シニア向け化粧品市場は、国内でも数少ない成長分野として注目を集めている。シミ・しわ・たるみといった年齢肌の悩みに応える商品も増え、技術や成分面での進化は目覚ましい。一方で、こうした「現象解決型」のアプローチだけで、シニア世代の女性たちの本当の期待に応えきれているのか、立ち止まって考える必要もあるのではないだろうか。今回のコラムは、『週刊粧業』7月24日号に掲載された「激変するコスメマーケット vol.10」です。ぜひご覧ください。

週刊粧業
化粧品、日用品(トイレタリー製品、石鹸洗剤、歯磨き等)、医薬品、美容業、装粧品、エステティック等を中心とした精算・流通産業界の総合専門紙として、日々変化する業界の最新動向を伝えています。
シニア向け化粧品市場の拡大と、シミ・しわ・たるみ中心の商品開発

最近、定期的な健康診断の結果が送られてきて、視力が一段と悪くなったことがわかった。
もともと若いころから近眼+乱視だったが、今ではこれに遠視が加わり、ますます複雑化。1~2年に一度、眼鏡を買い替える羽目に陥っている。さらに仕事上、目を酷使することが多く、見難い状況になると目を細めるので、その結果眉間に「しわ」がより、目尻に「小じわ」が多くなってしまった。
そんなわけで最近、表示が認められた「小じわ」用クリーム等を重ね塗りして、何とか改善しないかと挑戦している。
このように化粧品市場ではいま、『シニア向け化粧品』がたいへん注目されている。国内マーケットでは数少ない拡大市場と期待されているだけに、各メーカーからはシニア向け化粧品が多数新発売され、アイテムも充実してきた。しかし、その多くは「シミ、しわ、たるみ」の現象面の肌悩み解消型の商品だ。
確かにシニア層の女性たちのアンケートをみると、解決したい現象として、いつもこの3大肌悩みがあげられる。
シニア女性の肌悩みは、現象改善だけで本当に解決するのか

しかし本当に、シミが多少薄くなったり、しわが1~2本目立たなくなったり、多少たるみが引き上げられた程度で、本当にシニア女性たちの肌悩みが全面的に解決するのだろうか? 少なくとも私の場合は、それだけでは解消しそうにない。
そもそもシニア世代の女性たちが求めているのは、「老けこまないで、いつまでも若々しい肌や姿でいたい」ということなのだ。そのためには、シミ、しわ、たるみを解消する商品であるということはとても大切だが、さらにプラスして、「若々しく趣味をエンジョイ生きる」「キレイに暮らす」等の、ライフスタイル提案が大切なのではないだろうか?
例えば、目尻の小じわと眉間のしわに悩んでいる私に、「いつも苦虫をつぶしたような仕事モードの表情ではなく、もっと楽しい顔をして」という提案が背景にあったら、少しは素直に反省して「老けこむのは止めよう」と、生活態度を改めることを考えるだろう。
つまり本当に欲しいのは「若々しく過ごすための生活提案」なのではないだろうか。
シニア世代の暮らしに寄り添う化粧品と、これからの商品開発の方向性

シミ、しわ、たるみ一辺倒の現象面解決1だけを追いかけていると、いつか化粧品だけの効果では追い付かなくなり、シニア世代の女性たちは、「私はどうせ年齢なのだし、いまさらきれいにならなくても」「年相応でじゅうぶん」等と、お手入れや化粧品に対する関心が薄れてしまうのではないだろうか。
彼女たちは、旅行に、スポーツに、カルチャーに、他にやりたいことは山ほどメニューがある。せっかく「国内唯一の拡大マーケット」と言われながら、化粧品に対する関心が薄れてしまっては『幻のマーケット』になりかねない。
「旅行を楽しむための化粧品」「好きなスポーツや趣味をエンジョイするための化粧品」等々、シニア世代1人1人の暮らし方に寄り添った化粧品、生活を2倍、3倍に楽しめる化粧品、そんな「化粧品の位置づけ」を確保できれば、もっと化粧品を受け入れてもらえるようになるのではないか。
そのためにはシニア世代の生活にもう一歩突っ込んだ、生活提案の伴った商品や販売方法が工夫されてもよいのではないかと思う。

鯉渕 登志子
年齢やライフステージが変わっても、「きれいでいたい」「前向きに過ごしたい」という気持ちは変わりません。だからこそ、化粧品には肌だけでなく、暮らしに寄り添う視点が求められます。フォー・レディーでは、シニア向けに限らず、商品開発の考え方からコミュニケーション設計2まで、企業とともに考えるお手伝いをしています。
用語解説
- 現象面の肌悩み-シミが薄くなる、しわが目立たなくなるなど、見た目の変化として確認できる肌の状態。短期的な評価は得やすいが、生活や意識の変化まで含めた満足とは必ずしも一致しない。 ↩︎
- コミュニケーション設計-商品やブランドの価値を、誰に・どのような言葉や表現で伝えるかを設計すること。広告、CRM、会報誌、Webなど複数の接点を含めて考えることで、使い続けたい理由を育てていく。 ↩︎

















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