エイジングケア市場が拡大する今、欠けている“当事者の声”

この秋、スキンケアからヘアケアまで、多くのエイジングケア商品が発売されています。技術革新や広告表現の変化も追い風となり、市場がより活発になっていることを実感します。私自身も年齢を重ねる中で、こうした商品の価値を改めて感じる場面が増えてきました。その一方で、企業の企画現場を拝見していると、少し気になる点があります──。今回のコラムは、『週刊粧業』11月14日号に掲載され「激変するコスメマーケット vol.4」です。ぜひご覧ください。

週刊粧業
化粧品、日用品(トイレタリー製品、石鹸洗剤、歯磨き等)、医薬品、美容業、装粧品、エステティック等を中心とした精算・流通産業界の総合専門紙として、日々変化する業界の最新動向を伝えています。

忙しい人向け|対談で学ぶ〝エイジングケア商品―作り手と使い手の「ズレ」の正体〟

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エイジングケア商品が増える背景と、実感から見える価値

この秋、スキンケアからヘアケアまで、いわゆる「エイジングケア商品」が相次いで新発売されている。

厚生労働省が化粧品広告において表現可能な効能として「乾燥による小ジワを目立たなくする」という項目を追加したことも、エイジングケア商品誕生を後押ししているのかもしれない。個人的には大歓迎! というところだ。

それというのも、「肌も体もきわめて丈夫にできている」と自認していた若い時には微塵も感じなかったが、最近、健康食品のお世話になったり、気候の変化で肌トラブルに悩ませられたり、ということが頻繁に起こる年齢になり、エイジングケア商品に助けられることがとても多くなったからだ。困っているが即解決&即解消できる商品がなんと多くなったことか! この世代になったからこそ、ありがたみもひしひしと実感できる。

そのような中で、当社も「エイジングケア関連商品」の企画や販売促進、広告制作の案件を依頼される機会が増え、様々な企業の方々と戦略会議をすることも多くなった。そこで気になることは、商品を供給する企業側からの会議参加者に、ターゲット世代の女性がきわめて少ないことである。

ほとんどの企業で、女性経営者を除いて50代の女性たちと同席することはまずない。「エイジングケア商品」の開発ではあるが、現場は働き盛りの30~40代の女性たちと男性陣で推進しているような気がする。これでは、お客様たちの「老化の悩み」や「加齢についての皮膚感覚1」を共有できるのだろうかと時々不安になってしまう。

自分自身の経験に照らし合わせて考えてみても、30代の頃は、まだまだ自分が元気いっぱいで、様々な不具合が出てくることなど、そしてそれがいかに煩わしいかなど想像もできなかった。

そのため50~60代になったら、「見かけも、心もどんなお婆さんになってしまうのか?」と考えていた。ところが自分がその世代に近づくと、精神的には「何も変化していない」。ただ少し「体が若いころとは異なる」だけなので、こうなると「いかに現在の若さを維持するか」ということが大切になってくる。この当事者感覚はなかなか若い世代には分からないと思う。

技術進化と豊富な調査資料の中で起こる“伝わらない”問題

「エイジングケア商品」の開発には、最先端の技術や有効成分が使われていることが多く、この分野の研究開発力は本当に素晴らしいと思う。

また、各社ともターゲット世代のお客様調査やニーズ分析などは、びっくりするくらいの資料が揃っている。その昔「ほとんど思い入れだけ」でモノづくりをしていた時代を経験している世代としては「素晴らしい」と思う。

そんな状況にも関わらず、商品のコミュニケーション戦略や販促企画、広告宣伝等を考える、いわゆる企業サイドに、ターゲット世代の実感を代弁する発言力を持った女性たちが少ないのは、たいへん寂しいことだ。

だから、「加齢」という現実を遠慮がちに伝えて商品本来の効能をわかり難くしてしまったり、逆に「精神的な気持ちは何も変わっていない人々」を相手にしているのに、「老婆扱い」した表現をしてしまって嫌な気分にさせたりという、「間違いコミュニケーション2」が起こってしまう。

今後のエイジングケア商品の拡大を目指すなら、単なるモニター扱いではなく、何らかの形で50~60代の女性たちをご意見番として参加してもらうようなことも必要である。

言い換えると、エイジングケアの必要な世代の女性たちから、商品開発だけではなくサービスやコミュニケーションなどあらゆる面について、いかに「本音」を引き出し、ビジネスの場面に取り入れていくかが不可欠になると思う。

株式会社フォー・レディー 代表
鯉渕 登志子

フォー・レディーは、ターゲット世代の本音を起点に、商品価値がまっすぐ伝わる企画とコミュニケーションづくりをお手伝いしています。エイジングケア市場で「選ばれ続けるブランド」を、ぜひご一緒につくりませんか。

用語解説

  1. 皮膚感覚(スキンセンシビリティ)-年齢とともに変化する肌の“感覚”のこと。乾燥、ハリ不足、敏感化、季節変動など。生活者本人の感覚を理解することは、訴求軸やクリエイティブの方向性を決めるうえで非常に重要。 ↩︎
  2. 間違いコミュニケーション-ターゲットの実態と広告・表現がずれることで発生するミスマッチ。 ↩︎

深掘りQ&A

なぜエイジングケア商材では「当事者の声」が重要なのですか?

40〜60代は「肌悩みが増える一方で、精神的には若い頃と変わらない」という独特の心理を持つ世代です。この“ギャップ”は若い担当者が想像しにくく、広告表現や訴求軸にずれが生まれやすくなります。そのため、当事者の実感を企画段階から取り入れることで、より響く訴求や使い続けたくなる体験価値を設計しやすくなります。

ターゲット世代の参加が不足すると、どんな問題が起こるのでしょうか?

コラムでも触れられている通り、

  • 老け込んだ印象の表現になってしまう
  • 逆に加齢表現を避けすぎて魅力がぼやける
  • 本来の効能を伝えきれない

といった“間違いコミュニケーション”が発生しやすくなります。結果として 新規獲得率・定期継続率が伸びにくい など、通販ビジネスに直結する課題につながります。

企業側に若手担当者が多い場合でも、正しくコミュニケーション設計できますか?

可能です。その場合は、当事者の肌感覚を“翻訳”できる編集者・プランナーを入れたり、50代女性のリアルな生活文脈を可視化した調査資料を基にしたり、中長期で“顧客理解の共通言語”をつくる(ペルソナ・ジャーニーなど)。最低限この3つを揃えることで、若いチームでもターゲット世代の価値観を正しく反映できます。

ABOUT US
株式会社フォー・レディー 代表 鯉渕登志子
日本大学芸術学部卒業後、アパレル業界団体にてファッション経営情報誌の編集に携わり、カネボウファッション研究所を経て、1982年に株式会社フォー・レディーを設立。これまで手がけた化粧品・ファッション通販企業は180社を超えます。一貫して「女性を中心とした生活者ターゲット」に寄り添い、消費者の実感から発想することを信条としています。 「自分が使って心から納得できるものを届ける」というポリシーのもと、コンセプト設計からクリエイティブ制作までを一貫して行っています。また、日本通信販売協会などでの講演実績も多数あり、生活者視点のマーケティングを広く発信しています。

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