無料サンプルで集まるのは顧客か、それとも“モニター止まり”か

新規顧客の獲得を目的に「無料サンプル」や「無料モニター」を実施する企業は少なくありません。確かに見込み客リストは一気に増えますが、その多くは“試しただけで終わる人”。本当にアクティブ顧客へ育成できている企業は、実はひと握りです。今回のコラムは、『日本流通産業新聞』5月15日号に掲載された「強い通販化粧品会社になるために 基礎講座Q&A vol.21」です。ぜひご覧ください。

日本流通産業新聞
通販・ネットビジネス・健康食品・美容業界などの最新動向を専門的に取り上げる業界紙です。実務に直結する情報を多角的に発信し、多くのビジネス関係者に支持されています。

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新規顧客獲得で見誤りがちな“無料キャンペーン”の本質

通販化粧品会社 新規顧客開発担当者

新規顧客の獲得が横ばいです。見込み客数を増やすため他社がよくやっているサンプルセットを無料でお届けする「無料サンプル」キャンペーンをやってみようかと思っています。立派なポーチをプレゼントしている会社などもありますが、当社では見込客獲得に、正直そこまでの予算をかけられません。

新規顧客の開発は、化粧品通販において永遠の課題です。
店頭販売のように商品を手に取ってもらえる機会がないため、お客さまになってもらうには、まずは商品を手元に届け、試してもらわなくてはならないからです。そのため、多くの化粧品通販会社が多額の予算をかけて、「無料サンプル」「無料モニター」など、お客さまが飛びつきやすい魅力的なキャンペーンを展開しています。

特に「無料」は、お客さまが気軽に飛びつくキーワードですから、マス媒体で広告すると確かにたくさんの応募があり、見込み客リストはぐっと増えます。

“ただ送るだけ”では終わらせない初回対応力

しかし「無料」の販促で集めたお客さまを、本品を購入する「アクティブ顧客」に育成させて成功している企業は、実はほんのひと握りです。

実際に無料モニターを実施している企業の方々にヒアリングすると、多くのお客さまがモニターのみで離脱してしまうという話を聞きます。その理由は、「無料」で入ってきたお客さまは、「得」だから応募したのであって、その商品の特徴や効果をちゃんと理解しているわけではないからです。

今の自分に必要だから買うのではなく、とりあえず安いから買っておこうという、スーパーの特売品を買うのと同じ感覚です。旅行に便利そうと思って化粧品のサンプル請求をしてそのまま洗面所に置きっぱなし……なんて経験はありませんか。そんなお客さまに本品購入を勧めるDMを送っても、捨てられておしまいです。これではいくら見込み客リストの人数が集まっても、意味がありません。

では「無料」の販促が成功しているほんのひと握りの企業はどんなものでしょうか。

弊社では、通販化粧品のサンプルを取り寄せる「ミステリーショップ調査1」を定期的に行っていますが、成功している企業は初回の電話の応対が、他社とまったく違います。 

サンプル請求をした電話の時点で、お客さまの肌悩みをヒアリングし、簡単なアドバイスもしてくれます。その後、肌悩み解決のフォロー電話などで本品購入に誘導しやすいように、初回の電話からきちんとシナリオ(スクリプト)2があるように思います。そんなマンパワーと営業力を持ったコールのオペレーターをそろえた会社だったら「無料」をやる価値はあると思います。

しかし、電話をかけてくるお客さまの多様な肌悩みに丁寧に応対し、的確なアドバイスができるコールセンターの体制を整えるのは企業にとって並大抵のことではありません。普通は鳴り続ける電話を取るだけで手いっぱいになるでしょう。事実、ほとんどの企業は、電話をかけるとサンプル送付先を聞かれて終わりでした。

“数”の網か、“質”の一本釣りか――選ぶべきは後者

新規顧客獲得という命題の元では、1000人応募がくるより1万人応募が来る方が「成功」といえるかもしれません。しかし、無料サンプル以降購入がなければ、その1万人は「顧客リスト」にはなりません。1万人を手厚くフォローできる予算がかけられるのであれば「無料」という「投網方式」も有効ですが、できないのであれば商品の特徴を本当に理解し、必要と感じて買ってくれるお客さまを「一本釣り」したほうが確実なのではないでしょうか。

新規顧客獲得が横ばいという話ですが、御社の商品を必要としているお客さまに真っすぐ届くように、もう一度、商品、クリエーティブを精査してみてください。

一例ですが、今までライン使いで打ち出していたのであれば、思い切って特徴的なスペシャルケア1品に絞ってみるとかするだけでも、何品も買えない、とためらっていたお客さまが試しやすくなるかもしれません。
化粧品通販はリピート客がいて、初めて成り立つビジネスです。目先の「数」に捉われたり、価格競争に巻き込まれて、その本質を見誤らないようにしたいものです。

株式会社フォー・レディー 代表
鯉渕登志子

目先の数ではなく、ブランドを支えるのは顧客との絆。フォー・レディーは、その絆を育む伴走パートナーです。サンプル施策も、DMも、会報誌も――すべては「育てる顧客」を見据えて成果につなげます。

用語解説

  1. ミステリーショップ調査-一般消費者を装って商品を購入・体験し、サービス品質やオペレーションを評価する調査手法。化粧品通販ではコールセンター応対の評価にも活用される。 ↩︎
  2. スクリプト(シナリオ)-コールセンターで使用する応対マニュアル。どんな順序で質問し、どう提案するかを整理したもの。オペレーターの対応品質を左右する。 ↩︎

深掘りQ&A

 「投網方式」と「一本釣り」、どちらを選ぶべきでしょうか?

 予算や体制によって変わります。十分なフォローができるなら投網方式(大量配布)も有効ですが、多くの中堅企業では難しいのが現実です。その場合は、商品の強みを活かした“一本釣り”施策で、必要としているお客様に確実に届けるほうが成果につながります。

無料サンプルで集めた顧客を“本購入”につなげるにはどうすればいいですか?

ポイントは「サンプル使用後の体験フォロー」です。例えば、使用方法や効果実感をサポートするリーフレット同梱や、サンプル到着直後のフォロー電話・メールが有効です。単なる「お届け」で終わらせず、サンプル体験を“商品理解”に変える工夫が必要です。

新規顧客開発が横ばいなのは、サンプル以外に原因があるのでは?

その通りです。サンプル施策は“入口”の一つにすぎません。商品自体の独自性・広告クリエイティブ・訴求メッセージ・顧客インサイト理解といった要素が整っていなければ、いくらサンプルを配っても伸び悩みます。

ABOUT US
株式会社フォー・レディー 代表 鯉渕登志子
日本大学芸術学部卒業後、アパレル業界団体にてファッション経営情報誌の編集に携わり、カネボウファッション研究所を経て、1982年に株式会社フォー・レディーを設立。これまで手がけた化粧品・ファッション通販企業は180社を超えます。一貫して「女性を中心とした生活者ターゲット」に寄り添い、消費者の実感から発想することを信条としています。 「自分が使って心から納得できるものを届ける」というポリシーのもと、コンセプト設計からクリエイティブ制作までを一貫して行っています。また、日本通信販売協会などでの講演実績も多数あり、生活者視点のマーケティングを広く発信しています。

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