を磨く”には、どんな方法がありますか?

実際に他社商品を使い比べることはもちろん、百貨店のカウンターで接客を受けたり、SNSで消費者の声を追うことも有効です。「どう伝えれば買いたくなるのか」を肌で感じることが、開発力の向上につながります。

ABOUT US
株式会社フォー・レディー 代表 鯉渕登志子
日本大学芸術学部卒業後、アパレル業界団体にてファッション経営情報誌の編集に携わり、カネボウファッション研究所を経て、1982年に株式会社フォー・レディーを設立。これまで手がけた化粧品・ファッション通販企業は180社を超えます。一貫して「女性を中心とした生活者ターゲット」に寄り添い、消費者の実感から発想することを信条としています。 「自分が使って心から納得できるものを届ける」というポリシーのもと、コンセプト設計からクリエイティブ制作までを一貫して行っています。また、日本通信販売協会などでの講演実績も多数あり、生活者視点のマーケティングを広く発信しています。

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