離脱客こそ“眠れる資産”―原点に立ち返ると見えてくる顧客育成のヒント

離脱したお客様に試作品を試していただき、声を反映して商品化したところ、多くの方が戻ってきた─そんな事例をセミナーで紹介したところ、「離脱顧客に聞く発想はなかった」との声がありました。なぜそれが特別に見えるのか。今回のコラムは、『週刊粧業』11月25日号に掲載され「激変するコスメマーケット vol.113」です。ぜひご覧ください。

週刊粧業
化粧品、日用品(トイレタリー製品、石鹸洗剤、歯磨き等)、医薬品、美容業、装粧品、エステティック等を中心とした精算・流通産業界の総合専門紙として、日々変化する業界の最新動向を伝えています。

忙しい人向け|対談で学ぶ〝離脱客は眠れる資産_掘り起こす鍵〟

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「離脱客に聞く発想がなかった」という驚き

あるWebセミナーで、「商品開発のために離脱顧客に要望を聞くため、試作品のモニターになってもらい、意見を聞いた。その後完成した商品を試してもらったところ、多くのお客様が戻ってきてくださった」と実例を話した。これに対し、視聴者から「ロイヤル顧客に意見を聞くことはあったが、離脱客に聞く発想はなかった」とのコメントをいただいた。

私としては逆に、いただいたコメントの内容にこそ驚いた。紹介したこの実例は、「商品も一定の顧客からは大変評価されており、サービスも他社と比較して悪いわけではないブランド」の例である。定期購入離脱のお客様に理由をヒアリングした結果も、大きな不満はなく、「私には合わなかった」というコメントが多かっただけである。

それならば、そんな「合わなかった」方々の肌に合う商品を開発してあげれば良いと考えたので、対象者の方々に「商品開発のご意見番としてモニター」をお願いした次第。私としては当然のことを実施したまでだと思っていたが、コメントをいただいたように、「離脱したお客様は、弊社とはもう縁がない」と考えるのが一般的な発想だとしたら大変もったいないことだと思う。

多くの離脱顧客は、自分を“離脱客”だと思っていない

いろいろなブランドのお客様調査をして思うことは、特に化粧品の場合、企業側が「離脱客」とみなしているお客様たちの多くは、ご自身を「離脱客」だと認識しているわけではない。もちろん商品が全く肌に合わなかったとか、企業側が失礼な対応をしてしまったというような場合は、「二度と連絡をしないで」と拒否する姿勢のお客様も存在する。しかし、離脱客の全員がそんな感情を持っているわけではない。

調査で詳しくヒアリングすると、「今は他の商品を使っているのでお休みしているだけ」「もう少し大人になってからその値段で買えるようになったら」「肌状態が改善したので試しに他社のものも使ってみた」といった理由が挙げられ、強い意志を持って離脱したわけではない。

新しい発想より“原点”へ ― お客様に聞くことが最大のサービス

それならば、「もう一度欲しいと思ってもらえる商品を作ってあげよう。そのためにはご意見を聞いてみよう」とシンプルに考えただけなのだが、それが「珍しいこと」とらえられることに疑問がわいた。

このように企業活動の中には、思い込みや、これまでの習慣や慣例などがはびこっていて、顧客とのコミュニケーションが十分機能していない場合が多くある。無理やり新しいアイデアや発想で考えるのではなく、シンプルにお客様に聞いてみれば良いと思う。これは弊社が皆さんにお勧めしている「お客様参加型コミュニケーション1の考え方」だ。

特にEC通販が主流になったお陰で、お客様も気軽に「お試し用」として購入することも多くなった。いろいろなものを試して「自分に合うもの」を探しているため、使ってみてから「合う、合わない」を判断するのは当たり前になっている。

ならば企業側も、「合う、合わない」の理由をもっと気軽にヒアリングしてもよい。その上で、自社がやるべきこと、やらないこと、できること、できないことを明確にして、ブランドのコンセプトをさらに固めていくこともできるのではないか。

これこそ究極のお客様サービスだ。その原点に向かってシンプルに考え、実行することが求められている。

株式会社フォー・レディー 代表
鯉渕 登志子

離脱顧客の声を活かしたい、ブランドの“原点”を見直したい──。そんなときは、どうぞ私たちにお声がけください。お客様に選ばれ続ける仕組みづくりを、一緒に考えてまいります。

用語解説

  1. お客様参加型コミュニケーション-商品開発や企画にお客様の声を直接取り入れる仕組み。インタビュー、アンケート、モニター参加などを通じ、企業とお客様が一緒に価値を作る考え方。 ↩︎

深掘りQ&A

なぜ離脱顧客に意見を聞くことが重要なのですか?

離脱顧客の多くは「強い不満で離れたわけではない」ためです。“お休み”や“比較のために他社を試している”だけのケースも多く、声を聞くことで、戻っていただくための改善ポイントや新たな商品アイデアが生まれます。

離脱顧客の声を集める際、どんな方法が有効ですか?

小人数のヒアリングでも効果があり、アンケート、オンライン座談会、試作品のモニター参加など、気軽に参加できる形が好まれます。「合わなかった理由」を丁寧にたずねることで、商品改善や新商品開発に必要な“本音”を得やすくなります。

離脱顧客に連絡することで、クレームにつながる心配はありませんか?

無理なアプローチをしなければ問題ありません。多くのお客様は自分を「離脱客」だと思っておらず、“気軽に意見を求められる”ことで好意的に参加してくれます。ただし、過去に不快な経験をさせてしまったお客様には、慎重な対応が必要です。

ABOUT US
株式会社フォー・レディー 代表 鯉渕登志子
日本大学芸術学部卒業後、アパレル業界団体にてファッション経営情報誌の編集に携わり、カネボウファッション研究所を経て、1982年に株式会社フォー・レディーを設立。これまで手がけた化粧品・ファッション通販企業は180社を超えます。一貫して「女性を中心とした生活者ターゲット」に寄り添い、消費者の実感から発想することを信条としています。 「自分が使って心から納得できるものを届ける」というポリシーのもと、コンセプト設計からクリエイティブ制作までを一貫して行っています。また、日本通信販売協会などでの講演実績も多数あり、生活者視点のマーケティングを広く発信しています。

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