東京・銀座では「アート」をテーマにした街づくりが進み、日常に創造的な刺激をもたらしています。この流れは、化粧品の世界にも通じるものがあります。通販化粧品では長く“中身で勝負”の姿勢が主流でしたが、成熟市場の今こそ、パッケージやデザインにも感性を反映し、ブランドの世界観を伝えることが重要です。アートの発想を取り入れた化粧品づくりは、顧客の五感に響く新しい差別化のカギとなるでしょう。今回のコラムは、「週刊粧業」4 月30日号に掲載された「激変するコスメマーケット 第39回」です。ぜひご覧ください。

週刊粧業
化粧品、日用品(トイレタリー製品、石鹸洗剤、歯磨き等)、医薬品、美容業、装粧品、エステティック等を中心とした精算・流通産業界の総合専門紙として、日々変化する業界の最新動向を伝えています。
「銀座に広がる“アート”の波と生活者の高揚感

我社の事務所がある東京・銀座は今「アート」気分で盛り上がっている。そもそものキッカケは、昨年4月に森ビルとJ.フロントリテイリングがオープンさせた「ギンザ シックス」だ。
能楽堂を擁し、草間弥生のアート、森美術館の知見があらゆるところに生かされている。そして今年は、ダニエル・ビュレンのストライプ。少し離れた日比谷には、今年「東京ミッドタウン日比谷」がオープンした。こちらは映画や舞台を擁して、三井不動産がオープンさせた。
「アート」をテーマに取り入れた商業施設は、「一度は見てみたい」私のような物見遊山や観光目的で来店する人が多く、スマフォでパチパチと写真を撮るほど人気スポットになる。
個人的なことだが、私の場合は何か買い物をする訳でなく、何が楽しいという訳でもないが、非日常的なモノや空間に浸れるのが、なんだかとても嬉しい。本当は自宅も素敵なインテリアで、素敵なアートがさりげなく飾ってあるような家にしてみたいと思うが、一般庶民にはなかなか叶わない夢だ。
アート”を感じる化粧品パッケージの可能性

そこでもっと身近なもので、少しだけ心がウキウキするようなモノが出来ないかと考えたら、一番身近な化粧品のパッケージに「アート」を取り入れたら、さぞ楽しいだろうと思った。昔アパレル業界で働いていた時は、ファッションデザイナーたちはいつも「アートからインスピレーションを得た」などと発信することが多かったので、そんなイメージで化粧品パッケージもデザイン出来たら楽しいのではないかと考えて、ワクワクした。
そんな「壮大な夢」を心に秘めて、容器デザインに関わってみると、なかなかそれはとても難しいことだということが、よく理解できた。まず今は、容器メーカー各社はとても忙しく、なかなか小ロットの容器を発注し難い。
国内だけではなく、中国など海外でも日本製の化粧品はとても人気が高いので、容器の生産が間に合わないことが頻発し、人気商品は「販売中止、数量制限」なども起こっているようだ。
すぐに生産出来るのは、いわゆる「あり型」という容器メーカーの定番商品のみで、色使いや加工の仕方次第では、こちらもロット1が少なければコストが高くなってしまう。ますます「アート」とは遠くなってしまうので、他社、他ブランドとの差別化もなかなか図れない。
そもそも化粧品のパッケージは、その「ブランドのコンセプトや考え方=ブランディングをビジュアルに表現」するものなのでもっと気軽に、自由にデザインできたら、もっと楽しく、もっとバラエティーに富んだ製品が、多く世の中に登場するのではないかと思う。
“中身勝負”から“感性勝負”へ ブランド価値の進化

もちろん化粧品は、中身のバルク2を使用する製品なので、容器にお金をかけるべきではないという議論もある。特に私が関わっている「通販化粧品」各社は、昔から「容器にお金をかけないで、中身で勝負する」と主張してきた会社も多い。
それはそれで一理あるが、では「ワクワクする」ことや「楽しい」「嬉しい」など五感に響くモノは、なかなか生まれ難くなるのではないか?「アート」で商業施設や街が変わっていくように、一枚の絵画で自宅のリビングがレベルアップするように、毎日触れる化粧品も、もっと気軽に「わぁ~!」と感動するような「アートのインスピレーション3」から創れる環境があってもよいのではないかと思う。

鯉渕登志子
フォー・レディーは、通販ビジネスを「点」で捉えるのではなく、マーケティングの視点を取り入れながら「線」で捉え、お客様調査から顧客育成まで通販事業を一気通貫でサポートすることが最大の特長です。
用語解説
- ロット-製造や発注の最小単位のこと。少量生産の場合、コストが上がりやすい。 ↩︎
- バルク-化粧品の中身(クリームや化粧水など)の原液部分。容器や外装とは区別される。 ↩︎
- アートインスピレーション-芸術的な感性や作品から得る創造的な刺激。デザインや商品開発の発想源となる。 ↩︎

















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