ブランド価値を高める「キャスティング戦略」―通販化粧品にふさわしいタレントとは

ここ数年、化粧品広告の世界では、これまでの常識が大きく変わりつつあります。男性タレントや美容家、さらにはお客様自身を登場させるケースまで。通販化粧品の広告においても、“誰に伝えてもらうか”がブランドの印象や売上を左右する重要な要素になっています。今回のコラムは、『日本流通産業新聞6月22日号に掲載された「強い通販化粧品会社になるために 基礎講座Q&A vol.93」です。ぜひご覧ください。

日本流通産業新聞
通販・ネットビジネス・健康食品・美容業界などの最新動向を専門的に取り上げる業界紙です。実務に直結する情報を多角的に発信し、多くのビジネス関係者に支持されています。

忙しい人向け|対談で学ぶ〝効果最大化のための「広告塔」選びとタレント起用の新常識〟

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“話題性”より“ブランドらしさ”で選ぶことがブランドを強くする

通販化粧品会社 担当者

当社商品の広告に有名人をキャスティングしたいと検討しています。しかし捻出できるギャランティーにも限界があり、話題性のある大物タレントの起用は難しいです。より効果的な広告にするためのタレントの選定基準について教えてください。

店頭販売の化粧品広告といえば、有名女優の顔を浮かべる方も多いはず。数年前まではどのブランドでも旬の若手女優やタレントを起用するのが当たり前でした。ところが、ここ数年で男性タレントやアイドルの広告が一気に増加し、ジェンダーレスな時代の象徴となってきています。

そんな中、コーセーの「コスメデコルテ」が起用したのが大谷翔平。ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で世界中の注目を集めていたタイミングでの広告は、あっという間に国内だけでなく米国にまで拡散され大きな話題になりました。

同社によると、大谷選手起用の情報が解禁された翌日の百貨店の新規購入数は通常の3.6倍、公式オンラインサイトの販売個数は約20倍にもなったとのこと。「旬の若手女優」でもなければ、「男性タレント」でもない、「プロ野球選手」のキャスティングが、これまでの化粧品広告の固定観念を一気に覆したと言えるでしょう。

通販広告も“美人女優の時代”から“共感キャラの時代”へ

では、通販の化粧品広告はどうでしょうか。昔は店頭販売と同様に有名女優やタレントの起用が定石で、インフォマーシャル1でも一世を風靡(ふうび)した往年の女優たちを積極的に起用していたようです。以前は、「美人タレントが愛用している」ことが効果的な広告の条件だったと言えます。

しかし、現在では必ずしもそうではなくなりました。バラエティー番組で人気の高いオネエキャラの美容家や、毒舌セレブタレントを起用した広告などはレスポンスが取れると話題になっています。もともと老若男女に認知されており、嘘や嫌味のないキャラクターで、タレントとして多くのファンを引き付けている方々です。そもそも真っ直ぐな生き方をしており、”生き方に背景がある”ため、好感度が高いだけでなく、商品の良さを伝えると、説得力が増すのかもしれません。

また、最近では美容家やインフルエンサー2がSNSで商品を紹介したことがきっかけになって、事業会社からキャスティングされるケースも少なくないようです。

さらに、「公式アンバサダー3」として、広告出演やSNSでのクチコミ投稿をする方を一般公募する企業も出てきました。確かに両者とも、もともと商品の愛用者であるため、効果や魅力をよく理解しており、一番の広告塔になってくれる存在なのは間違いありません。

今後はお客さまをモデルのように起用した広告も増えるのではないでしょうか。

ブランドにふさわしいタレントを見極める3つの基準

現在はSNS全盛期であり、女性だけでなく男性のスキンケアも一般的になりつつある中で、通販化粧品広告のキャスティングの選択肢は大きく広がりつつあります。女優・モデル・アイドル・バラエティータレント・文化人・美容家・インフルエンサー……さらに女性だけでなく男性も対象です。そんな中で起用すべきタレントの選定基準を考えると次の3点があげられます。

