経営者が変わると、なぜ顧客は気づくのか?通販化粧品における“レガシー継承”の本質

経営者の代替わりは、どの企業にも訪れる転機です。しかし通販化粧品ビジネスにおいては、その影響が“顧客の感覚”として現れることがあります。「何か変わった気がする」—長年の愛用者ほど、言葉にできない違和感を敏感に察知します。今回のコラムは、『週刊粧業』2022年8月1日号に掲載された「激変するコスメマーケット vol.76」です。ぜひご覧ください。

※本コラムは2022年当時の状況を前提に執筆しております。現在と異なる情報を含む可能性がありますが、課題の捉え方や発想のヒントとしてご活用いただければ幸いです。

週刊粧業
化粧品、日用品(トイレタリー製品、石鹸洗剤、歯磨き等)、医薬品、美容業、装粧品、エステティック等を中心とした精算・流通産業界の総合専門紙として、日々変化する業界の最新動向を伝えています。

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通販化粧品における「代替わり」の難しさとは

弊社が多くお手伝いをしている“通販化粧品”企業は、最近、経営者の代替わりが続いている。

店販化粧品や総合通販に比較して歴史が浅く、創業からの年月が比較的短いため、これまで創業経営者が現役で頑張ってきたところも多い。そのため今まさに代替わりのピークになっているのかもしれない。

代替わりの形も様々。オーナー経営者が親族や代表社員に引き継いでいるケースや、M&Aによって株主が代わったケース、中には吸収合併などのケースもある。代替わり自体はすべての組織で起こることなので、改めて論じることではないのかもしれない。

しかし私は通販化粧品という業態の特徴から考えて、経営者の代替わりは慎重にすべきだと思う。

通販化粧品ビジネスは、それこそ100社あれば100のスタイルがあると言ってもよいくらい、各社様々なビジネススタイルを持っている。同一業種だからといって、ビジネスの基本的な勝ちパターンがある訳ではない。

また商材そのものが多岐に渡りバリエーションが豊かで、使用目的や使い方、効果効能まで各社バラバラの美容理論(メソッド)が構築されており、結果や回答が一つではないからだ。

そうしたいわばカオス状態のビジネスを引き継ぐのはとても難しい。さらに“通信販売”というシステムは、小売店というフィルターを通さずに、直接お客様とつながっているだけに、クイックリーな変更ができ難い点も、引き継ぎの難しさを強固にしている。

顧客は“変化”を見抜く——ブランドの正体とは何か

あるブランドのお客様インタビューで、10年以上使い続けてくださっているお客様にお会いした時のこと。「私、3年前くらいから、何か変わったと感じていたのよ。経営者が変わったの?」とズバリ聞かれた。

その会社はブランド名を社名にしているので、株主であるオーナーの変更は広くお客様に知らせている訳ではなかった。

しかも3年前と言えば株主が変更になったちょうどその時。続けて「本心を言うと前の方が好きだった」とのこと。OEM先も、開発の社員も、販促スタッフも全く同じであるにも関わらず、ずばりお客様に疑問を呈された時は、正直なところ背筋が凍り付いた。

お客様は愛用者であればあるほど、商品のテクスチャーから、販促物やサービスまで丸ごと含めて「好き」なので、こちらが変えていないつもりでも、微妙な社内の変化を感じているのかもしれない。

コミュニケーションツールにおいてもクリエイターを変えた時に同様のことを言われたことがある。そのため弊社では、商品や販促、コミュニケーションの変更をお手伝いする時は、お客様調査を徹底し「良い方向に変えていく」ためのリニューアルであることを充分にアピールして、変更や切り替えを実施することをお勧めしている。

レガシーを活かすか、壊すか—意思がすべてを決める

それでも離脱されるお客様は必ず存在するので、経営者が変わって様々な価値基準が変わると、ある程度離れてしまうお客様が出てしまうのは仕方がないことかもしれない。

後は、未来を託された経営者がビジネスをどのように進化させていくか、変更するべきところと、守っていくべきところのメリハリをつけるべきだと思う。要は代替わりの目的によって変更すべきポイントは変わってくるということだ。

通販化粧品というシステムだけを引き継ぎたい場合は、商品を大きく変えることもあるかもしれない。これまでのお客様を大事にしたいと思うのであれば、従来のコンセプトに沿って、これまで充実させられなかったことを改善して、より強い組織にするべきだ。

つまりレガシーをどのように活用して、さらにその先に価値あるものを構築するためには、後を引き継ぐ人々の「思い」がどこにあるのかということが最も大切なのだと思う。

株式会社フォー・レディー 代表
鯉渕 登志子

通販化粧品の代替わりは、単なる引き継ぎではなく、顧客との関係性を再設計する機会でもあります。私たちは、お客様の本音を起点に、守るべき価値と変えるべきポイントを見極めるご支援をしています。

深掘りQ&A

経営者が変わると、必ず顧客は離れてしまうのでしょうか?

必ずではありませんが、「変化の伝え方次第」で大きく左右されます。
顧客は変化そのものではなく、「なぜ変わるのか」「自分にとってどう良くなるのか」が見えないことに不安を感じます。代替わりのタイミングでは、変更点よりも“継承している価値”を丁寧に伝えることが重要です。

リニューアル時に離脱を防ぐために、具体的にできることはありますか?

一気に変えるのではなく、「段階的に慣れてもらう設計」が有効です。
例えば、事前に背景を伝えるコンテンツを出す、既存顧客限定で先行体験を提供するなど、“変化に納得するプロセス”を用意することで、違和感を抑えることができます。

ABOUT US
株式会社フォー・レディー 代表 鯉渕登志子
日本大学芸術学部卒業後、アパレル業界団体にてファッション経営情報誌の編集に携わり、カネボウファッション研究所を経て、1982年に株式会社フォー・レディーを設立。これまで手がけた化粧品・ファッション通販企業は180社を超えます。一貫して「女性を中心とした生活者ターゲット」に寄り添い、消費者の実感から発想することを信条としています。 「自分が使って心から納得できるものを届ける」というポリシーのもと、コンセプト設計からクリエイティブ制作までを一貫して行っています。また、日本通信販売協会などでの講演実績も多数あり、生活者視点のマーケティングを広く発信しています。

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