顧客価値起点で見直す化粧品定期—導入前の設計ポイント

化粧品での定期導入が広がる中、サプリの延長では解けない課題も見えます。誰に・何を・どのペースで届けるか――顧客価値を起点に、導入前の設計ポイントをまとめました。今回のコラムは、『日本流通産業新聞』3月2日号に掲載された「強い通販化粧品会社になるために 基礎講座Q&A vol.89」です。ぜひご覧ください。

日本流通産業新聞
通販・ネットビジネス・健康食品・美容業界などの最新動向を専門的に取り上げる業界紙です。実務に直結する情報を多角的に発信し、多くのビジネス関係者に支持されています。

忙しい人向け|対談で学ぶ〝化粧品EC「お得だけでは続かない」定期購入の成功戦略〟

忙しくてなかなか文章を読む時間がない方向け、スキマ時間に聞くだけで学べる音声版をご用意しました。

“お得”に頼らない—顧客離脱を防ぐ、続けたくなる定期設計

通販化粧品会社 担当者

定期販売をしていない商品について、お客さまから「定期的に届けてほしい」との要望がありました。当社はサプリメントも扱っており定期制度を設けていますが、化粧品はまだ対象外です。今後はどのような制度にすべきか悩んでいます。

最近、多くの化粧品通販会社が定期購入を訴求しています。その理由はやはり定期購入の方がLTVが高くなるからです。そのため割引率を高くしたり、多くのプレゼントをつけたりと定期に対するハードルを下げた施策を実施する会社がとても多くなっています。おかげで「通販の定期購入=お得に買える」のイメージが定着してしまいました。

そもそも定期制度は、「お気に入りの商品を使い続けたい」というお客さまのニーズに応えるもの。「お得」を前面に押し出した施策では、価格の安さや割引に飛びつくお客さまばかりが集まってしまい、商品の価値に気付く前に離脱されてしまいます。

そして残るのは「解約が面倒だから」と惰性で使い続けるお客さまばかり。これでは本来あるべき定期購入の制度からかけ離れてしまいます。

実際にお客さまにインタビューをしてみると、「定期購入は嫌い」とおっしゃるお客さまが一定数いらっしゃいます。理由は「縛られる感じが嫌」だったり、「商品が届くのが当たり前になると、選んだ熱が冷めてしまうから」というお客さまも。会社側も定期購入のお客さまは「買ってくれるのが当たり前」という意識になってコミュニケーションが疎遠になる傾向があります。

つど買いの「自ら選んで、わざわざ注文の工程を経る」という行為が、お客さまの自主性を発揮させることになることも認識しておく必要があります。

商品が届くのが当たり前になり、やがて気持ちが離れてしまう。そうならないために、定期購入のお客さまこそフォローが大切です。

定期に向く商品とは—2つの条件で整理する

また、商品によっては定期制度が向かないものもあります。定期制度の対象商品にすべきかどうか迷っている場合は、次の二つの条件を満たすかどうかを考えてみてください。

一つ目は、使う頻度が人によってあまり差がないこと。洗顔料や基礎化粧品、シャンプー&トリートメントのように毎日使うものは、使用量も一定で定期的に購入する必要があるため、自動的に自宅に届くことがお客さまのメリットになります。

しかし、スペシャルケア商品は毎日使う方もいれば、気になる時にしか使わない方もいます。お客さまによって余ってしまったり、欲しいときに足りなくなったりするため、定期購入には向きません。

二つ目は、定期お届けのサイクルと商品を使い終わるタイミングが一致すること。1日の摂取目安量が決まっているサプリメントなどは、正しく飲み続ければお届けするタイミングでちょうどなくなるように設計されています。

もし2カ月でなくなることが想定される商品が毎月一つずつ届いたら、お客さまのもとには、どんどんストックがたまってしまい、せっかく商品に満足していても、それがストレスとなり、解約してしまうお客さまも出ることでしょう。各社とも解約理由の一番は「商品が残っている」がダントツです。

商品開発の際には、1カ月分、2カ月分と区切りが分かりやすい容量にしたいものです。

価格ではなく体験で高める継続率

定期制度を設けなくとも、お客さまがリピートしたくなる仕組みを構築すれば、結果的に定期で商品をお届けすることができます。

あるシニア向けの化粧品会社は定期購入ができません。その代わりにポイント制度によって基礎化粧品を購入するとお客さまにポイントが付与されます。ためたポイントは非売品のスペシャルケアアイテムなどと交換できるため、お気に入りの基礎化粧品を続けるだけで、特別なアイテムを手に入れることができるのです。お客さまの満足度も高まり、商品だけでなくブランドのファンも増やせる仕組みだと思います。

定期制度を設けるにしても設けないとしても、継続してくださるお客さまへのフォロー施策には会社独自の方針を設定しておくことが必須でしょう。安易な割引セールは、お客さまに気に入っていただいている商品の価値を下げることになります。定期購入かつど買いかにかかわらず、続けることにメリットを感じ、さらにブランドへの理解や愛着がより深まるような施策を、お客さま目線で考えることが大切です。 

株式会社フォー・レディー 代表
鯉渕登志子

フォー・レディーでは、消費者視点から、定期制度の仕組みづくりについてご提案も。割引に頼らず“続けたくなる体験”で、長く選ばれる状態づくりをお手伝いします。

深掘りQ&A

割引はどの程度までなら大丈夫でしょうか?

常に割引を実施することは、ブランド価値を削ることになりかねません。金銭的な特典は抑え、送料無料・先行サンプル・使い方のサポート・優先相談などの体験価値に重きをおく方が、継続率が高まると考えています。

お客様が効果をすぐ感じにくいとき、離反を防ぐにはどうすればいいでしょうか?

定期解約が多いタイミングを調べ、正しい使い方の啓蒙や小さな変化に気づけるチェックリストで「続ける理由」を見える化するのも有効な手段です。

ABOUT US
株式会社フォー・レディー 代表 鯉渕登志子
日本大学芸術学部卒業後、アパレル業界団体にてファッション経営情報誌の編集に携わり、カネボウファッション研究所を経て、1982年に株式会社フォー・レディーを設立。これまで手がけた化粧品・ファッション通販企業は180社を超えます。一貫して「女性を中心とした生活者ターゲット」に寄り添い、消費者の実感から発想することを信条としています。 「自分が使って心から納得できるものを届ける」というポリシーのもと、コンセプト設計からクリエイティブ制作までを一貫して行っています。また、日本通信販売協会などでの講演実績も多数あり、生活者視点のマーケティングを広く発信しています。

BACK TO INDEX