まずは「ブランドのコンセプトに合っていること」。コンセプトとは正反対の生き方をしているタレントは、ターゲットではないお客さまを集めてしまうだけでなく、今のブランドイメージを気に入ってくださっているお客さまを失ってしまう危険性もあります。

次に、「生き方に背景があるタレントであること」。本人が真っ直ぐに自分らしい生き方をしており、どこか消費者が憧れを抱くタレントは好感度も高く、ブランドへの信頼度も高めてくれます。これはインフォマーシャルに登場するお客さまモデルでも同じです。

最後に「一時的なブームではなく、長く支持されていること」。せっかく旬のタレントを起用しても、本人の素行次第では炎上のリスクもあります。長年、芸能界を生き抜き、愛され続けているタレントが理想です。

これから新たにタレントを起用するときはもちろん、「今まで女性タレントを起用していたが、思い切って男性有名人を起用したい」とチャレンジする場合もこの三つの指標に則ってキャスティングすれば、ブランドらしさとインパクトを兼ねそろえた商品プロモーションができるでしょう。

良いキャスティングは、ブランドそのものの価値も大いに高めてくれます。「話題性があるから」「旬だから」ではなく、自社ブランドのコンセプトに合っているかどうかをしっかりと見極めることが大切だと思います。

株式会社フォー・レディー 代表
鯉渕登志子

ブランドの価値を高める第一歩は、自社のコンセプトとお客様の共感軸を見つめ直すこと。フォー・レディーでは、顧客調査を通じて“ブランドらしさ”を言語化し、キャスティングをはじめとしたコミュニケーション設計をサポートします。

用語解説

  1. インフォマーシャル-テレビや動画配信などで放送される“情報提供型広告”のこと。出演者が商品を実際に試しながら効果や使用感を紹介する構成で、通販化粧品では信頼感やリアリティを伝える手法として長く活用されています。 ↩︎
  2. SNSインフルエンサー-SNS上で多くのフォロワーに影響を与える発信者。美容家やタレントだけでなく一般ユーザーが起用されることも多く、購買行動に直結する口コミ拡散力が期待されています。 ↩︎
  3. 公式アンバサダー-企業やブランドが公式に任命する“発信パートナー”のこと。SNS投稿やイベント出演を通してブランドの魅力を広める役割を担い、もともとのファンや愛用者が選ばれるケースも増えています。 ↩︎

深掘りQ&A

タレントを起用する場合、最初に検討すべきことは?

まず「誰を使うか」ではなく、「何を伝えたいか」から整理することです。商品コンセプト・ターゲット・ブランドの価値観を明確にした上で、その想いを代弁できる人を探すことがキャスティングの出発点になります。

 SNSインフルエンサーを起用する場合の注意点は?

 一時的な拡散力だけに頼らないことです。フォロワー属性が自社のターゲットと一致しているか、投稿内容がブランドイメージを損ねないかを事前にチェックすることが重要です。投稿内容の監修ルールを共有しておくと安全です。

 ブランドの“らしさ”をどうやって見極めればよい?

社内だけで判断せず、お客様の声や購入理由をもとに整理することがポイントです。お客様が感じている「らしさ」は、企業が考えるイメージと異なる場合があります。アンケートやグループインタビューで“共感の源”を探ることが有効です。

ABOUT US
株式会社フォー・レディー 代表 鯉渕登志子
日本大学芸術学部卒業後、アパレル業界団体にてファッション経営情報誌の編集に携わり、カネボウファッション研究所を経て、1982年に株式会社フォー・レディーを設立。これまで手がけた化粧品・ファッション通販企業は180社を超えます。一貫して「女性を中心とした生活者ターゲット」に寄り添い、消費者の実感から発想することを信条としています。 「自分が使って心から納得できるものを届ける」というポリシーのもと、コンセプト設計からクリエイティブ制作までを一貫して行っています。また、日本通信販売協会などでの講演実績も多数あり、生活者視点のマーケティングを広く発信しています。

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