ペルソナが描けないのは、“お客さまのせい”ではない?

アンケートを集めても、インタビューを重ねても、お客さまの共通点が見えてこない──。「いったい誰に向けて売っているのか」がわからなくなってしまった。そんな悩みを抱える通販企業は少なくありません。調査の方法を変えても、答えが出ないのはなぜでしょうか。今回のコラムは、『日本流通産業新聞』12月1日号に掲載された「強い通販化粧品会社になるために 基礎講座Q&A vol.87」です。ぜひご覧ください。

日本流通産業新聞
通販・ネットビジネス・健康食品・美容業界などの最新動向を専門的に取り上げる業界紙です。実務に直結する情報を多角的に発信し、多くのビジネス関係者に支持されています。

忙しい人向け|対談で学ぶ〝販売戦略の一貫性が映し出す「顧客は企業の合わせ鏡」〟

忙しくてなかなか文章を読む時間がない方向け、スキマ時間に聞くだけで学べる音声版をご用意しました。

顧客像が見えないときは、“自社の姿”を見直すサイン

通販化粧品会社 担当者

ターゲット層となるお客さまのイメージをまとめる(ペルソナ設定)ために、各種調査をしているが、お客さまの共通項が見いだせず、購入理由もバラバラでまとめることができない。

お客さま像(ペルソナ)を設定することは、商品開発と同時期の初期段階に行うべきですが、事業がある程度の規模になってから、再構築している会社も多いようです。

その場合は、今後のお客さまのコア層になると考えられる既存顧客の徹底調査からスタートすることが基本です。ところが、ご相談のように、なかなか既存のお客さま像をまとめられない会社が多いようです。

まず調査は、定量調査1のお客さまアンケートや、定性調査のグループインタビューやロイヤルユーザーへのヒアリング(ディプスインタビュー2)などが考えられます。

これらの調査をさまざまな角度から行い、購入商品や化粧品のニーズだけではなく、ライフスタイルを含めて幅広く調査することが、後々ペルソナ像を設定する場合には大いに役に立ちます。しかし、いくら情報を突き合わせても、お客さまの共通項が浮かび上がらない理由は、それまでの会社側の販売手法に原因があります。

ランダムな販売施策が“顧客のバラつき”を生む

弊社では同じような経験を何度もしています。調査をどんなに重ねてもお客さまの共通項が見いだせず、年代も、ライフスタイルも、美容意識も、購入理由もバラバラで特徴的な傾向が出てこない、という具合です。

その場合はこれまでの販売施策を振り返ります。弊社の経験では、ターゲット層の異なるさまざまな媒体にランダムに新規獲得広告を掲載したり、大幅値引き価格で売っていたり。加えて商品コンセプトを訴えることもせず、商品の価値をないがしろにした販売施策を繰り返していると、お客さまは単なる「バーゲン狙いの集団」になってしまいます。

さらにまずいことに、お客さまは商品の価値を感じていないために、「化粧品だったら何でもよい」というような美容意識の低いお客さまの集団になってしまうので、客単価が伸びることはありません。LTVの低いお客さまの大集団になってしまうので、極端に効率の悪いビジネスになってしまいます。

ブランドに対する帰属意識は全く醸成されないので、調査に協力を依頼しても反応は薄く、高額のギャラでも支払わない限り応じてもらえません。それでもドタキャンが出るほどです。つまりお客さまにとって、その化粧品は「どうでもいい商品」になり下がっているのです。

こういうブランドは、割引を止めるとお客さまが大量離脱することになります。新規獲得も初回の大幅割引を目当てに来るお客さまが多く、2回目への転換は見込めません。

数字だけを追う販売では、顧客像は見えてこない

お客さまがバラバラの理由は、それまでの会社の販売施策が一定の方針のもとに実施されたものではなく、反応の数値だけを追いかける、その場限りの施策だったからです。

例えば、媒体は初回の反応の良いものを選び、大幅値引きもレスポンス率のみを基準にしている。またコミュニケーションは激安価格のみを訴えている─など。肝心の商品の紹介はおざなりで、開発者の熱い思いや、何のための商品か、どのように使ってほしいか、使ったらどんなよいことがあるのかなどが発信されてないため、お客さまにそのよさが伝わっていないのです。それではお客さま像の共通項は見いだせません。

