成長の次の一手はどこに? 新規と既存のはざまで揺れる通販企業

化粧品通販を成長させるには、新しいお客さまを獲得することが欠かせません。しかし、獲得コストは年々高騰し、思うように成果につながらない――。一方で、創業時から支えてくれているお客さまへの施策は後回しになりがちです。今、企業はどちらを優先すべきなのでしょうか。今回のコラムは、『日本流通産業新聞』10月17日号に掲載された「強い通販化粧品会社になるために 基礎講座Q&A vol.58」です。ぜひご覧ください。

日本流通産業新聞
通販・ネットビジネス・健康食品・美容業界などの最新動向を専門的に取り上げる業界紙です。実務に直結する情報を多角的に発信し、多くのビジネス関係者に支持されています。

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新規よりもまず大切なのは、リピーターを育てる仕組み

通販化粧品会社 担当者

 創業5年目、化粧品通販のベンチャーです。当社はこれまで「新規獲得」を最優先にやってきました。しかし最近は1人当たり1万円のコストをかけても、新規顧客を思うように獲得できません。一方で、創業以来ずっと買っていただいているお客さまに、何のサービスもできていないことが気がかりです。今後はどちらに力を入れたらいいでしょうか。

確かに新規顧客の獲得は通販ビジネスにとって最重要課題ですから、注力するのは当然です。しかし新規獲得に注力するあまり、既存顧客に十分なサービスができていないケースもよく見受けられます。

ロイヤル顧客のグループインタビューを行うと、しばしば「私たちはずっと長く愛用しているのに……」という不満の声も出てきます。商品への興味が薄れたら、ブランドスイッチされて同業他社の「新規顧客」となってしまうのではないかと心配になってしまいます。

新規顧客も既存顧客も、全体のバランスを考えてサービスを組み立てるべきだと思います。そして「顧客満足」はすべての客層に対して常にチェックしておくべきです。創業時からのお客さまに何のサービスもしていないようでは、ロイヤル顧客の離脱要因を抱えているようなものです。つまり、通販化粧品は新規獲得もロイヤル顧客へのサービスもどちらも大事ですし、並行して進めなければならないことです。

しかし、私にはそれ以上に優先すべきことがあるように思えます。それは新規顧客をリピーターに育てるための「仕組み」を作ることです。いくら新規顧客獲得が大事だからと言って、1,000人の新規客を獲得しても、1年後に100人しかリピート顧客が残らないようでは、安定したビジネスを運営できません。新規顧客をいくら集めても、離脱客が多くなるばかりでは、自転車操業になってしまいます。多額の広告宣伝費を投入して獲得した新規顧客ですから、1人でも多く2回、3回とリピート購入していただかなければなりません。そのためには、リピーターを育てる「仕組み」を作ることです。それが、あなたが最優先すべき課題ではないでしょうか。

リピーターを育てるのは“モノ”ではなく“メッセージ”

「仕組み」というと、トライアルセットから、単品購入、定期購入へのステップマーケティング1をイメージする方も多いでしょう。しかし、商品紹介の同梱物や購入を勧める引き上げDMをただやみくもに送っても、なかなか効果は得られないでしょう。重要なのは、この化粧品を使ってお客さまにどのようにきれいになってもらうかという「メッセージ」をきちんと届けることです。

化粧品は「モノ」である前に、お客さまのきれいになりたいという思いに応える役割を担っています。ところが、実際には商品開発の基本であるこのコンセプトができてないために、メッセージ発信がままならない会社もあるようです。 

あなたの商品はどんなお客さまの、どんな役に立ってほしいのか明確になっていますか?また、コンセプトを社員全員が共有し、その思いを基にお客さまに徹底して賛同してもらう「仕組み」を作っていますか?

販促物のブラッシュアップはもちろん、既存のお客さまへのアンケートや座談会などを通じて、商品開発やサービスの充実を図ることも必要でしょう。

このような「仕組み」を作ることが、リピート率の向上、定期加入の促進とともに、ひいてはコアなファンを育て、ロイヤル顧客を生み出す「仕組み」になってきます。この「仕組み」ができれば、新規獲得に予算を投下しても安心できます。まずは小さい規模でリピーターを育てる「仕組み」を作りましょう。

多数の新規顧客を獲得するのではなく、一人一人のお客さまとの出会いを大事にしてリピーターが増え、ファンが増える「仕組み」を最優先で作ってください。

株式会社フォー・レディー 代表
鯉渕登志子

新規獲得もロイヤル育成も、その土台は“仕組み”です。一度のお付き合いで終わらせず、二度、三度と選んでいただけるようにする。そして、気がつけばブランドのファンとして支えてくださるようになる――。そのための仕組みをどう整えるかが、通販ビジネスの未来を左右します。私たちは、その仕組みづくりをお客さまと一緒に考え、伴走します。

用語解説

  1. ステップマーケティング-トライアル(お試し)購入 → 単品購入 → 定期購入 という段階的な購買ステップを設計して顧客を育てる仕組み。 ↩︎

深掘りQ&A

リピーター施策を始めると、新規獲得は後回しにすべきですか?

どちらか一方に偏るのではなく、並行して進めるのが基本です。ただし、限られたリソースを考えると「新規を獲得しても離脱してしまう」という状況を放置しないことが重要です。まずは小規模でもリピーター施策を組み込み、投下する新規獲得予算の効果を最大化しましょう。

リピーターを育てる“仕組み”は、どのくらいの期間で効果が見えるのですか?

期間ははっきりとお伝え出来ません。継続して改善を重ねることで「定期加入率」「リピート率」に変化が現れるはずです。単発のキャンペーンではなく、仕組みとして組み込むことで、1~2年後には安定した成果が見えてくるはずです。

仕組みづくりには、どの部署が中心になるべきでしょうか?

マーケティング部門や通販事業部だけでなく、商品開発やカスタマーサポートも巻き込むことが理想です。なぜなら「仕組み」は販促施策だけでなく、商品の魅力やお客さま対応の品質にも直結するからです。全社でコンセプトを共有することが、最終的な成功につながります。

既存顧客向け施策を強化すると、コストが増えすぎる心配はありませんか?

むしろ、既存顧客への投資は新規獲得に比べて費用対効果が高い傾向にあります。例えば、既存顧客にアンケートや座談会を実施するのは数十万円程度のコストで済みますが、その結果を活かすことでLTVが大きく改善するケースが多いのです。

ABOUT US
株式会社フォー・レディー 代表 鯉渕登志子
日本大学芸術学部卒業後、アパレル業界団体にてファッション経営情報誌の編集に携わり、カネボウファッション研究所を経て、1982年に株式会社フォー・レディーを設立。これまで手がけた化粧品・ファッション通販企業は180社を超えます。一貫して「女性を中心とした生活者ターゲット」に寄り添い、消費者の実感から発想することを信条としています。 「自分が使って心から納得できるものを届ける」というポリシーのもと、コンセプト設計からクリエイティブ制作までを一貫して行っています。また、日本通信販売協会などでの講演実績も多数あり、生活者視点のマーケティングを広く発信しています。

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