通販化粧品が直面するターゲット見直しの落とし穴と可能性

創業以来のコンセプトやターゲット層を見直すとき、どうしても「年齢」による若返りを第一に考えがちです。しかし最近の化粧品ユーザーの声を聞いてみると、年齢だけでは語れない新しい価値観やつながり方が浮かび上がってきました。そこには、これからの通販化粧品会社が進むべき方向性のヒントが隠されています。今回のコラムは、『日本流通産業新聞』1月18日号に掲載された「強い通販化粧品会社になるために 基礎講座Q&A vol.45」です。ぜひご覧ください。

日本流通産業新聞
通販・ネットビジネス・健康食品・美容業界などの最新動向を専門的に取り上げる業界紙です。実務に直結する情報を多角的に発信し、多くのビジネス関係者に支持されています。

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ターゲットは“年齢”ではなく“価値観”で再設計を

通販化粧品会社 経営者

創業以来のコンセプト、ターゲット層を変えたいが、注意することはなにか。創業から10年目、お客さまの層も変化してきたと感じるので、これまで掲げてきたコンセプトをリニューアルして、ターゲットとするお客さま層も少し若返りを図りたいと考えています。

お客さま層の若返りを図りたいということですが、特に中高年世代をターゲットにしてきた通販化粧品会社は、客層の若返りとその後のLTV(ライフ・タイム・バリュー)を考えて、若返り戦略に舵を切る会社も多くなってきました。 

そもそも化粧品は、お客さまの肌年齢によって肌質や肌悩みが異なるので、これまでの「年齢」によるターゲットセグメンテーションは当然だったといえるでしょう。そんな背景もあったので、私たちも「同窓会」という切り口で、販売促進の企画を立てていた時期もあります。

たとえば、「同窓会で若く見られたいので、前の日はエステにいったり、パックをしたりしましょう!」というような販促キャンペーンなどが代表的です。

同窓会では語られない「化粧品の話」

ところが最近お客さまのグループインタビューで「同窓会では化粧品の話はしない」と言われました。

えっなぜ? とたずねたところ、「年齢は同じでも、学生だったころとはお互いの生活もまったく異なってしまったので、化粧品の情報交換は難しい」ということでした。

まずそれぞれの経済状態によって使っている化粧品の価格帯が異なる、生活状態によって購入ルートも異なれば、暮らしのゆとりによって使用手順もアイテムも異なる、それまでの美容経験によって使用感の感触評価も異なる――ということらしい。

なるほど、子どものころと同じではなく、それぞれの「生活の差」が大きくなり過ぎているようです。お客さまは、「その点、同じブランドを使用している人だと価値観も近く、思いっきり美容談義ができるので、会えたことがとてもうれしい」と言ってくれた。

おかげでそのグループインタビューは大いに本音トークで盛り上がり、お客さまたちは閉会の前にメールアドレスを交換し、帰りには連れ立ってお茶会をしたらしい。また後日うかがったところでは、趣味の会にも一緒に出かけたとのことです。

年齢や立場を超えた“美容でつながる仲間作り”

お客さまと化粧品会社が「共感」しなければ本当の顧客にはなってもらえない、というのは私の前からの持論ですが、こんなにもお客さまに「共感」「仲間作り」が進行しているとは思っていませんでした。

同窓会やママ友など、年齢や立場からの「つながり」ではなく、美容をテーマにした「つながり」を作ることが可能だと確信した出来事でした。女性たちも立場や関心事で「つながる」仲間作りやコミュニケーションの機会を求めているのです。こんなところに通販化粧品会社の新たな方向性が見えてくる気がしています。

共感を軸にした化粧品ブランディングの方向性

美容に関して、同じような価値基準をもつ「仲間作り」が、お客さま側からも求められています。当社がずっと事業会社に勧めてきた「お客さま参加 型1」は、決して会社側からの「売らんかなの方法ではなく」、お客さまも新たな「つながり」を求めている今の時代に、ジャストフィットしている方法なのです。

新たなコンセプト、新たな顧客層の取り込みを考えるのであれば、こんなお客さまのニーズを満たす、価値観や生活スタイル、美容知識や経験、感触などを盛り込んだ年齢だけではない切り口でコンセプトを提案してはどうでしょうか。 

つまりそれは一般的に言えば「ブランディング2」ということになると思いますが、化粧品会社のブランディングは、女性のお客さまたちの生き方や、社会とのつながり、人とのつながりを提案していくものであれば、より多くのお客さまの「共感」を得られるに違いないと思います。

株式会社フォー・レディー 代表
鯉渕登志子

お客様の声は、ブランドの未来を示すコンパスです。フォー・レディーでは、愛用者調査を通じて貴社の新しいブランディングに欠かせない“生きた声”を引き出します。

用語解説

  1. お客様参加型-企業からの一方的な発信ではなく、お客様がアンケート、グループインタビュー、会報誌、イベントなどに参加し、声や意見がブランドづくりに活かされる仕組み。顧客との距離感を縮め、共感と仲間意識を育てます。 ↩︎
  2. ブランディング-単なるロゴや広告表現ではなく、企業や商品の価値・世界観を顧客に伝え、共感を育む活動全般のこと。顧客が「そのブランドらしさ」に信頼や愛着を持つ状態をつくることを目的とします。 ↩︎

深掘りQ&A

なぜ“年齢”ではなく“価値観”でのターゲット設定が重要なのですか?

年齢は目安になりますが、生活スタイル・経済状況・美容経験などによって実際のニーズは大きく異なります。同じ40代でも「仕事中心でシンプルケア派」と「余裕がありフルラインでスキンケアを楽しむ派」では、響くメッセージが変わります。そのため“価値観”で切り分けるほうが実態に沿った顧客像を描けます。

「お客様参加型」のメリットは具体的に何ですか? 

単なる販促手法ではなく、お客様が声を出せる機会を提供することで「自分の意見がブランドに活かされている」という実感を持ってもらえます。その結果、ブランドへの愛着が強まり、長期的な利用=LTV向上につながります。

どのようにして“お客様の声”を集めればよいのでしょうか?

一度に大規模調査をしなくても、グループインタビューや会報誌での投稿募集、愛用者アンケートなど、小さな仕組みを積み重ねるのが有効です。重要なのは「集める」ことよりも「活かしている姿勢を見せる」ことです。

コンセプトを見直すと既存顧客が離れてしまいませんか?

リニューアル時の大きな懸念点ですが、既存顧客の声を軸にすれば大丈夫です。むしろ「自分たちの声が反映されたブランド」と感じてもらうことで、既存顧客のロイヤル化を促進できます。

ABOUT US
株式会社フォー・レディー 代表 鯉渕登志子
日本大学芸術学部卒業後、アパレル業界団体にてファッション経営情報誌の編集に携わり、カネボウファッション研究所を経て、1982年に株式会社フォー・レディーを設立。これまで手がけた化粧品・ファッション通販企業は180社を超えます。一貫して「女性を中心とした生活者ターゲット」に寄り添い、消費者の実感から発想することを信条としています。 「自分が使って心から納得できるものを届ける」というポリシーのもと、コンセプト設計からクリエイティブ制作までを一貫して行っています。また、日本通信販売協会などでの講演実績も多数あり、生活者視点のマーケティングを広く発信しています。

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