そもそもビジネスとして収益を上げる前に、「誰のために、何のために、なぜこの化粧品を売るのか」という小売業としての基本の方針が打ち出せていないのです。

このようにお客さま調査を徹底して丹念にお客さまの声を聞いていくと、問題点は事業会社側にあることが分かります。弊社ではこれを「お客さまの姿や声は、会社の姿を映し出す『合わせ鏡』」と考えています。

お客さまは正直に反応しますので、会社側が行ってきたコミュニケーションや施策に素直に反映します。そして自分の生活の中にうまく取り入れているだけなのです。

お客さま像を設定するのならば、まず自分たちが「何のために仕事をするのか」ということから問い直した方がよいと思います。

株式会社フォー・レディー 代表
鯉渕登志子

フォー・レディーでは、こうした「お客さまの声を通じて自社の課題を見つめ直す」調査を数多く実施してきました。実際にご依頼いただいた企業さまからは、「これまで気づかなかった自社の強みや課題が明確になった」「今後のCRM設計の方向性が見えた」といったお声を多数いただいています。お客さま理解を深めたい、ブランドの軸を再構築したいとお考えの企業さまは、ぜひ一度ご相談ください。

用語解説

  1. 定量調査/定性調査-定量調査はアンケートなど数値化されたデータを集めて傾向を把握する方法。定性調査はインタビューやグループ座談会など、意見の深掘りから要因を探る方法。両者を組み合わせることで、より精度の高い顧客理解が可能になる。 ↩︎
  2. ディプスインタビュー-お客さまと1対1で深く意見を聞くインタビュー調査。アンケートでは拾いにくい“本音”や“感情の背景”を明らかにする。特にロイヤル顧客(継続利用・愛用者)への調査で有効。 ↩︎

深掘りQ&A

ペルソナが社内でバラバラになりやすい理由は?

部門ごとに「理想のお客さま」の基準が違うからです。開発は“品質志向”、販促は“反応率”、CSは“満足度”を重視する傾向にあります。このズレを防ぐには、部門横断での共有会(ペルソナワークショップ)を行い、全員が同じ顧客像を言語化する場を設けることが有効です。

値引き販売から脱却するには、どうすればいい?

価格ではなく「選ばれる理由」を増やすことが重要です。たとえば、開発ストーリーや使用体験の可視化、定期購入者限定の情報誌やイベント企画など、「このブランドと関わること自体に価値がある」と感じてもらう仕掛けを設けましょう。価格競争から抜け出す最短ルートは、“感情的価値”の積み上げです。

顧客調査の結果を社内でどう活かせばいい?

調査は「資料にまとめて終わり」にしないことがポイントです。得られた声を商品開発・クリエイティブ・CSの改善計画に落とし込む仕組みをつくりましょう。具体的には、定例ミーティングで「お客さまの声」を共有し、次のアクションまでをチームで決めていくこと。継続的に回すことで、企業文化として“顧客起点”が根づきます。

ABOUT US
株式会社フォー・レディー 代表 鯉渕登志子
日本大学芸術学部卒業後、アパレル業界団体にてファッション経営情報誌の編集に携わり、カネボウファッション研究所を経て、1982年に株式会社フォー・レディーを設立。これまで手がけた化粧品・ファッション通販企業は180社を超えます。一貫して「女性を中心とした生活者ターゲット」に寄り添い、消費者の実感から発想することを信条としています。 「自分が使って心から納得できるものを届ける」というポリシーのもと、コンセプト設計からクリエイティブ制作までを一貫して行っています。また、日本通信販売協会などでの講演実績も多数あり、生活者視点のマーケティングを広く発信しています。

BACK TO INDEX