化粧品開発には、処方設計から容器・広告づくりまで、膨大な時間と工程が必要です。しかし、業界全体として明確な年間スケジュールが定まっておらず、開発・販促のタイミングが企業ごとにバラバラなのが実情です。「商品が間に合わず先行販売ができなかった」「PR準備が追いつかなかった」―。そんな課題を無くすには、部署間の時間感覚を合わせ、スピードと精度を両立する“開発リズム”の共有が欠かせません。今回のコラムは、「週刊粧業」9月24日号に掲載された「激変するコスメマーケット 第42回」です。ぜひご覧ください。

週刊粧業
化粧品、日用品(トイレタリー製品、石鹸洗剤、歯磨き等)、医薬品、美容業、装粧品、エステティック等を中心とした精算・流通産業界の総合専門紙として、日々変化する業界の最新動向を伝えています。
ファッション業界に学ぶ「年間リズム」

今回は化粧品ビジネスの「時間感覚」について考えたい。私は若い頃ファッション業界に在籍していたお陰で、ファッションの小売業&メーカーの年間スケジュールが叩き込まれたように思う。つまり年間の展示会&発注会、店頭の投入とバーゲン時期、それに伴うモノづくり&情報収集の時期、海外コレクションの時期などが明確で、業界全体の年間暦があった。
独立してから化粧品業界に携わって、「ファッション業界ほど、明確に年間スケジュールが確立していない」と思ったのが、最初の印象だった。何しろ毎シーズンごとに商品が変わるわけではないので、商品開発の時間感覚が会社によって大きく異なる。ただし販売方法は、季節性を打ち出さないと商品の切り替えが促進されないので、季節ごとのキャンペーンが不可欠なことは、両方の業界とも共通しているように思う。今日では化粧品の場合は、季節ごとの打ち出しよりも、商品のリニューアルによる商材のレベルアップを訴求する方がはるかに重要な販売チャンスになっているようだ。
商品開発と広告づくりの“時間の壁”

そして化粧品業界の商品開発と販売促進の時間感覚を改めて振り返ってみると、ファッション業界とは違い、各社が全くバラバラだと気がついた。たとえば商品開発については、原料や素材から開発している会社は、10年単位で考えているし、OEMに生産を委託しているような会社では1つの商品をリニューアルすると3~5年程度は継続販売をしているようだ。シーズン商品はともかく基礎ラインをファッションのように毎年リニューアルするのはまれだと思う。
また新商品にしても、リニューアル商品にしても、開発に費やす時間についても各社まちまちだ。独自の開発手順ルールを定めて、テストや検査の回数、評価値の合格ラインまで、詳細に決めている会社も多い。
ターゲット層や商品の効能・機能が決まり、処方が決まっても、次は容器や広告づくりがまた大きな課題だ。イメージだけで容器づくりはできない。使い勝手の良さ、手になじむ形とサイズ、容量と使用量、そして何よりもデザインのメッセージ性など、これらが全部満足できる状態になり、処方されたバルクとの相性もよくなければ、完成品にはならない。これらを何度も繰り返してよりよいものをつくろうとすると、時間はいくら有っても足りなくなってしまう。
スピードを合わせる人が“ヒット”を生む

広告づくりも同様だ。キャッチフレーズやビジュアルを練り直し、「これだ」というモノが出来上がって調査を繰り返しても、お客さまは調査の時と現実に購入する時の行動は少し異なるようだ。
そんな様々な作業を経て、やっと商品リリースの日が近づいてくる。広告の出稿枠も手配した。ところがその段階になっても、まだまだできなかったことが山ほど出てくる。たとえば「商品の完成がギリギリだったのでロイヤル顧客向けの先行販売ができなかった」、あるいは「事前にもっとPRを充実させたら予約販売で盛り上げることもできたかも知れない」など、時間とスピードに追われて、手が回らなかったことの反省が山ほど出てくる。デスクプランだけではなかなか上手くいかない。
それもこれも、関わっている部署や人間が多いために、足並みやスピード感が揃わなかったということなのかも知れない。各社がバラバラのスケジュールで動いているために、業界の年間暦などの習慣もあいまいで、なかなか時間配分やスピード感が醸成されない環境なのかも知れない。
それでも様々な条件のスピードをぴたりと合わせることができる人だけが、『ヒット商品』を生み出すことができるのではないかと思う。

鯉渕登志子
フォー・レディーは、通販ビジネスを「点」で捉えるのではなく、マーケティングの視点を取り入れながら「線」で捉え、お客様調査から顧客育成まで通販事業を一気通貫でサポートすることが最大の特長です。
















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