通販化粧品業界では、新規顧客獲得のために大幅な値引きやプレゼントキャンペーンが目立ちます。しかし本当に「値引き」をしなければ売れないのでしょうか?今回は、安易な価格訴求に頼らず、ブランド価値を高めながらファンを増やすための販促の考え方と、戦略的な値引き活用法について考えます。今回のコラムは、『日本流通産業新聞』5月9日号に掲載された「強い通販化粧品会社になるために 基礎講座Q&A vol.12」です。ぜひご覧ください。

日本流通産業新聞
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値引きは戦略的に、長く愛される関係を目指して

通販化粧品事業を立ち上げたばかりの会社です。他社の新規顧客向けの広告や会員情報誌などを参考のために見ているのですが、半額サービスや「もう1本プレゼント」など大幅な値引きが多いような気がします。当社では「値引き販売」をしておりませんが、通販化粧品は値引きをしないと売れないものなのでしょうか。
通販化粧品の販売促進は、各社ともさまざまに工夫しています。特に「値引き1」はインパクトがあるので、お客さまの記憶に残りやすいのではないでしょうか。
私は、通販に限らず店頭販売でも、販促やキャンペーンのアイデアは、「購入のキッカケづくり」なのではないかと思います。お客さまは、こだわりの商品を購入する際、いつも「なぜこれを選ぶのか」という自分自身を納得させる理由を探しています。時には、購入した後でも「私は良い買い物をした」という感覚を持ち続けたいものです。
販促やキャンペーンは、それをバックアップするフックのようなものだと思います。素敵なプレゼントや値引きは直接的なメリットですから、お客さまにとってはうれしいことです。しかし、大幅値引きをしなければ売れないという考えは間違いだと思います。
特別な理由があれば別ですが、大幅な値引きをひんぱんに行うと、そもそもの正価に対する不信感が生まれます。また化粧品の場合、大幅な値引きがきっかけで購入してくれたお客さまは、その後に正価のリピーターになる確率は低いような気がします。
やはり化粧品は、「安いから買うお客様さま」ではなく、「きれいになりたいから買うお客さま」であってほしいものです。また実際に使い始めて、「自分の肌に合う」という実感が伴えばより信頼が深まり、さらに継続率が上がります。
“値引き獲得後のフォローが、ファン化の鍵に

しかし、統計のビジネスである通販では一定数のお客さまが集まらないと、収益性が悪く、規模を大きくすることはできません。数を取るためには、理屈抜きで分かりやすい値引きや販促キャンペーンを打つ方が集客効果が高いことは間違いありません。
つまり「お得感」で広くお客さまを集めた時には、その後のフォローアップ2をしっかり行うことが重要となります。最初のきっかけは「値引き」であったとしても、その商品と出会ったことで“美意識”に目覚め、きれいになることに興味を持っていただければ、安定的な固定客になってもらえると私は考えています。
お客さまの美に対する興味を喚起するのも、化粧品会社の役割だと思うからです。そのためには、「値引き」で購入してくれたお客さまに対しても、丁寧に美容情報やお手入れなどの使い方情報を提供する必要があります。このような言い方はおこがましいかもしれませんが、お客さまを「育てる」ことが不可欠なのです。
値引きは“戦略のひとつ”として使い分ける

日本の化粧品は長い間「制度品メーカー」といわれる各社が再販制度の元に、店頭での正価販売を通してきました。ところが最近では販売ルートがドラッグストアやウェブまで広がり、正価販売を押し通すのは難しくなってきました。他の商品と同じく、さまざまな販売戦略が必要な時代になったのです。
そんな中、「固定客限定」「まとめ買い」「定期購入」などの条件設定をして行う「値引き」は、多々ある販売戦略のひとつとして活用すべきだと思います。しかし、大々的な安売りを他社がやっているからといって、安易に追従するのは場当たり的だと思います。
値引きを行うにしても、自社の商品特徴に合った方法を精査し、自社の個性を活かした独自の必勝戦略で行うべきです。

鯉渕登志子
共感と実感を積み重ねる販促で、お客さまの心に届く。私たちは、そんなファンづくりの仕組みを、販促から美容情報設計まで一緒に考えます。
用語解説
- 値引き販促-商品の定価から一時的に価格を下げて販売する手法。新規顧客の獲得や在庫処分などの目的で行われることが多いが、頻繁に行うとブランド価値の低下や定価への不信感を招くリスクがある。 ↩︎
- フォローアップ-購入後の情報提供やサポートを通じて、顧客の満足度や継続利用を促す活動。値引きなどのきっかけ購入に対しても、しっかりとしたフォローアップがあることで、リピートにつながりやすくなる。 ↩︎

















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