「もっと新しい広告を」と求めても、仕上がりは“どこかで見たことがある”デザインになりがちです。派手さや奇抜さを追い求めても、消費者には似た印象しか残らない――そんな経験はありませんか。既視感を超える広告をつくるには、まず押さえるべき大切な前提があります。今回のコラムは、『日本流通産業新聞』1月17日号に掲載された「強い通販化粧品会社になるために 基礎講座Q&A vol.52」です。ぜひご覧ください。

日本流通産業新聞
通販・ネットビジネス・健康食品・美容業界などの最新動向を専門的に取り上げる業界紙です。実務に直結する情報を多角的に発信し、多くのビジネス関係者に支持されています。
デザインの技術より先に、伝えるべきメッセージを明確に

制作物のデザインが毎回同じようにありきたりで、面白いものができません。もっとインパクトのあるもの、目を引くものを考えてほしいとスタッフに要望しているのですが、いつもどこかで見たようなものばかり……。何か改善方法はないでしょうか。
ご相談は通販の広告制作物を作っていると、いつも議論になるテーマです。
販売会社側は、いつでも「何か新しいもの」「珍しいもの」「インパクトのあるもの」を要求しますが、広告物を作る側としては、そもそもの「ネタ」が新しいかどうかを知り、それを表現したいものです。ネタとはブランドのコンセプトであり、商品でいえば他社と差別化された新奇さ、アピールポイントなどのこと。それらにインパクトがなくて、広告デザインなどの「技」だけで売ろうとすると、すぐに消費者に見透かされてしまいます。
「どこかで見たことがある」とか「どこの会社のモノも同じだ」と言われてしまうのは、そもそものコンセプトが差別化されていないからだと言えます。その現象が同質化となって業界全体の成長を阻んでいると思います。
通販化粧品はそもそも美容部員の対面販売が主力の時代に、「対面せずに通信販売で化粧品を売る」というイノベーションからスタートしたビジネスモデルです。「無添加」や「オールインワン」など、その時代時代のニーズを巧みに取り込んで、チャレンジしてきたからこそ、今日のマーケットが生まれ、定着してきたと言えるでしょう。
ところが今、それを引き継いでいる人たちが、既視感のあるビジネスモデルを行っているため、「広告の技」だけでアピールしようとしても、お客さまがついてきてくれないのは、当然と言えます。広告物は、どんな人に向け、どんな内容を伝えるかが明確であれば、メディア選定も、ビジュアル表現も、コピー表現も焦点を絞ってアイデアをまとめ上げていくことができます。まして通販広告の場合、「テスト展開」という手法が定着しているので、数値の裏付けを取れる広告表現になるまで磨き上げることができます。この段階で初めて広告の「技磨き」が生きるのだと思います。
つまり「技磨き」の前に、自分たちのブランドが、他社と比較してどんな特徴があり、お客さまに何をもたらしてくれる商品なのかを明確にする必要があります。この作業が、今多くの会社で取り組んでいる「リ・ブランディング1」だと思います。
骨太のマーケティング戦略が広告を変える

ブランディングは、創業者が事業をスタートしたころは、1人の思いの中に凝縮されていたので明確だったと思います。ところが、ある程度の事業規模になり、複数の人間が深く関わるようになると、当初の思いは、お客さまどころか、参加している社員にも伝わらなくなります。その意識統一が最も重要で難しいところです。
事業のコンセプトや抽象的な大きなテーマは、多くの人の賛同を得られるとしても、具体的な目標や日々の行動やアクション、技術開発にまで結び付けるのは、とても大変なことです。まして、他社と差別化されたユニークなコンセプトを掲げた場合は、周囲の説得にも時間がかかります。
しかしそれらの作業を丹念に行わないと、「どんな人の、何をかなえるブランドなのか」は明確になりません。それでは、新しい広告表現はできにくいと思います。万一、面白い表現が開発されたとしても、裏付けが乏しい表現が一過性で終わってしまうことはよくあることです。既視感のある広告しか生み出せていないのは、事業戦略が「既視感」のあるものだからではないでしょうか。
「広告の技」に頼るだけでなく、もう一度ビジネスの根幹である骨太の基本戦略から見直して、どんなお客さまに、何を提供して喜んでもらうのか、そのために何をすべきなのかという、そもそものマーケティング戦略を見直すべきでしょう。そうすれば、商品開発においても、広告戦略においても、サービス体制においても、必要なことが明確になります。そんな基本から広告制作を見直してみてはいかがでしょうか。

鯉渕登志子
「既視感」を超える広告は、ブランドの軸から生まれます。フォー・レディーは、お客様の声や社内の知恵を引き出しながら、御社ならではの強みを再発見するお手伝いをいたします。
用語解説
- リ・ブランディング-すでにあるブランドを、時代や市場の変化に合わせて再定義・再構築すること。例:「ブランドの軸を再確認し、新しい価値を打ち出す取り組み」など。 ↩︎
















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