効率化の先で、私たちは何を失ったのか―「現場力」を磨くという選択

広告制作の現場は、デジタル化によって大きく効率化された。完成形を事前に共有し、リスクを減らし、スピーディーに進める——それは確かに大きな進歩である。しかしその一方で、現場に立って初めて生まれる発想や判断が、知らず知らずのうちに置き去りにされてはいないだろうか。今回のコラムは、『週刊粧業』10月28日号に掲載された「激変するコスメマーケット vol.12」です。ぜひご覧ください。

週刊粧業
化粧品、日用品(トイレタリー製品、石鹸洗剤、歯磨き等)、医薬品、美容業、装粧品、エステティック等を中心とした精算・流通産業界の総合専門紙として、日々変化する業界の最新動向を伝えています。

忙しい人向け|対談で学ぶ〝完璧な計画が奪う現場力とは

忙しくてなかなか文章を読む時間がない方向け、スキマ時間に聞くだけで学べる音声版をご用意しました。

デジタル化が進む制作現場で感じていた違和感

先日ある得意先で通販カタログの撮影現場に立ち会い、何とも活気に満ちた懐かしい時間を過ごした。

クリエイター出身であるその会社の会長様が、撮影現場でいろいろとリーダーシップを発揮してくださったのだ。次々に新しいアイデアが飛び出し、スタッフはてんやわんやだったが、現場で発揮されるパワフルな「クリエイティブ力」を目の当たりにし、ものづくりの本来あるべき良き時代の姿を思い出したような気がする。

現在の広告制作はデジタル化が進み、作業はスピーディーになった。イメージラフも事前に細部まで作りこめるようになり、撮影作業は机の上で組み立てた「完成予想図」を実現化するという作業的要素が強くなった。このやり方は、編集者やカメラマン、デザイナーなど、制作にかかわるスタッフ全員が同じイメージを共有できるので、失敗のリスクがぐっと減る。得意先にとっても、どんなものが出来上がるのか、事前に確認できるという安心感がある。

その一方で、この技術進化が逆に「現場力」を弱めているのではないか、と私は前々から感じていた。たとえば化粧品の商品撮影では、ボトルの光の反射やテクスチャーのみずみずしさなど、実際に置いてみて初めて感じることがある。メイクならばモデルの肌の色とどんな場面や場所での撮影なのかによって大きく変化する。

ところが、デスクプランできれいに作りこまれたイメージラフ案が時々これを邪魔する。偶然生み出されたアイデアは排除され、安全策として当初のプラン通りのものが作られ、もし余裕があったら偶然案も用意しておく、といった状況にするのが普通の制作者の選択。それも限られた時間の中で行うことになるので、「のちのちデジタル加工で修正すれば…」などの判断も入り、当然ながら偶然案のパワーも削がれていく。

アナログの時代、ものづくりは手探りと賭けの連続だった。広告制作も今とは違い、手書きの線画ラフで撮影に臨み、想像力をフル活用して現場であれこれ試行錯誤した。そのため型にはまらないチャレンジから、新しいものが生まれることも多かった。ところが最近はそういった現場での駆け引きが少なくなり、そもそも企画段階でリスクが少ないと判断できる、無難なものに収まる傾向が強くなっているように思う。

偶然を受け止める力が、現場にはある

はたして無難に小さくまとまって、お客様にきちんと「熱い心」が伝わるのだろうか? 時にはもっと自由に、型破りなチャレンジをしてもいいのではないだろうか、と思っていた。

ところが今回は、得意先の会長様が直々に現場でモノを見てジャッジしてくれたので、いろいろと面白い偶然案が採用された。「現場力」のパワーが復活したのである。

「現場力」の大切さは、広告制作に限らず、どんな場面でも言えることだと思う。たとえば営業ならば予期せぬ出会いを生かす柔軟性、開発ならば失敗から新しいアイデアを見つけ出す多角的な視点、経営ならセオリーに当てはまらない突然のチャンスを逃さない判断力など、日々生まれる現場の状況変化にスピーディーに対応していくことは、必ず「改善・改良・進化の大きなパワー」になるはずだ。

私自身も、いつまでも「現場力」向上を目指して日々努力していきたいと思う。

株式会社フォー・レディー 代表
鯉渕 登志子

私たちフォー・レディーは、戦略や効率だけに頼らず、広告制作や販促企画、企業様とのコミュニケーション―現場で生まれる違和感や気づきを次の一手につなげることを大切にしています。

深掘りQ&A

「現場力」を高めるために、まず何から始めればいいのでしょうか?

特別なスキルや仕組みを整える前に、「現場で起きた違和感を、そのまま流さないこと」が第一歩だと思います。うまくいった理由、引っかかった瞬間、予定と違った判断、それらを一度立ち止まって言葉にするだけでも、現場力は少しずつ蓄積されていきます。

現場力が弱くなっているとき、組織にはどんな兆しが表れますか?

「予定どおりに進んだかどうか」だけが評価軸になり、想定外の出来事が共有されなくなるのは一つのサインです。失敗や偶然が語られなくなったとき、現場力は静かに衰えていくことが多いように感じます。

ABOUT US
株式会社フォー・レディー 代表 鯉渕登志子
日本大学芸術学部卒業後、アパレル業界団体にてファッション経営情報誌の編集に携わり、カネボウファッション研究所を経て、1982年に株式会社フォー・レディーを設立。これまで手がけた化粧品・ファッション通販企業は180社を超えます。一貫して「女性を中心とした生活者ターゲット」に寄り添い、消費者の実感から発想することを信条としています。 「自分が使って心から納得できるものを届ける」というポリシーのもと、コンセプト設計からクリエイティブ制作までを一貫して行っています。また、日本通信販売協会などでの講演実績も多数あり、生活者視点のマーケティングを広く発信しています。

BACK TO INDEX