シニア女性の本音をつかむ鍵は「身近マーケティング」

これからの通販化粧品にとって、避けて通れないのがシニア女性という存在です。けれども社内に同世代がいなければ、その気持ちや価値観を想像するのは容易ではありません。アンケートや調査に頼るだけでは届かない、彼女たちの「本音」に近づく方法とは?今回のコラムは、『日本流通産業新聞』6月9日号に掲載された「強い通販化粧品会社になるために 基礎講座Q&A vol.34」です。ぜひご覧ください。

日本流通産業新聞
通販・ネットビジネス・健康食品・美容業界などの最新動向を専門的に取り上げる業界紙です。実務に直結する情報を多角的に発信し、多くのビジネス関係者に支持されています。

忙しい人向け|対談で学ぶ〝固定観念を壊し、共感で掴む新化粧品戦略〟

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データの先にある“リアルな観察”こそ本質

化粧品通販会社 担当者

通販化粧品の企画・販売を行っています。このたび、シニア向けの新ラインを立ち上げることになりましたが、社内に同年代の女性がいないため、シニア女性の本音をつかめず苦労しています。どうしたら、シニア女性の気持ちを理解できるでしょうか?

先日、銀座の街でシニア女性に街頭インタビューして驚いたのが、彼女たちの若々しさです。外見はもちろん、年齢にとらわれず、毎日をいきいきと過ごすポジティブな姿勢に、たいへん刺激を受けました。そこには、「シニア=お年寄り」というイメージは全くありませんでした。シニア女性を理解するうえでまず注意したいのは、古い固定観念を捨てて、「シニア」と一括りにしないことです。

シニアと言っても、年代やライフスタイルはさまざまです。これからの通販化粧品の主なターゲットとなる「シニア」は、前述のようにおしゃれをして出かけるようなアクティブな女性たちではないでしょうか?

年代では50代~70代ですが、年齢よりもむしろ「自分のための第二の人生を歩んでいる人たち」で、消費マインドが高く、自分への投資を惜しまない人たちだと思います。

「いくつになってもお祝いはうれしい」—誕生日企画が響くワケ

このような、アクティブシニア1の気持ちを理解するために不可欠なのが、“身近マーケティング2”です。

アンケートなどでお客様の声を集めることも大切ですが、より簡単で効果的なのは、電車の中や街行くシニア女性に目を向けること。彼女たちがどんな服を着て、誰とどんな場所にいるのか、さらにどんな会話をしているのかを観察してみましょう。また、ご家族や親戚、友人、同僚など、身近なアクティブシニアに意見を聞くことも大切です。

そこで得た情報をもとに、「もし、自分だったら……」とシニア女性になりきって考えてみることも必要です。

たとえば誕生日。男性は、年を重ねることを女性がネガティブに感じると考えがちですが、実は多くのシニア女性は、「いくつになってもお祝いされることはうれしい」と答えます。シニア女性を知り、彼女たちの視点で考える習慣をつけることで、本音が分かるようになります。

実際に多くの会社では会員向けの「誕生日企画3」はかなり人気で、開封率やレスポンス率のアップにつながったという例もあります。 

高度成長期を生きた世代ならではの価値観

また、シニア女性が過ごしてきた過去の背景を理解することも大切です。

彼女たちは、高度成長期に少女時代を過ごし、海外文化なども積極的に取り入れてきた世代であり、変化に順応するのが早く、マンネリを嫌います。

そのため特別感を演出した情報提供で、飽きさせないことも必須です。たとえば、季節行事に絡めたキャンペーンやイベント、また「□□で1位に輝いた」というようなわかりやすい数字を使ったアピールも効果的と言えるでしょう。さらに、有職率が高く、向上心や正義感の強い女性が多いのも特徴なので、社会貢献に関心が高く、商品を選ぶ際、会社の理念や考え方の背景を重視する傾向もあります。

これからの通販化粧品ビジネス成功の鍵は、シニア女性が握っていると言っても過言ではありません。しかし、自分の考え方の軸を持ち、変化に敏感で、好奇心旺盛な彼女たちを、満足させるのはたやすいことではありません。

シニア女性を攻略するためには、“身近マーケティング”を通じて彼女たちを知り、同じ視点で物事を考えられるようになることが、必要条件と言えるでしょう。

株式会社フォー・レディー 代表
鯉渕登志子

フォー・レディーは、お客様の日常に寄り添いながら、“本当に求められているもの”を見極めます。調査から企画、クリエイティブ制作まで一貫してサポートし、シニア世代の心を動かす通販施策を共に考え、形にしていきます。

用語解説

  1. アクティブシニア―50代~70代を中心とした、健康で活動的なシニア世代を指す言葉。趣味や旅行、ファッション、美容に積極的で、消費意欲が高いことが特徴です。従来の「お年寄り」というイメージとは異なり、自分のための投資を楽しむ傾向があります。 ↩︎
  2. 身近マーケティング―生活者の姿や会話を身近な日常の中で観察し、ニーズや価値観を理解する方法。街や電車での観察、家族や友人へのヒアリングなどを通じて、データやアンケートでは見えない本音をつかむアプローチです。 ↩︎
  3. 誕生日企画—通販企業が実施する販促施策のひとつ。顧客の誕生日に合わせてDMやメールを送り、特典やメッセージを提供することで「祝ってもらえた」という喜びや特別感を演出。開封率やレスポンス率の向上につながるケースが多い。 ↩︎

深掘りQ&A

なぜ「シニア女性」を一括りにしてはいけないのですか?

シニア世代といっても、50代と70代ではライフスタイルも価値観も大きく異なります。現役で働き続けている人もいれば、趣味やボランティアに時間を使う人もいます。「シニア=お年寄り」という固定観念を捨て、それぞれの“今の暮らし”を見つめることが、共感を得る第一歩になります。

“身近マーケティング”は具体的にどう実践すればいいのでしょうか?

特別な調査を用意しなくても、日常生活の中で観察できます。電車やカフェでの会話、街でのファッションや持ち物、同行者との関係性を注意深く見てみましょう。さらに、親や親戚、同僚など身近なシニアに率直な意見を聞くことも効果的です。

どんな情報発信がシニア女性に響きやすいですか?

変化に敏感でマンネリを嫌う傾向があるため、「特別感」や「新鮮さ」を感じさせる工夫が重要です。季節行事に合わせた企画や「ランキング1位」といった分かりやすい実績は特に効果的です。

ABOUT US
株式会社フォー・レディー 代表 鯉渕登志子
日本大学芸術学部卒業後、アパレル業界団体にてファッション経営情報誌の編集に携わり、カネボウファッション研究所を経て、1982年に株式会社フォー・レディーを設立。これまで手がけた化粧品・ファッション通販企業は180社を超えます。一貫して「女性を中心とした生活者ターゲット」に寄り添い、消費者の実感から発想することを信条としています。 「自分が使って心から納得できるものを届ける」というポリシーのもと、コンセプト設計からクリエイティブ制作までを一貫して行っています。また、日本通信販売協会などでの講演実績も多数あり、生活者視点のマーケティングを広く発信しています。

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