値引き依存からの脱却 ― ブランドを支えるリピーターを育てるために

値引きサービスは短期的には売上を押し上げますが、繰り返すうちに「お得な時だけ買う」お客さまばかりが残ってしまうリスクがあります。値引きなしでも買っていただけるようにするには、どんな工夫が必要なのでしょうか。今回のコラムは、『日本流通産業新聞』9月1日号に掲載された「強い通販化粧品会社になるために 基礎講座Q&A vol.36」です。ぜひご覧ください。

日本流通産業新聞
通販・ネットビジネス・健康食品・美容業界などの最新動向を専門的に取り上げる業界紙です。実務に直結する情報を多角的に発信し、多くのビジネス関係者に支持されています。

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サービスの積み重ねが値引きに勝る信頼を生む

化粧品通販会社 担当者

当社は値引きサービスを繰り返して売り上げを上げてきました。そろそろお客さまに値引きではなく、商品の良さを認めていただいて購入していただけるようにしたいと考えています。しかし、値引きをやめればすぐに毎月の売り上げ目標が達成できなくなると予測されます。値引き販売を止めて、しかもお客さまを離脱させないためにはどうしたらいいでしょうか。

値引き販売を繰り返していると、お客さまはバーゲン価格に慣れてしまい、正価では買ってくれなくなります。安くなる時期を待ち、商品やブランドに対する価値や愛着ではなく、ただ価格の安さだけが購買の理由になります。

このようなお客さまは次から次へと安い商品を見つけるので、リピート顧客にはなってくれません。会社は売上を維持するために、新たな新規顧客を「値引き戦略」で獲得することになり、「安いから買う」「買ってもらいたいから安くする」という悪循環に陥り、値引き以外のサービスはできなくなり、収益は必ず悪化してしまいます。

“購入しやすさ”を高めるきめ細やかな工夫

こうした値引き販売から脱却するためには、毎月の収益だけではなく、長期的な視点での「作戦」が不可欠です。値引きキャンペーンをやめれば、すぐに売り上げは激減してしまいますので、しばらく値引きはそのままにして、まずはサービスを徹底して充実させることです。

つまり、値引きというマイナスからサービスをプラスする方向にかじを切ることです。そして、サービスの魅力で少しでも継続リピーターになってもらえるような施策を考えるべきです。

例えば、オーダー表に住所や名前を印字して注文を便利にするとか、注文受付時間を長くするとか、交換返品の送料を無料にするとか、使い勝手の良さや購入の手軽さなどでお客さまの立場に立った「購入しやすい」きめ細やかなサービスを充実させることもそのひとつです。

あるいは購入してくださったお客さまに、関連する自社商品のサンプルをプレゼントするなど、お客さまが少しでも「うれしい」と思うサービスを充実させたいものです。サービスのアイデアをお客さまアンケートで募集してみるのも良いでしょう。

そうしてお客さまが感動するくらいの手厚いサービスを提供できるようになれば、リピート顧客も増えて、値引きに頼らなくても売上目標を達成できるようになるでしょう。

生活に役立つ情報誌で“読む楽しみ”を提供する

また、会報誌などで情報を提供することもサービスのひとつです。

お買い得品を紹介するだけではなく、生活に役立つ情報を掲載してはどうでしょう。例えば紫外線を浴びない生活の知恵や、毎日の献立の参考になるレシピ、女性が好きな占いやお客さまの年齢層に合わせた健康情報など、興味を持って読んでくれる情報を掲載してみてはどうでしょう。

お金を出さずに女性誌のような会員情報誌が送られて来たら、価値のある会報誌になるのではないでしょうか。

値引きの代わりにポイントでサービスを充実させることも良いでしょう。

ポイント制1は買えば買うほどサービスが付加されるという最も分かりやすいサービス。ポイントでお好きな商品を買えるのも良いでしょう。また、ポイント数によって非売品をプレゼントするというのも喜ばれているようです。ポイントをためる楽しさを訴求することで、お客様育成にもつながるはずです。 

このように値引き以外のあらゆるプラスのサービスを提供することで、お客さまの満足度は高まり、安いから買うのでなく、商品の価値やブランドへの愛着で買っていただけるようになります。

そうなったときが値引き販売から脱却できるときなのではないでしょうか。

まずは何より、スタッフ全員の知恵と手間暇を掛けた手厚いサービスで、お客様の心をつかむことが、値引き販売からの脱却スタートとなるのではないでしょうか。

株式会社フォー・レディー 代表
鯉渕登志子

“安いから買う”から“好きだから続ける”へ。値引きに頼らず、商品の価値やブランドへの共感でリピーターを育てることが、強い通販化粧品会社への道です。フォー・レディーは、その戦略づくりから実行まで伴走し、御社の成長を支えます。

用語解説

  1. ポイント制度―購入金額に応じてポイントが付与され、貯めたポイントを使って商品や特典と交換できる仕組み。値引き以外で顧客の満足感を高める施策として有効です。 ↩︎

深掘りQ&A

値引きをやめたら、すぐに売上が落ちてしまうのでは?

短期的には売上減のリスクはあります。だからこそ、段階的に値引きを減らしながら、その間に「サービスの充実」を進めるのがポイントです。便利さやお得感をサービスで補い、徐々に値引き依存から脱却していきましょう。

情報誌はコストがかかりそうですが、効果はあるのでしょうか?

単なる商品カタログではなく、生活に役立つ情報や読み物を盛り込むことで「読む楽しみ」が生まれます。ブランドとの接触時間が増え、顧客の愛着が高まるため、長期的なリピート率向上につながります。

ポイント制度は値引きとどう違うのですか?

値引きは即時の割引ですが、ポイントは「買えば買うほど貯まる」という楽しさがあります。ポイント交換や限定特典を用意することで、ゲーム性や収集欲が刺激され、顧客の継続利用を後押しします。

結局、値引き依存から脱却する一番の鍵は何ですか?

「スタッフ全員で考え抜いた、手厚いサービス」です。小さな工夫の積み重ねが“価格以上の価値”を生み、お客さまの心をつかむ。そこから、ブランドを支えるリピーターが育っていきます。

ABOUT US
株式会社フォー・レディー 代表 鯉渕登志子
日本大学芸術学部卒業後、アパレル業界団体にてファッション経営情報誌の編集に携わり、カネボウファッション研究所を経て、1982年に株式会社フォー・レディーを設立。これまで手がけた化粧品・ファッション通販企業は180社を超えます。一貫して「女性を中心とした生活者ターゲット」に寄り添い、消費者の実感から発想することを信条としています。 「自分が使って心から納得できるものを届ける」というポリシーのもと、コンセプト設計からクリエイティブ制作までを一貫して行っています。また、日本通信販売協会などでの講演実績も多数あり、生活者視点のマーケティングを広く発信しています。

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