「売れる商品」はどこから生まれるのか――通販化粧品の原点を見直す

「もっと便利に」「もっと手軽に」といった時代の要請に応えて、多くのブランドが新商品を打ち出しています。ところが気づけば似たような商品が並び、価格競争に陥りやすい状況も…。そんな中で本当に“売れる商品”をつくるには、どんな発想が必要なのでしょうか。今回のコラムは、『日本流通産業新聞』5月9日号に掲載された「強い通販化粧品会社になるために 基礎講座Q&A vol.55」です。ぜひご覧ください。

日本流通産業新聞
通販・ネットビジネス・健康食品・美容業界などの最新動向を専門的に取り上げる業界紙です。実務に直結する情報を多角的に発信し、多くのビジネス関係者に支持されています。

忙しい人向け|対談で学ぶ〝ヒットを呼ぶ「原点回帰」と「顧客との絆」〟

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誰に、何を届けたいのか――基本の価値提供に立ち返ること

通販化粧品会社 担当者

商品開発のアイデアが浮かびません。どうしたら売れる商品の開発につながりますか。新商品の開発を担当しています。定番商品の関連アイテムや時短モノなどを開発してきましたが、なかなかヒットにつながりません。どのような発想、着眼点が必要でしょうか。

具体的な商品内容を考える前に、「そもそも何を提供したくて化粧品を作っているのか」を振り返ることからスタートするのはいかがでしょうか。

まず、女性向けの化粧品の場合は、「若々しくきれいにしたい」「肌トラブルから解放したい」「もっとお手入れを簡単にしてあげたい」など、さまざまな理由でこの業種に参入してくる会社が多いと思います。あなたの場合は、どんな理由で化粧品を作り始めたのでしょうか。

一番大事なのはその点だと思います。そのスタートの理念があれば必ずヒット商品を生み出すことができると思います。

通販化粧品の歴史も同じでした。肌トラブルに悩む多くの女性たちを見て、既存の流通チャネルを経由しない方法で、新しい価値を持つ化粧品の販売を始めた当時の先駆者たちが、この業種の基礎を作ってこられたのです。その後、「より手軽に、便利に」という発想で、オールインワン商品が登場し、化粧品通販チャネルとマッチし、大ブレイクしたことが、この流通チャネルを確固たるモノにしました。

このように大ヒット商品の影にはいつも、既存ビジネスの固定観念に対する「アンチテーゼ」があり、改善・改革を繰り返していく過程で、ヒットが出ているのです。

基本を見失えば、差別化は難しくなり価格競争に

商品開発の基本は、「誰に、何を、どのように提供するのか」ということですが、最近はこの基本の原理原則から考えて開発している例は、多くないように思います。例えば「どこで何が売れているようだ」とか、「OEM会社さんの情報によると……」などからスタートしている例が多いのではないでしょうか。もちろんそのような情報も不可欠ですが、やはり基本は、「どんなお客さまに届けたいのか」ということを最初に考えてほしいものです。

その発想こそが、「他社では簡単にまねのできないオリジナル性」であり、あなたのブランドへの「こだわりや、ポリシー、コンセプト」の源だからです。

しかし、今の化粧品業界は海外からインバウンドや越境ECのおかげで活況を呈しており、新規参入も多くスピード感が求められて、じっくり考えている暇がないのが現状です。

そのため基本に忠実に商品開発をすることよりも、簡単に手に入る情報をもとにモノづくりをしがちです。そして多くのブランドが同じような方向性を打ち出しているため、ますます差別化が難しくなっています。

類似したブランドが乱立し、商品の独自性、また通販チャネルの優位性があやふやになると、消費者は商品やサービスでは選びにくくなり、同じようなものなら価格を基準に選ぶようになります。このような価格競争は、かつてのアパレル業界と同じ道をたどりかねません。

お客さまと直結する強みを活かした参加型の商品開発

こんな現状を踏まえると通販化粧品は「通販チャネル」だからこそできるイノベーションを起こす必要があります。

その一つは最初に申し上げた既存のビジネスに対する「アンチテーゼ」を発見し続けることです。そのためには、どんな人に何を届けたいのかを再度振り返ることです。

二つ目は、通販というダイレクトマーケティングの仕組みを徹底活用することです。通販化粧品は「お客さまと直接つながるコミュニケーションルート」を持っているので、それを活用した、「お客さま参加型の商品開発」ができるはずです。会員である自社のお客さまから、欲しい商品のアイデアを募り、一緒に商品開発に参加していただくのも良いでしょう。実際に商品開発に参加したいお客さまを募集したところ、大好評だった事例もあります。

通販化粧品の財産であるお客さまのデータを多角的に分析・活用することで、これまでにない付加価値の高いサービスや商品が生み出されるのではないでしょうか。

株式会社フォー・レディー 代表
鯉渕登志子

時代の変化や競合の動きに対応しながら、お客様に本当に求められるものを形にするには、確かな裏付けと消費者の声が欠かせません。フォー・レディーでは、商品開発の企画段階から市場調査、消費者モニターまで一貫してサポートします。企業目線だけでは見えにくい「お客様視点」を加えることで、売れる商品のアイデアを確かな成果へと育てていきます。

深掘りQ&A

「お客様参加型の商品開発」を実現する際に気をつけるべきことは?

ただ意見を集めるだけではなく、企業側のブランド方針と擦り合わせることが重要です。お客様の声をそのまま採用してしまうと、ブランドの一貫性が崩れる恐れもあります。参加型開発は「企業が用意した方向性に、生活者のリアルなニーズを重ねる」ことで成功します。

本当に“売れる商品”が生まれる環境とはどんな状態ですか?

一言でいえば「理念とデータが結びついている状態」です。創業時からの想い・ブランドの軸と、お客様の声や数字の裏付けが一体となったとき、単なる流行商品ではなく長く愛される商品が生まれます。逆にどちらか一方に偏ると、ヒットしても短命で終わるケースが多いのです。

ABOUT US
株式会社フォー・レディー 代表 鯉渕登志子
日本大学芸術学部卒業後、アパレル業界団体にてファッション経営情報誌の編集に携わり、カネボウファッション研究所を経て、1982年に株式会社フォー・レディーを設立。これまで手がけた化粧品・ファッション通販企業は180社を超えます。一貫して「女性を中心とした生活者ターゲット」に寄り添い、消費者の実感から発想することを信条としています。 「自分が使って心から納得できるものを届ける」というポリシーのもと、コンセプト設計からクリエイティブ制作までを一貫して行っています。また、日本通信販売協会などでの講演実績も多数あり、生活者視点のマーケティングを広く発信しています。

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