新規獲得が難しい今こそ、広告頼みを超えて求められる“次の視点”

「お試しセットから本品へ移行しない」「CPOが一向に改善しない」。これまでの成功パターンが通用しなくなった背景には、消費者の“ある変化”が隠れていました。私たちが行ったグループインタビューでも、その兆しは明確に表れてきています。今回のコラムは、『日本流通産業新聞』7月4日号に掲載された「強い通販化粧品会社になるために 基礎講座Q&A vol.56」です。ぜひご覧ください。

日本流通産業新聞
通販・ネットビジネス・健康食品・美容業界などの最新動向を専門的に取り上げる業界紙です。実務に直結する情報を多角的に発信し、多くのビジネス関係者に支持されています。

忙しい人向け|対談で学ぶ〝CPO高騰を乗り越える「本気度」マーケティングの極意〟

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新規獲得の決め手は、広告ではなく“お客様が信じる関係づくり”にある

通販化粧品会社 担当者

新規顧客獲得の効率が落ちています。どうしたら、かつてのような勢いを取り戻せるでしょうか。新規顧客獲得には、一時期の4~5倍の経費がかかっています。また、お試しセットから本商品への引き上げ率も下がっています。回復する決め手はないものでしょうか。

今回もお客さまのグループインタビューで気が付いたことですが、最近のお客さまは「通販メディアを全く信用していない」ということです。

2~3年前までは、50代、60代のシニア女性には、「まだまだ多くのお客さまが新聞折り込みやインフォマーシャルを見てくれている」と感じました。通販化粧品会社が送るリアル媒体も「信用してしっかり読んでくれている」と思えることもありました。

ところが最近のお客さまは50代でも、スマホで購入します。その前に検索して、どの商品が一番良いか、徹底的に比較検討しています。支払いもスマホでクレジットです。スマホだけですべてが完結するのでとても便利だそうです。忙しい女性たちにとって、通販は頼もしい味方になっているようです。

そこで検索の方法ですが、どんな情報でも見るというわけではないようです。メーカーのLPページは検索をスタートすればすぐに表示されるので、一応は目にするのでしょう。ただしそこで購入に進むわけではありません。メーカー側の情報はあまり信用せず、美容家のブログや、ランキングが表示されているサイトの口コミや広告ではないメディアを選んで見ています。また雑誌では比較検討できる記事や、自分と肌質や肌悩みが似ている人の口コミを選んで見ています。

広告は信用されず、個人発信が信頼される時代

大手の検索サイトなどは「あまり信用しない」そうです。理由は「企業からお金をもらって書き込んでいるので、しょせんは『広告』。良いことしか書いていないので信用できない」と言います。それよりも、「広告的な記事を書いていない美容家や、モデルなどが個人的に実感を書いているインスタグラムなどは信用する」らしい。

また「同じ時期にいろいろな商品を薦めている人は、仕事としていろいろな企業からお金をもらっているはずなので、本当の実感かどうか怪しい」ので、見ないようにしているとのことです。

こんな回答が相次ぎ、とにかく少しでも企業側が、「広告」として展開しているものは、まったく信用していない状況です。特に通販目的の広告は、美容意識が高く情報接触が多い女性たちほど信用していないことがよく分かりました。

現在、通販メディアからのCPO、CPRとも効率が落ちていることは、どこの会社でも実感していることだと思います。その理由が彼女たちの言葉に表れています。

信用されていないメディアでモノを売ることほど難しいことはありません。そのため今後の通販は、ターゲット層に必ず届く「メディアミックス1」を徹底する必要があります。

通販依存を超え、小さな接点と本物志向で顧客を育てる

マーケティングの基本は、「誰に、何を、どのように売るか」なので、今後はそれを見据えて、さまざまな信用されるメディアに露出していかなければなりません。投網方式2でお客さまを囲い込むのではなく、さまざまなメディアを通じた小さな出会いを大切にし、お客さまを育てていく以外にはありません。

そのためこれまでのような通販メディアのみの展開を見直し、ターゲットとなるお客さまに確実に届くメディアを厳選して、広告だけではないさまざまな情報発信方法を見つけ、自社の商品内容に合ったお客さまを引き付けていく以外にないと思います。

つまり、もはや通販という業態の特徴だけでは、購入してくれないのです。店舗での接点、人を介しての接点、他社のショッピングモールでの接点などを活用して新規獲得をしていかなければなりません。

これまでのような、大型の通販メディアだけに頼っていては、なかなか新しいお客さまとの出会いは生まれないでしょう。「きれいにするための化粧品を売る」という原点に立ち返って販売方法を再度検討すべき時が来たのだと思います。

利害関係のないお客さまが自主的に称賛してくれるような、広告ではない手法でファンを増やすことも不可欠です。つまり商品開発から新規顧客開発まで、単なるテクニックではない「本物を届ける本気度」が試されていると感じます。

株式会社フォー・レディー 代表
鯉渕登志子

広告だけではお客様に届かない時代になりつつあります。お客様と出会う“ささやかな接点”にこそ、ブランドの軸を伝える工夫が必要です。フォー・レディーは、そのコミュニケーション戦略を共に描いていきます。

用語解説

  1. メディアミックス-一つの媒体に依存せず、複数のメディアやチャネルを組み合わせて発信する戦略。信頼できる接点を増やし、購買につなげる目的がある。 ↩︎
  2. 投網方式-「大きな網を投げて一度に多くを獲得する」ように、不特定多数へ広く一斉に訴求する手法。効率的だが、顧客との信頼関係は築きにくい。 ↩︎

深掘りQ&A

なぜ今、広告がここまで信用されなくなっているのですか?

情報接触が増えたことで、消費者は「広告かどうか」を瞬時に見抜くようになっています。スマホ時代は比較・検索が当たり前になり、企業発信よりも「生活者の実感」や「利害関係のない声」を優先する傾向が強まっているのです。

メディアミックスとは、具体的にどう進めればよいのでしょうか?

単に媒体数を増やすのではなく、「ターゲットが信頼する接点」を選び抜くことが重要です。SNS、口コミ、会報誌、リアルイベント、店頭体験など、それぞれの特性に合わせて役割を持たせ、小さな接点を積み重ねる設計が求められます。

新規顧客獲得だけでなく、既存顧客にもこの変化は影響しますか?

影響します。既存顧客も「広告的な押しつけ」には敏感です。会報誌やメールなどの継続的な接点でも、“情報提供型”や“共感型”の発信に変えていくことで、ロイヤル化につながります。

ABOUT US
株式会社フォー・レディー 代表 鯉渕登志子
日本大学芸術学部卒業後、アパレル業界団体にてファッション経営情報誌の編集に携わり、カネボウファッション研究所を経て、1982年に株式会社フォー・レディーを設立。これまで手がけた化粧品・ファッション通販企業は180社を超えます。一貫して「女性を中心とした生活者ターゲット」に寄り添い、消費者の実感から発想することを信条としています。 「自分が使って心から納得できるものを届ける」というポリシーのもと、コンセプト設計からクリエイティブ制作までを一貫して行っています。また、日本通信販売協会などでの講演実績も多数あり、生活者視点のマーケティングを広く発信しています。

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