なぜ今、シニア向け化粧品は「団塊世代女性」に向き合うべきなのか

シニア向け化粧品市場は拡大を続け、多くのブランドが参入する競争市場になりつつある。その中で、単に「シニア向け」を掲げるだけでは、もはや差別化は難しい。これからのエイジングケア市場で成果を出すために必要なのは、ターゲットを思い切って絞り込み、深く理解することではないだろうか。今回のコラムは、『週刊粧業』3月11日号に掲載された「激変するコスメマーケット vol.8」です。ぜひご覧ください。

週刊粧業
化粧品、日用品(トイレタリー製品、石鹸洗剤、歯磨き等)、医薬品、美容業、装粧品、エステティック等を中心とした精算・流通産業界の総合専門紙として、日々変化する業界の最新動向を伝えています。

忙しい人向け|対談で学ぶ〝団塊世代女性の化粧品消費戦略〟

忙しくてなかなか文章を読む時間がない方向け、スキマ時間に聞くだけで学べる音声版をご用意しました。

拡大するシニア向け化粧品市場と「団塊世代」に注目すべき理由

シニア向け化粧品の市場が拡大していることは、1年前にもこのコラムで取り上げた。ますますその傾向は強まり、今も数多くのシニア向け化粧品が発売されている。

国内で唯一拡大が見込める有望市場のため、競合も激化する一方だ。そこで、今回は競合に差を付ける有効な手段について考えてみたい。

私がお勧めしたいのは、徹底してターゲットを絞り込む作戦。それも「団塊の世代1の女性たち」に狙いを定めてはどうだろう。団塊の世代とはご存知の通り、昭和22年~24年生まれの世代のこと。この3年間に生まれた女性たちは、今63歳~65歳になる。彼女達は、これからの化粧品マーケットでは、たいへん大きな存在となる。

今後の10年間唯一、化粧品需要が大きく伸びる国内マーケットだと言ってもよい。これからエイジングケア商品を展開するなら、団塊の世代に絞り込んだマーケティングをお勧めしたい。

団塊世代女性の価値観と消費行動が化粧品選びに与える影響

高度経済成長とともに青春時代を過ごした団塊の世代は、それまでの世代とは明らかに価値観が異なる。特に女性たちは、日本で初めて高学歴となった世代である。

そのため考え方は合理的で、育った環境からアメリカ的な正義感も強く、何よりも、家に閉じこもった”奥様”ではなく”外様”と言われるくらい活動的な中年時代を過ごしている。

そして今60代中盤を迎えた彼女達は、豊かな退職金や子育てからの解放など、ライフステージが落ち着く時期。全世代の中でも貴重な「ゆとりある世代」といえる。

価値観に応じた、合理的で賢い消費行動が基本となるため、選別眼はシビアなものの、自分が気に入った物は迷わず買う。同時に、様々な意味で”自分磨き”を怠らない。だからカルチャーセンターは彼女たちで大盛況だ。

その積極性に起因するのか、いつまでも若々しくいたいという願望も強く、エイジングケア化粧品に対する関心度は抜群に高い。

そんな「アクティブシニア2」の団塊の世代は「友達ネットワーク」が非常に発達しているのも特徴的で、誰かが良いと判断したものは、スピーディーに口コミで仲間内に広く伝わっていく。この世代にファン組織を形成できると一気にブームが広がる可能性も秘めている。

団塊世代女性に響くシニア向け化粧品のコミュニケーション設計

では、そんな団塊の世代の女性達に、どういったアプローチが効果的なのか。第一に、彼女達は自分に自信を持っている事を忘れてはいけない。自分のことを「まだ若い」と信じているので、老人扱いすることは厳禁。30代後半~40代中盤のテイストに、高級感と落ち着きをプラスしていく程度と考えるとよい。

ただし、意識は若いが、体の衰えは避けられない年齢なので、細かい文字や長文の情報は彼女たちを疲れさせ、飽きさせてしまう。情報を詰め込みすぎず、かつ、洗練された”おしゃれ感”が不可欠なのだ。

また、様々な悩みの解決法を知りたいのに、情報が不足している現状も何とかしてあげたい。丁寧な解説や肌悩み解決方法など、彼女達が望む情報をしっかり、わかりやすく伝える事が必要になる。もちろん知的で合理的判断ができる人たちなので、それに対応した説得力のある情報も不可欠と心得たい。

聡明でシビアな団塊世代の女性達の心を掴む製品ができれば、シニア世代向け化粧品は必ず成功するだろう。ぜひともチャレンジしてもらいたいと思う。

株式会社フォー・レディー 代表
鯉渕 登志子

シニア向け化粧品の戦略づくりは、シニアの声や本音をきちんと聞くことから始めてみてはいかがでしょうか。フォー・レディーは、顧客調査やインタビューを通じて、数字だけでは見えてこない“生活者の本音”を丁寧に引き出すことに定評があります。商品設計やコミュニケーションを見直す第一歩として、ぜひご相談ください。

用語解説

  1. 団塊世代-1947~1949年生まれの世代を指す言葉。高度経済成長期とともに青春時代を過ごし、日本で初めて高学歴化が進んだ世代とされる。 ↩︎
  2. アクティブシニア-年齢を重ねても、趣味や学び、交流を積極的に楽しむシニア層のこと。シニア向けマーケティングでは、重要なキーパーソンとなる存在。 ↩︎

深掘りQ&A

なぜ「シニア全体」ではなく、団塊世代にまで絞り込む必要があるのですか?

シニア層は年齢幅が広く、価値観・生活背景・購買行動に大きな差があります。一括りにした設計では、誰にも深く刺さらない表現になりがちです。団塊世代は、育った時代背景や教育水準、消費経験が共通しているため、メッセージや世界観を精緻に設計しやすい世代と言えます。

 団塊世代女性に向けた化粧品で、よくある失敗は何でしょうか?

「シニア=弱者」と捉えた表現になってしまうことです。過度な優しさや説明過多、老いを強調する言葉は、本人たちの自己認識とズレが生じ、距離を生んでしまいます。尊重と対等な目線が欠かせません。

 団塊世代向けの商品づくりで、最初に取り組むべきことは何ですか?

いきなり商品や販促を考えるのではなく、本人たちの言葉で語られる「本音」を聞くことが出発点になります。想定やデータだけで進めるよりも、顧客調査やインタビューから得られる気づきが、その後の判断を大きく楽にしてくれます。

ABOUT US
株式会社フォー・レディー 代表 鯉渕登志子
日本大学芸術学部卒業後、アパレル業界団体にてファッション経営情報誌の編集に携わり、カネボウファッション研究所を経て、1982年に株式会社フォー・レディーを設立。これまで手がけた化粧品・ファッション通販企業は180社を超えます。一貫して「女性を中心とした生活者ターゲット」に寄り添い、消費者の実感から発想することを信条としています。 「自分が使って心から納得できるものを届ける」というポリシーのもと、コンセプト設計からクリエイティブ制作までを一貫して行っています。また、日本通信販売協会などでの講演実績も多数あり、生活者視点のマーケティングを広く発信しています。

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