“投網方式”の限界――新規獲得が伸びない本当の理由

近年、多くの通販化粧品企業が口をそろえて「新規顧客が獲得できない」と悩んでいます。
CPRやCPOは数年前の2倍、3倍に膨らみ、ようやく獲得できたお客様も継続して使ってくれるのはほんの一握り。このままでは、事業拡大どころか、規模の維持さえ難しいのでは――。一体、何が起きているのでしょうか。今回のコラムは、『日本流通産業新聞』7月21日号に掲載された「強い通販化粧品会社になるために 基礎講座Q&A vol.35」です。ぜひご覧ください。

日本流通産業新聞
通販・ネットビジネス・健康食品・美容業界などの最新動向を専門的に取り上げる業界紙です。実務に直結する情報を多角的に発信し、多くのビジネス関係者に支持されています。

忙しい人向け|対談で学ぶ〝新規獲得の常識を覆す戦略とは?〟

忙しくてなかなか文章を読む時間がない方向け、スキマ時間に聞くだけで学べる音声版をご用意しました。

数を追う時代は終わり、“質”で勝負する時代に

化粧品通販会社 担当者

最近1~2年ほどまったくと言ってよいほど「新規顧客獲得」が低調です。CPR、 CPOともに数年前の2~3倍のコストがかかります。同時に新規顧客を獲得しても、リピート顧客として継続購入してくれるのは、本当にわずかなお客様です。このままでは事業拡大は難しく、規模を維持するのも難しい状況です。

最近、通販化粧品を購入したことのあるお客様へのインタビューを行うと、驚かされることがあります。通販化粧品が一般化して手軽に利用できるようになった半面、1人のお客様がいろいろ比較するように様々な会社の化粧品を取り寄せて試しているのです。

お試しセットだけでなく本商品を2~3回購入しても、まだ「試している」らしい。つまり本当に自分に合った化粧品かどうか探っている状態という訳です。そして自分の肌悩みに効果があるかどうか実感値で探り、自分の好みのテクスチャーか、自分のお手入れ習慣に合うかどうか、サービスは他社より優れているか等々、様々な面からチェックして、本当の「お気に入り」を探しているのです。

そんな状況であることを聞くと、通販の「新規顧客」というのは、もはや存在しないのではないかと思えてきます。こちらが新規顧客と考えているお客様は、他社で満足せず離脱してきたお客様なので、中途半端な商品やサービスでは満足しないお客様たちです。いわば「高度にジプシー化」しているのです。

そんなお客様を満足させて、本当に固定客として継続購入してもらうためには、他社と同じようなお客様対応では、相手にもされません。必要なのは、他社と圧倒的に差がある「オリジナル性のある明確なコンセプト」と、それを納得させる「感動的なサービスがある」ということになります。

休眠顧客を増やすより、本気のファンを育てよ

そのように考えると、通販化粧品の量の競争はもう終焉して、新たな質の競争に突入したと考えなければならないのではないでしょうか。

テストを繰り返した効率の良い広告をマス媒体に大量に投入してお客様を集める「投網方式1」の新規顧客開発手法は、一時的には新規顧客名簿を集められても、結局は離脱も早い大量の休眠顧客2を生み出してしまい、事業は自転車操業になってしまいます。 

何しろお客様は2~3回購入してもすぐには「本気のファンにはなってくれない」のですから。

そうすると1人ひとり丁寧に自社ブランドに合うお客様を見つけて、長く使い続けてくれる固定客になってもらう戦略の方が、安定経営のためには有効なのではないか?

これがつまり通販化粧品は、量の時代から質の時代に本格的に転換したと言えることではないかと思います。

投網ではなく、小さな接点からつながる顧客開発

質の時代に相応しい新規顧客開発のスタイルは、まず自分のブランドの目的や個性をはっきりさせて、自らお客様を選別するようなコンセプトを打ち立てることが必要です。顧客ターゲットを狭くすることで繁盛店になっている店舗のように。

また量の販売時代のように規模の拡大を追い求めず、圧倒的に支持してくれる熱いファンを作る3ことを目的にすべきでしょう。1人ひとりのお客様情報は、その特徴を詳細に理解して販促施策を組み立てる必要もあります。 

そんなお客様を集めるための「新規獲得」は決して投網方式ではなく、想定するお客様のアクセスしそうなメディア、場所、グループ等に接触する極めて小さなサイズのアプローチではないかと思います。

時には社員が自ら口コミ発信をしたり、お客様イベントで同調者を募ったり、これまでとは異なった方法で自社の考え方に合う顧客開発パターンを見つけなくてはなりません。

そういう顧客育成を可能にするためには、発信する側も化粧品やサービスのプロでなくては、お客様に見透かされてしまいます。 

つまりこれまでの通販化粧品のビジネスモデルが変化しつつあるということなのでしょう。そのためこれからはビジネスモデルの構造そのものも変化させていかなければならないのではないかと思います。

株式会社フォー・レディー 代表
鯉渕登志子

フォー・レディーは、せっかく出会ったお客様を休眠させないために、ブランドの個性を生かしたコミュニケーション設計や施策を、御社と一緒に考え抜きます。会報誌やDM、イベント、コールセンター対応など、あらゆる接点を「ファン育成の場」として活かします。御社ならではの魅力をお客様に伝え続ける仕組みづくりで、長く愛される関係づくりをお手伝いします。

用語解説

  1. 投網方式―効率の良い広告を大量に投下し、一度に多くの顧客を集める従来型の獲得手法。短期的には名簿が増えるが、休眠化も早く「自転車操業」に陥りやすい。 ↩︎
  2. 休眠顧客―一度購入したものの、その後リピートせず離脱してしまった顧客。新規獲得コストをかけても収益につながらないため、多くの通販企業の課題となっている。 ↩︎
  3. ファン育成―単なる購入者を、ブランドに共感し継続的に支持してくれる“ロイヤル顧客”へと育てる活動。DMや会報誌、イベントなど様々な接点でのコミュニケーションが重要。 ↩︎

深掘りQ&A

“質の時代”の新規開発とは、具体的に何をするのですか?

誰でも対象にするのではなく「このブランドは、こういうお客様のためにある」と明確に打ち出すことです。規模の拡大よりも、熱いファンを作ることを目的に、小さな接点から関係を深めていきます。

小さな接点とは、どのような取り組みですか?

例えば社員が自らSNSや口コミで声を届けること、お客様イベントを開催して同調者を募ることなどです。広告一辺倒ではなく、ブランドの考えに共感する人をじっくり集めていく姿勢が大切です。

新規顧客を休眠させないために最も大事なことは?

商品を届けた後のコミュニケーション設計です。会報誌やDMで知識を深めてもらったり、コールセンターで一人ひとりの悩みに寄り添ったりすることが、固定客への第一歩になります。

ABOUT US
株式会社フォー・レディー 代表 鯉渕登志子
日本大学芸術学部卒業後、アパレル業界団体にてファッション経営情報誌の編集に携わり、カネボウファッション研究所を経て、1982年に株式会社フォー・レディーを設立。これまで手がけた化粧品・ファッション通販企業は180社を超えます。一貫して「女性を中心とした生活者ターゲット」に寄り添い、消費者の実感から発想することを信条としています。 「自分が使って心から納得できるものを届ける」というポリシーのもと、コンセプト設計からクリエイティブ制作までを一貫して行っています。また、日本通信販売協会などでの講演実績も多数あり、生活者視点のマーケティングを広く発信しています。

BACK TO INDEX