通販の基本「伝える力」で化粧品の価値は完成する

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化粧品は、正しい使い方をして初めて価値を発揮する「半完成品1」です。しかし実際には、長年の愛用者でさえ使い方を誤っているケースが多く見られます。特に通販では、対面での説明が難しい分、「伝える力」が商品の価値を左右します。本記事では、伝える工夫の重要性と具体的なアプローチについて、事例を交えながら考察します。今回のコラムは、『日本流通産業新聞』2月8日号に掲載された「強い通販化粧品会社になるために 基礎講座Q&A vol.100」です。ぜひご覧ください。

日本流通産業新聞
通販・ネットビジネス・健康食品・美容業界などの最新動向を専門的に取り上げる業界紙です。実務に直結する情報を多角的に発信し、多くのビジネス関係者に支持されています。

忙しい人向け|対談で学ぶ「“伝える力”で化粧品の価値を完成させるとは?」

忙しくてなかなか文章を読む時間がない方向け、スキマ時間に聞くだけで学べる音声版をご用意しました。

お客さまには“伝わらない”が大前提。これまでの「10倍」は伝えよう

通販化粧品会社 CRM担当者

コロナ禍が一段落したので、久しぶりにお客さまをお招きして「お手入れレッスン会」を開催したのですが、そこでびっくりすることがありました。ロイヤル層のお客さまが商品の使い方と手順を間違えていたのです。使用量も適切ではありませんでした。長く購入してくださっているお客さまなので、これまでに会報誌やDMも送付しており、「よくご存じのはず」と思っていたのですが。

まず「お客さまには使い方などの情報は伝わらないものだ」ということを知るべきだと思います。弊社では、頻繁にお客さまインタビュー(グループインタビュー、デプスインタビュー2など)を実施していますが、ロイヤル顧客3のグループでも必ず使い方を間違っている方がいらっしゃいます。ある通販会社のケースでは、お客さまの80%が商品の出し方を間違っていました。20年間もご愛用いただいている方々だったにも関わらず……。

スキンケアでよく間違えられるのは使用順。一般的な3ステップ「ローション、乳液、クリーム」とは異なるアイテムを組み込んでオリジナルの美容メソッドを提唱しているブランドで、特に間違いが多いようです。次に間違いが多いのが使用量。そもそもメーカーは使用量の目安として、500円玉大とか、パール1粒など、剤形や個々のイメージによって量が異なる表記を使っています。これは手に取った時に分かりやすい表現ではありません。プッシュ式の容器でも、プッシュの回数、おしこむ力の強弱よって出る量は異なります。

このようにこちらが十分にお伝えしているつもりでも、なかなかお客さまには伝わらないものです。ましてシニア層ならば、若いころに身についたお手入れが習慣になって、変えられないことも多いようです。

お客さまに価値が伝わってこそ、「化粧品」は完成する

なぜ使い方が重要かというと、化粧品は存在しているだけでは価値のないもので、お客さまに使っていただき、その効果や心地よさを実感していただいて初めて価値を発揮するものだからです。私はこれを「化粧品=半完成品」と呼んでいます。また処方した人が考えた正しい使い方をしてもらわないと正しい効果も実感できません。

私でさえも「コットンでお使いください」と記載されているサンプルはいつも面倒で敬遠しがちだったのですが、あるメーカーで専用のコットンも一緒にいただいたので、試してみたところ、使用感がとてもよく、効果にも満足できたので、今では時々購入しています。このように化粧品の使い方は、お客さまの購入欲を大きく左右します。

「わかりやすさ」「丁寧」を超えて、伝えるべきこととは?

こちらが十分に伝えたつもりでも、伝わっていないのがコミュニケーションだとつくづく反省させられます。そこで通販化粧品会社の伝え方が十分なのだろうかと、改めて考えてみました。

例えば使用量については前述したように、再現できない例や、人によって異なる量をイメージする例を示すなどは、とてもお客さまに親切だとは思えません。まして使用順やお手入れ方法が他社と異なるなら、表現にもっとこだわるべきだと思います。

例えばカタログの表記の仕方をもっと大胆に工夫すべきでしょうし、ウェブと連動して簡単に動画で確認できる方法もあるでしょう。通販だからといって対面することが禁止されている訳ではないので、リアルイベントなどでお手入れ会をしてもよいでしょう。方法はいくらでもあるはずです。

通信販売は「伝える」ことが基本のビジネスです。ジャパネットたかたの創業者・高田明氏の著書にもあります。「伝えることから始めよう」と。もう一人、著名人の伝え方の例をご紹介します。料理研究家の土井善晴氏が1月20日の日経新聞夕刊「あすへの話題」で「冬菜味わう」というタイトルで、ほうれん草のゆで方を解説していました。これが名文です。

料理を全くしない私でさえ、こんな風にていねいにほうれん草をゆでて食したいと思うほど。文章の最後には「心の置き方で料理は禅にだってなると思う。」と記載されていました。

方法や手順を知り尽くした人が、禅僧になったような気持ちで、自分の両手で料理を作り上げることがよく伝わる文章でした。興味のある人は朝日新聞のアーカイブスにアクセスしてみてください。化粧品もこのような伝え方ができたら、その価値も上がるような気がします。

株式会社フォー・レディー 代表
鯉渕登志子

フォー・レディーでは、貴社の課題やお困りごとに寄り添いながら、お客さまに商品の価値をしっかり「伝える」ためのコンテンツ開発や企画提案など、実務に即したトータルサポートをさせていただきます。

用語解説

  1. 半完成品―化粧品は購入しただけでは完成しておらず、正しい使い方をして初めて“完成”となるという考え方。 ↩︎
  2. デプスインタビュー―対象者と1対1でじっくりと行う深掘り型のインタビュー。購買行動や意識の背景を詳しく探るために用いられる。 ↩︎
  3. ロイヤル顧客―企業やブランドに対して高い愛着や信頼を持ち、継続的に商品を購入している顧客のこと。 ↩︎

ABOUT US
株式会社フォー・レディー 代表 鯉渕登志子
日本大学芸術学部卒業後、アパレル業界団体にてファッション経営情報誌の編集に携わり、カネボウファッション研究所を経て、1982年に株式会社フォー・レディーを設立。これまで手がけた化粧品・ファッション通販企業は180社を超えます。一貫して「女性を中心とした生活者ターゲット」に寄り添い、消費者の実感から発想することを信条としています。 「自分が使って心から納得できるものを届ける」というポリシーのもと、コンセプト設計からクリエイティブ制作までを一貫して行っています。また、日本通信販売協会などでの講演実績も多数あり、生活者視点のマーケティングを広く発信しています。

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