販売データに見る市場の潮流 スキンケアニーズの二極化とは

最新の化粧品販売データを改めて分析すると、国内外の市場構造が大きく変化していることがわかります。インバウンドや越境ECによる海外需要の伸長、国内では「時短型」と「機能性特化型」の二極化が進行。メイク分野では「見栄え重視」「スピーディーな結果」への傾向が強まっています。統計データは“過去”を示すだけでなく、次のヒットやトレンドを読み解く“未来の指標”にもなり得ることがわかりました。今回のコラムは、「週刊粧業」11月26日号に掲載された「激変するコスメマーケット 第43回」です。ぜひご覧ください。

週刊粧業
化粧品、日用品(トイレタリー製品、石鹸洗剤、歯磨き等)、医薬品、美容業、装粧品、エステティック等を中心とした精算・流通産業界の総合専門紙として、日々変化する業界の最新動向を伝えています。

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統計データに見る市場の変化と海外需要

最近、化粧品販売の統計データを調べることがあった。辞書のような分厚いデータ集と首っ引きで数日間を過ごすことになった。これまで、統計的なデータは市場の動きを後から追いかけてくるので、『先読み』の資料としては、あまり役立つことは少ないと思っていた。しかし、あらためて事細かく資料を見てみると、意外に役立つことが多いことがわかった。

まずここ5年間の販売データの変化を見てみると、マーケットのトレンド変化がよく分かる。日本の化粧品販売額は、5年間で120%あまり伸びている。しかし国内だけでみると毎年の伸び率ごくわずかで、大きく売り上げを伸ばしているのは、海外からのインバウンドとアウトバウンド、越境EC等の海外需要だ。ほとんどの化粧品メーカーの活況は、海外の方々のニーズに支えられてきたといっても良い。ただし国内で人気のあるブランドでないと、海外の人々にも人気は出ないようだ。国内とニーズが少し異なるのは、中国マーケットの『パック人気』。中国女性のスキンケアニーズを調べると、第一に人気があるのはパックで、日本人の『化粧水好き』と同じような傾向があるようだ。

国内スキンケア市場の二極化と生活ニーズ

国内マーケットの半分弱程度を占めている『スキンケア』は、二極化の傾向が見られる。1つは通販化粧品から火がついたオールインワンに代表される「時短ニーズ」に応える商品群で、初期の頃とは異なって、「○本の役割をこれ1つで」という売り方にプラスして、美白効果や乾燥小ジワ対策など「さらに○○もできる」と『専門特化』型も出てきている。一方では、「与えるスキンケア」ではなく、クレンジングや洗顔などの「落とすケア」の方でも、「W洗顔不要などのオールインワン」が出てきている。こちらは「肌に負担をかけない洗顔」という切り口になっている。しかしいずれにしてもこれらは、面倒くさいものはまとめたい「時短ニーズ」に応えたものといえよう。その対極に位置していると思われるマッサージ関連商品は不振が続いており、「面倒なことはやりたくない」という声が聞こえてきそうだ。

もう一方の傾向は、アンチエイジング、美白、超保湿などの『スペシャルケア美容液』関連だ。1商品の売り上げで100億円超えも出るほどのヒット商品が生まれて、ニーズを牽引し続けている。これは、「肌悩みは徹底解決したい」というニーズに応えた『機能性サイエンスコスメ』というべき分野で、早く確実な効果を出したいという「スピードニーズ」と言えよう。あわせて「気になるところをケアしたい」というパーツケアも、これまでよりニーズが高まっているようだ。予防分野では、UV商品が全ての世代にその必要性が理解されつつあるようで、ニーズも定着しつつある。

メイク市場に見る“即効性と見栄え”の時代

「時短ニーズ」も「機能性サイエンスニーズ」も、両方とも忙しい女性たちの生活が垣間見られるような傾向である。

メイク商品では、「見栄え」が重要になっているようで、「インスタ映え」などの言葉に表れているように、「どう見えるか?」が購入のニーズになっており、目や唇のポイントメイクやベースメイクの人気に繋がっているようだ。これも「どうせメイクをするなら、きれいに見せたい」という気持ちの表れのようだ。つまりお客様の要望は、よりストレートに、より直接的に、よりスピーディーになってきていることがよく分かる。

このように、たまに販売データを俯瞰で見てみると、あらためて大きなニーズの変化が読めるので、過去の振り返りだけではなく、これからのマーケットのトレンド変化を予測するのにも役立つような気がした。

株式会社フォー・レディー 代表
鯉渕登志子

フォー・レディーは、通販ビジネスを「点」で捉えるのではなく、マーケティングの視点を取り入れながら「線」で捉え、お客様調査から顧客育成まで通販事業を一気通貫でサポートすることが最大の特長です。

深掘りQ&A

スキンケア市場ニーズの「二極化」とは?

“時短型オールインワン”と“高機能型美容液”という、真逆の志向が同時に伸びていることを指します。

メイク商品のトレンドにはどんな変化があるか?

SNS映えや即効性を求める傾向が強く、「どう見えるか」が購買の決め手になっています。

統計データを見る意義は?

数字は過去を示すだけでなく、今後のトレンドや生活者の価値観変化を予測するヒントになります。

通販化粧品企業が得られる示唆は?

「効率」「実感」「見栄え」という3つのキーワードを軸に、顧客ニーズに合わせた商品設計と訴求軸の見直しが必要です。

ABOUT US
株式会社フォー・レディー 代表 鯉渕登志子
日本大学芸術学部卒業後、アパレル業界団体にてファッション経営情報誌の編集に携わり、カネボウファッション研究所を経て、1982年に株式会社フォー・レディーを設立。これまで手がけた化粧品・ファッション通販企業は180社を超えます。一貫して「女性を中心とした生活者ターゲット」に寄り添い、消費者の実感から発想することを信条としています。 「自分が使って心から納得できるものを届ける」というポリシーのもと、コンセプト設計からクリエイティブ制作までを一貫して行っています。また、日本通信販売協会などでの講演実績も多数あり、生活者視点のマーケティングを広く発信しています。

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