クロスセルが失敗するのは、“お客さまの視点”が抜けているから

新規顧客の伸びが鈍化するなか、既存顧客へのクロスセル強化も通販企業が抱える課題です。しかし、どんなにおすすめしても結果がでない──。なぜお客さまは、別の商品には振り向いてくれないのか。その答えを探ってみましょう。今回のコラムは、『日本流通産業新聞』4月3日号に掲載された「強い通販化粧品会社になるために 基礎講座Q&A vol.113」です。ぜひご覧ください。

日本流通産業新聞
通販・ネットビジネス・健康食品・美容業界などの最新動向を専門的に取り上げる業界紙です。実務に直結する情報を多角的に発信し、多くのビジネス関係者に支持されています。

忙しい人向け|対談で学ぶ〝顧客の「なぜ?」に応え、信頼でLTVを最大化する方法〟

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“購入理由”から始めるクロスセルが信頼を生む

通販化粧品会社 担当者

新規顧客数の落ち込みが大きく、既存顧客のクロスセル率アップが大きな課題となっています。当社はメーク落ちの良さが人気のクレンジングが入口商品なのですが、なかなかクロスセルがうまくいかず、困っています。

単品リピート通販で事業を拡大してきた企業から、「クロスセルに苦戦している」という話をよく聞きます。そもそも、単品リピート通販の新規獲得手法は、特定のニーズに対してピンポイントで一品を提案する手法であるため、他の商品を案内する機会が少ないのです。一方でお客さまは、購入した商品には興味があっても、他のアイテムは他社で購入するという消費行動が定着しています。つまりブランド全体へのロイヤルティーが育ちにくいと言えます。

貴社の「メーク落ちの良さ」に惹かれてクレンジングを購入したお客さまが、そのブランドの別アイテムに関心を持たないのは当然です。そんな状態のなかで、例えば何の関連性もない「保湿力の高いクリーム」を売り込んでも、関心を持たれないだけでなく、「押し売りされている」という印象になり、「このブランドは私のことを理解していない」と逆効果になることさえあります。

購入動機に沿った“プラス1提案”が鍵

クロスセルを成功させるには、初回購入の動機を正しく理解し、それに合った提案をすることが必要です。例えば、クレンジングを購入した理由が「毛穴の角栓を落としたい」だった場合、開いた毛穴を引き締める美容液をクロスセルするべきです。一方で、「ダブル洗顔不要で時短になる」という訴求に惹かれた場合は、手軽さや利便性を重視した商品を提案すると、よりニーズにマッチした「プラス1」の提案になります。

このようにクロスセルには、お客さま視点で納得できる「その商品を使うべき合理的な理由」や「一緒に使用するメリット」を伝えることが不可欠です。

クロスセル商品を使って満足していただければ、お客さまは「自分の悩みを解決する良い商品を提案してくれた」「自分のことを理解してくれている」と感じ、ブランド全体への信頼性が高まります。

クロスセル商品をお薦めする「合理的な理由」は、必ずしも肌悩みの解決に直結する必要はありません。例えば、敏感肌向けブランドなら「徹底して低刺激にこだわっている」というコンセプトを丁寧に伝えれば、肌に優しい化粧品を求めているお客さまが「ライン使いしたい」と思ってくださるでしょう。

このように、クロスセル施策を成功させるには、提案に明確で合理的なロジックを持たせることが重要です。しかし商品の特性によっては、クロスセルのハードルが高いケースもあります。貴社のように洗顔料が入口商品だと、保湿ケアにクロスさせようとする場合は、商品カテゴリー間の関連性が薄いため、なかなか難しいでしょう。

新しく商品やブランドを発売する際は、あらかじめクロスセルしやすい商品設計を意識したいものです。さらに、美容理論やメソッドをしっかり構築し、複数使いのメリットを打ち出せるようにすることで、自然とクロスセルがしやすくなります。

クロスセルは“売り方”より“関係の築き方”で決まる

クロスセルを成功させるためには、どのような情報を提供して、どのように関連アイテムをお薦めするかという、タイミングやオファー内容にも工夫する必要があります。しかし、あまりにテクニックだけを追求し過ぎると、「単なる売り込みだ」と思われてしまうこともあります。

明確なコンセプトを持ち、それを適切にお客さまにお伝えしていけば、支持してくれるお客さまは必ず現れます。その方々のお声を丁寧に聞きながら、誠実にご要望に応えていくことが、遠回りのようで最も近道なのです。そうすればお客さまは強力な支援者となり、さまざまな商品を購入してくれるロイヤル顧客になってくれるでしょう。

クロスセルを単なる売り上げ向上の手段ではなく、お客さまとの長期的な関係を築くための戦略として捉えることが大切です。最終的に、お客さまに、「この商品を使ってよかった」と思っていただき、さらにブランドに愛着をもっていただくこと。それこそが、長期的な視点で見れば「クロスセルが成功し、LTVが高まる」ことなのです。

株式会社フォー・レディー 代表
鯉渕登志子

フォー・レディーは、“お客さまが納得して続けたくなるクロスセル”を、戦略設計からクリエイティブまで一貫してお手伝いします。数字だけでなく、信頼と愛着を育てるブランドづくりを一緒に進めましょう。

深掘りQ&A

クレンジングなど入口商品の場合、どうやって自然に他商品へつなげればいい?

スキンケア全体の「美容理論」や「メソッド」を明確にすることが重要です。単に“洗う→保湿する”の流れを説明するのではなく、“肌の土台を整える”という共通テーマを設定し、その中で複数商品が役割を持つように設計します。ブランドの世界観で“使い分けの理由”を語ることが、自然なクロスセル導線になります。

クロスセルを強化したいが、社内で「売り込みっぽくなる」と反対される場合は?

まず「売り込みではなく“お客さまの課題解決提案”」であることを社内で共有しましょう。 実際にお客さまの声を集め、「〇〇が良かった」「次は△△も使ってみたい」など、自然な拡張の声を見せると、営業・CRM・コールセンターの理解が進みます。内部の意識統一もクロスセル成功の鍵です。

ABOUT US
株式会社フォー・レディー 代表 鯉渕登志子
日本大学芸術学部卒業後、アパレル業界団体にてファッション経営情報誌の編集に携わり、カネボウファッション研究所を経て、1982年に株式会社フォー・レディーを設立。これまで手がけた化粧品・ファッション通販企業は180社を超えます。一貫して「女性を中心とした生活者ターゲット」に寄り添い、消費者の実感から発想することを信条としています。 「自分が使って心から納得できるものを届ける」というポリシーのもと、コンセプト設計からクリエイティブ制作までを一貫して行っています。また、日本通信販売協会などでの講演実績も多数あり、生活者視点のマーケティングを広く発信しています。

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