似た商品が“ブランドの弱点”に? ― 迷わせないライン設計のすすめ

気づけば、ラインナップが似たような製品であふれていませんか。どれも魅力的であるはずなのに、お客さまからは「違いがわからない」「どれを選べばいいのか迷う」という声が上がる――。せっかくの努力を“迷い”に変えないためには、いま一度、お客さまの目線で自社の製品ラインを見直す必要があります。今回のコラムは、『日本流通産業新聞』1月12日号に掲載された「強い通販化粧品会社になるために 基礎講座Q&A vol.88」です。ぜひご覧ください。

日本流通産業新聞
通販・ネットビジネス・健康食品・美容業界などの最新動向を専門的に取り上げる業界紙です。実務に直結する情報を多角的に発信し、多くのビジネス関係者に支持されています。

忙しい人向け|対談で学ぶ〝「顧客視点の棚卸し術」とペルソナ深掘り戦略〟

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お客さま目線で製品を棚卸し、“迷い”を回避する

通販化粧品会社 担当者

当社には成分や処方は多少違いますが、同じような製品がいくつかあります。ターゲットが近く、どちらも試して迷ってしまうお客さまがいるようです。また販促施策も差を付け難くなっています。

どれだけ多くの新規顧客を獲得しても、リピート購入してくださる方はほんの一握り。そんなお客さまの離脱をカバーするために、ついラインアップを多くしがちですが、お客さまを迷わせてしまうのでは本末転倒です。

そもそも製品開発の段階で、効能・機能・処方だけでなく、「どんなお客さまに届けたいか」を定めなければなりません。ペルソナを設定し、どんな生活をしているのか、どんな趣味嗜好で、どんな価値観を持っているかなどを徹底調査します。そこからターゲット層がどんな悩みを持ち、どんな化粧品を求めているか、どんな価格帯であれば購入するのかを絞り込みブランドのコンセプトを決める必要があります。

また、コミュニケーションも媒体やクリエーティブ表現を含めて、開発段階から決めておくべきでしょう。

例えば、新聞広告やテレビのインフォマーシャルで化粧品を購入してくれるお客さまは、ほとんどが70代。40代向けの化粧品を同じように新聞出稿しても見てもらうチャンスはありません。

つまり、製品のターゲットに合わせたコミュニケーションは内容や表現だけでなく、適切な媒体でなければ、継続してくれるお客さまを獲得することはできません。

目的に沿った“機能分け”ができているかを確認

しかし、今回のご質問のようにすでに製品が出来上がっている場合は、コンセプトを修正する前に「社内の製品特長の整理」をすることが良いでしょう。

まず目的を明確にした製品の機能分けができているかということを整理しましょう。

多くの化粧品会社はベーシックライン1として、代表的な基本のシリーズを作っています。それと似たような機能を持った同じ価格帯のスキンケアラインを多くしても、ただお客さまを迷わせて、買い控えを招いてしまうだけです。

機能区分2の大きな目安として、まず挙げられるのは「肌質の区分」です。同じ年齢の女性でも、肌は人それぞれに違い、「私は乾燥肌だから、もっと保湿したい」「年を重ねた肌のためエイジングケアに特化したものを」「私は敏感肌なので安心安全が最優先」など、さまざまなニーズがあります。そんなお客さまの願いに応えられる製品はどれか。まずはその視点でラインアップの機能区分を明確にし、リニューアル時期に特徴を明確に打ち出していくことが必要でしょう。

「肌悩み」も機能区分のひとつ。シワ・たるみ・くすみ・毛穴・ニキビ……それぞれの肌悩みを解決したいというお客さまのニーズに応えられる製品はどれか、という視点で考えましょう。肌悩みに応じた専用のラインアップをそろえている通販化粧品会社もありますが、中には基本のラインアップに取り入れられる部分用美容液やプラスワンアイテム、専用クリームのようにスペシャルケアとして対応している会社も多いようです。

