中堅通販化粧品会社が直面する“ちぐはぐ感”の正体

「即戦力」を求めて集めた社員たちが、それぞれの経験値を持ちながらも足並みがそろわない。そんなちぐはぐな現場が続くことで、企業の成長にブレーキがかかってしまうことがあります。中堅化粧品会社の現状から、停滞を招く共通の課題が見えてきます。今回のコラムは、『日本流通産業新聞』8月23日号に掲載された「強い通販化粧品会社になるために 基礎講座Q&A vol.49」です。ぜひご覧ください。

日本流通産業新聞
通販・ネットビジネス・健康食品・美容業界などの最新動向を専門的に取り上げる業界紙です。実務に直結する情報を多角的に発信し、多くのビジネス関係者に支持されています。

忙しい人向け|対談で学ぶ〝即戦力採用の落とし穴と顧客視点・ファン作りの重要性〟

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一度リセットし、全体を“俯瞰”できる仕組みをつくる

通販化粧品会社 経営者

親会社の新規事業としてスタートし、年商30億円ほどで、ここ3年は足踏み状態です。社内は転職社員が多く、創業期を体験している社員は数えるほどです。そのため、なかなか社員のコミュニケーションがスムーズにいかず、さまざまな面でちぐはぐになってしまうことも多くあります。それが改善されないまま、ここまできてしまっているのが現状です。

最近の企業は労働環境の変化で、通販企業だけではなく、ほとんどの企業で流動的な中途採用人材の比率が高くなっている。そのため社員同士のコミュニケーションがうまくできていない会社が多くなっているように思う。中でも業種としての歴史が浅い通販の中堅企業は苦労しているように感じる。


その原因は「即戦力」のある人材を集めようとするあまり、極端に「通販経験者」に絞って採用していることにあるのではないか。同じ通販ビジネスでも扱っている商材が異なったり、お客さまの層が異なったり、経営母体が異なったりすると、まったく別の業種のように仕事のルールや肝となるポイントが異なる。

その上、通販は統計のビジネスなので、新規顧客開発、リピート率、CRM施策など、すべての業務に数字がついて回るもの。「通販経験者」ならば、誰でも数字をもとに考える習性は身についている。

そして「即戦力」として採用されたら、それに応えようとすればするほど、過去の知見や方法にこだわるので、なかなか今の自社の現実にぴったり寄り添うことができない。そうなると、それぞれの業務のプロが集まってくればくるほど、まとまりがなくなってしまうのではないか。

全体を俯瞰する責任者が方向性を示す

通販化粧品のビジネスは産業として歴史が浅いだけに、業務区分も明確ではなく、経験値もまちまちである。まして創業経営者もまだ第一線で活躍中が多いという中では、バラバラになるのも当然だ。

このような歴史が浅く、規模も小さい中堅企業が手を付けなければならないことは、全員が業務全体を「俯瞰」で見られる仕組みを作ること。

おそらく創業して間もない頃は、人数も少なく「全員が業務を理解して」仕事をしていたはずだ。一度その頃の状態に戻して、その上で社員それぞれの経験値がある「得意分野」を担当してもらうべきだと思う。

情報共有の方法はいくらでもある。

  • お客さまの声のデータをまとめて全社員で共有する
  • アンケートでお客さまの潜在ニーズを知る
  • ロイヤルユーザーから話を聞ける場を設ける─など。

そして全員で自社のお客さまをイメージして、お客さまの視点で業務内容を見直して見ることが不可欠だ。その上で、「全体を俯瞰で見る」責任者がビジネスの方向性の指示を出すべきである。

誰にどんな価値を届けるかを全社員で共有する

そのときに考えなければならないことは、PDCAを回すことに加えて、各施策の結果数字に振り回され過ぎると、もともとのビジネスの目的やミッションが忘れられて数字に追いかけられる仕事をするようになってしまうということだ。

数字はビジネスの「狙い目」の結果として、最後に出てくるものである。それ自体が目的になると、本末転倒のビジネス構造になってしまいがちだ。最も大切なことは、「お客さま視点」でビジネスを組み立てることだと思う。化粧品通販のビジネスならば、どんな女性たちに、どんな価値を提供して、何の役に立ち、喜んでもらって、お客さまになっていただくかということが何よりも優先すべきことである。この目的がなくては会社に利益をもたらすことはできない。

全社員が、自社のお客さまはどんな女性たちかということを明確に説明できて、彼女たちがどんなニーズを持っているか、それをどのように解決して喜んでもらうのか、その結果ファンになってもらって、継続するお客さまになってくれるのか、ということを共有できている会社は強いと思う。それがビジネスそのものを「俯瞰で見る」ということだ。

このお客さま視点のマーケティングを論ずることがないまま、目先の業務の数字に左右されることが多くなってしまっていることが、停滞している原因なのではないだろうか。

株式会社フォー・レディー 代表
鯉渕登志子

数字に追われるのではなく、「お客さまに選ばれ続ける仕組み」をつくることが真の目的です。もし、取り組みで迷われることがありましたら、私たちフォー・レディーにぜひご相談ください。未来に続くブランドづくりを、一緒に形にしていきましょう。

深掘りQ&A

なぜ中堅通販企業は停滞しやすいのですか?

商品力があっても、組織の成長スピードに仕組みが追いつかないことが多いためです。人数が増え、中途社員が加わると、創業期のような「全員が全体像を理解している状態」が失われやすくなります。その結果、部署間でちぐはぐが生まれ、意思決定が遅れることがあります。

「お客さま視点」とは具体的に何を指すのでしょうか?

自社の業務や数字から考えるのではなく、「どんな人に」「どんな価値を届けて」「どんな場面で役立ててもらうか」を起点に考えることです。施策の優先順位も、この視点を持つことでぶれにくくなります。

数字を追うことは悪いことですか?

いいえ。数字は大切な指標です。ただし数字自体を目的にしてしまうと、短期的な成果に偏り、本来のブランド価値を育てる取り組みが後回しになります。数字は「結果」であって「目的」ではない、というのが重要な考え方です。

「俯瞰で見る責任者」とは、どんな役割を担う人ですか?

部署ごとの最適化にとどまらず、会社全体の方向性を示す役割を担います。経営者やブランドマネージャーがその役割を果たすケースが多いですが、ポイントは「お客さま視点を軸に意思決定できる人」であることです。

ABOUT US
株式会社フォー・レディー 代表 鯉渕登志子
日本大学芸術学部卒業後、アパレル業界団体にてファッション経営情報誌の編集に携わり、カネボウファッション研究所を経て、1982年に株式会社フォー・レディーを設立。これまで手がけた化粧品・ファッション通販企業は180社を超えます。一貫して「女性を中心とした生活者ターゲット」に寄り添い、消費者の実感から発想することを信条としています。 「自分が使って心から納得できるものを届ける」というポリシーのもと、コンセプト設計からクリエイティブ制作までを一貫して行っています。また、日本通信販売協会などでの講演実績も多数あり、生活者視点のマーケティングを広く発信しています。

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