なぜブランドは育たないのか?「組織の強さ」が左右する復活への道

新規獲得の効率が落ち、販売施策を繰り返しても手応えが得られない――。その背景には、商品や広告だけでは解決できない“組織の課題”が潜んでいることが多いのです。では、強いブランドへと再び成長するために、いま何が必要なのでしょうか。今回のコラムは、『日本流通産業新聞』10月5日号に掲載された「強い通販化粧品会社になるために 基礎講座Q&A vol.96」です。ぜひご覧ください。

日本流通産業新聞
通販・ネットビジネス・健康食品・美容業界などの最新動向を専門的に取り上げる業界紙です。実務に直結する情報を多角的に発信し、多くのビジネス関係者に支持されています。

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手を抜かない姿勢が、強いブランドをつくる

通販化粧品会社 担当者

新規獲得の効率が落ちて、なかなか復活のきっかけがつかめません。長く使用してくれている愛用者はある程度の人数が存在するのですが、その方々の期待に応えるためにも価値あるブランドにしていきたいのですが……。

拡大基調ではない国内マーケットでブランドを拡大していくには、他社との競争に勝ってシェアを奪わなくてはなりません。そのためには強いブランドになる必要があります。

ブランドとして強くなるために何が必要かと考えた時、私が考えるのは「やはり組織が強くならないと難しい」ということです。

例えば、私は全くスポーツには門外漢ですが、最近、国際舞台で強くなった日本のスポーツチームを考えてみるとよくわかります。世界でランキングが高くなった日本のサッカーなどがよい例ではないでしょうか。

私が若いころは日本のサッカーは全く人気もなく、国際ランキングもすごく低かったと記憶しています。これだけ強くなった背景には、Jリーグができて国内の人気が徐々に上がり競技人口も増え、若手選手の層が厚くなったことが要因ではないでしょうか

さらに海外でプレーする選手が出てきたことで、海外志向の高い選手も増加しレベルが底上げされ、体力面も個人技も強くなったように思います。

データの活用もすごい。感覚で強くなるのではなく、確実なデータをもとに体力と技術が磨かれているようです。

このように「強くなる」には、基礎体力=企業としての基盤づくりから、それを支える仕組みができていること、また短期視点だけではなく長期の目標が掲げられていることが必要です。

Jリーグが発足の時から未来への大きな理想を掲げていたように、ブランドならばそのビジョンや企業理念が明確なことが不可欠のようです。それらがある程度定まっていれば、目的に沿って全員がやるべきことを徹底して実行していけばよいのではないでしょうか。

商品開発は“こだわり抜く”モノづくりで

例えば商品開発については、コンセプトに応じたモノづくりに「こだわり」を発揮すべきです。

原料や美容成分にこだわり、モニター調査を繰り返し、確実なエビデンスが得られるまで改良を繰り返します。お客さまや消費者調査で高評価を得られるまで改良。競合の商品とは覆面調査でより高い評価を得られるまで続けるなど、モノづくりは「妥協しない」「こだわりポイントを守り抜くこと」が必要です。

もちろんそれなりに時間もかかります。ある会社の商品開発をお手伝いしたときに、私があまりにOKを出さなかったために、開発期間が長くなったことがありましたが、リリースした後はお客さまに大変喜ばれました。リニューアル商品でしたが、多くのお客さまが納得して購入してくれて、さらに同時にリリースした他の商品までセット買いしてくれたことを覚えています。

その時以来、私は「商品開発は頑固に意志を貫き、目隠しテストで競合商品と圧倒的な差が出たときをゴール」と定め、到達点に至るまで徹底的に細部までこだわるようにしています。

販促・接客は“販売のプロ”が磨き上げる

もう一つ大切なことは、通信販売は直接お客さまとつながりを持てるので、その絆を徹底的に活用すること。

まず、お客さまからの連絡やアクセスはとても重要です。お客さまの声は、会社にとって大きな財産になるので、どんな声もきちんと分析して、販売戦略に活用したいものです。

また、お客さまは1~2年もすると、新規媒体、キャンペーン内容、メイン商品の変化などによってまったく別の人になってしまうので、定期的な定性・定量の調査は不可欠です

最近はそれに加えて、一人一人の肌を診断し、商品を選択することはもちろん、お客さまにあったお手入れをアドバイスする「パーソナルカウンセリング」が必須になります。販売現場も徹底的なこだわりが不可欠。ここでも手を抜くことはできません。

夢を共有する“チーム力”が最終的な差をつくる

コンセプトが明確で、徹底的にこだわった商品、販売手法も抜かりなく考え抜かれていても、それで競合に勝てるわけではありません。

最後には、競合を徹底的に分析して弱点を見つけておくことも必要です。さらにみんなの気持ちを一つにまとめて、スタッフを叱咤激励しながら、「チームとしての夢」を実現するような優れたリーダーが不可欠になります。

多くのプロフェッショナルを集めたとしても、みんなの意識をまとめ上げてやり抜く覚悟を持ったリーダーがいないと、スポーツも勝てないようです。

躍進し、好成績を残したチームには必ず「名監督や名コーチ」が出現し、「チーム全員で夢を共有した」と発言していらっしゃいます。化粧品通販の強いブランドづくりもそうありたいものだと思います。

株式会社フォー・レディー 代表
鯉渕登志子

フォー・レディーは、通販化粧品企業のブランド育成だけでなく、その基盤となる社内体制やチームづくりまでをサポートします。理念共有のためのブレーンストーミング、目標設定ワークショップ、部門横断の連携支援などを通して、「想いが伝わる組織」への変革をお手伝いします。

深掘りQ&A

「組織を強くする」とは、具体的にどんな取り組みを指しますか?

単に人を増やすことではなく、「理念・目標・行動」をチーム全員が共有できている状態を指します。たとえば、ブランドビジョンを全員が理解し、自分の業務と結びつけて行動できているか。社内の部門間で情報が分断されず、販売・開発・顧客対応が同じ目的で動けているか。その仕組みを整えることが“強い組織づくり”の第一歩です。

ブランドビジョンを社内に浸透させるための効果的な方法はありますか?

「発表する」だけではなく、「自分たちで考え、言葉にする場」を設けることが重要です。フォー・レディーでは、社員参加型のブレーンストーミング(自由討議)などを通して、一人ひとりがブランド理念を“自分の言葉で語れる状態”を目指します。トップダウンではなく、ボトムアップで理念を育てるのが成功の鍵です。

強いブランドを維持し続けるために、経営者が意識すべきことは?

一度ブランドを確立しても、市場や顧客は常に変化しています。そのため、ブランドも「固定」ではなく「進化し続ける存在」と捉えることが大切です。理念やビジョンは変えずに、表現やコミュニケーション手法を時代に合わせて更新するなど、継続的に磨き続けることが、長く愛されるブランドへの近道です。

ABOUT US
株式会社フォー・レディー 代表 鯉渕登志子
日本大学芸術学部卒業後、アパレル業界団体にてファッション経営情報誌の編集に携わり、カネボウファッション研究所を経て、1982年に株式会社フォー・レディーを設立。これまで手がけた化粧品・ファッション通販企業は180社を超えます。一貫して「女性を中心とした生活者ターゲット」に寄り添い、消費者の実感から発想することを信条としています。 「自分が使って心から納得できるものを届ける」というポリシーのもと、コンセプト設計からクリエイティブ制作までを一貫して行っています。また、日本通信販売協会などでの講演実績も多数あり、生活者視点のマーケティングを広く発信しています。

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