これら二つの機能区分の指標を組み合わせて、役割分担を明確にし、製品整理をしていくことでお客さまも徐々に迷わなくなるでしょう。

お客さまの肌実感に寄り添い、課題解決型の訴求へ

そもそもこの機能区分の指標は、お客さまが化粧品を選ぶときの基準です。お客さまは過去の経験や体験から、自分の「肌質」と「肌悩み」を良く知っています。「すぐに乾燥してガサガサになる肌だ」とか、「合わない成分が入っているとピリピリして赤くなる」とか、「若いときとは全く異なった肌になった」というような実感体験を持っているため、自分の肌状態に合わせた製品を選んでいるのです。

そんなお客さまの悩みに寄り添い、課題解決目線で製品開発や適切な情報発信、製品訴求をしていかなければなりません。

製品の機能区分がしっかりと明確に差が付いていれば、お客さまが「合わない」と感じられたときも、丁寧なヒアリングやカウンセリングで、正しい使い方の指導やほかの製品への誘導もできます。少なくともお客さまを迷わせるという状況は避けられるはずです。

株式会社フォー・レディー 代表
鯉渕登志子

フォー・レディーは、お客さま目線の製品整理から、商品開発を含むブランド構築まで一貫してサポートします。“迷いのない選ばれるブランド”づくりを、私たちが伴走します。

用語解説

  1. ベーシックライン-ブランドの中心となる基本的なスキンケアシリーズのこと。洗顔・化粧水・乳液・クリームなど、日常的に使う基本アイテムで構成される。新ラインやスペシャルケア製品は、このベーシックラインを基盤に企画されることが多い。 ↩︎
  2. 機能区分-化粧品を「どんな悩みを解決するか」「どんな肌質に合うか」などの目的別・機能別に整理する考え方。お客さまの肌状態やライフスタイルに合わせて製品の役割を明確にすることで、ラインの重複や混乱を防ぐことができる。 ↩︎

深掘りQ&A

製品を整理すると、既存ラインが減って売上が下がるのでは?

一時的にSKUが減っても、選ばれやすい構成に整理することが中長期では売上回復につながります。迷わせるラインナップは「比較疲れ」や「買い控え」を招き、結果としてリピート率を下げます。思い切った整理で一製品ごとのLTVを高める方が、ブランドの信頼と利益を守ることになります。

 “お客さま目線の棚卸し”は、どう進めればいいですか?

社内だけで判断せず、既存顧客の声を定性・定量の両面から拾うことが重要です。たとえば、購入理由や乗り換え理由をヒアリングしたり、定期継続者と離脱者の購買データを比較すると、どの製品が“使い分けられているか” “混同されているか”が明確になります。グループインタビューやアンケート分析など、消費者の実感を反映させましょう。

肌質・肌悩み以外に、整理の軸になる視点はありますか?

「使用シーン」や「心理価値」も重要な補助軸になります。たとえば「朝の時短ケア」「週末のご褒美ケア」「旅行時のミニサイズ」など、生活シーンに沿った整理も有効。また「安心・安全」「高機能・先進」「心地よさ・癒し」といった心理価値を軸に整理すると、ブランドの世界観を保ちながら、違いを伝えやすくなります。

製品整理を社内で進める際、どの部署がリーダーになるべき?

理想は、マーケティング・開発・CSが横断的に関わるプロジェクト体制。製品整理は単なる商品企画ではなく、「お客さまが迷わない体験設計」そのものです。顧客接点を持つCS(お客様相談室)やCRM担当が“現場の声”を伝え、開発とマーケティングがそれを反映する形で進めるのが成功の鍵です。

ABOUT US
株式会社フォー・レディー 代表 鯉渕登志子
日本大学芸術学部卒業後、アパレル業界団体にてファッション経営情報誌の編集に携わり、カネボウファッション研究所を経て、1982年に株式会社フォー・レディーを設立。これまで手がけた化粧品・ファッション通販企業は180社を超えます。一貫して「女性を中心とした生活者ターゲット」に寄り添い、消費者の実感から発想することを信条としています。 「自分が使って心から納得できるものを届ける」というポリシーのもと、コンセプト設計からクリエイティブ制作までを一貫して行っています。また、日本通信販売協会などでの講演実績も多数あり、生活者視点のマーケティングを広く発信しています。

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