社員を見ればお客さまが見える?通販の新しい視点

通販化粧品会社にとって、対面販売のようにお客さまと直接やり取りできないことは大きなハンディです。特にメイクアップ商品の開発では、お客さま像をつかみにくく、社員もイメージを共有しづらいのが現実です。では、どうすれば“会えないお客さま”を身近に感じられるのでしょうか。今回のコラムは、『日本流通産業新聞』3月8日号に掲載された「強い通販化粧品会社になるために 基礎講座Q&A vol.46」です。ぜひご覧ください。

日本流通産業新聞
通販・ネットビジネス・健康食品・美容業界などの最新動向を専門的に取り上げる業界紙です。実務に直結する情報を多角的に発信し、多くのビジネス関係者に支持されています。

忙しい人向け|対談で学ぶ〝通販化粧品の顧客と社員は「鏡」?〟

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顧客と社員は少しずつ似てくる ― 観察から学ぶお客さま像

通販化粧品会社 担当者

スキンケア商品もメイクアップ商品も販売している通販化粧品会社ですが、お客さまに直接会うことができないために、特にメイクアップ商品などの開発にはたいへん苦労しています。社員が簡単にお客さま像をイメージできるような方法はありませんか。

多くの化粧品会社と一緒にお仕事をさせていただき、各社の女性社員の方々と会う機会が多くなると、会社ごとに“キレイ”の方向性の差があることに気がつく。

もちろん化粧品会社の社員はキレイな人が多いが、メイク方法だけではなく、○○風、△△風と会社によって微妙な差があるように思う。特に店頭販売をメインにしている会社の場合は、その差が大きいようだ。

一方通販化粧品会社の場合は、メイクを取り扱っていない会社も多いので、それほど大きな差は出ないはずだと思い込んでいた。ところがお客さまのグループインタビュー1を多く実施していると、これもまた会社ごとに、お客さまにも、社員にも微妙な差があることに気がついた。

まずは、「美容意識」の差。大手通販化粧品会社で、さまざまな肌悩みのラインナップをそろえている会社の場合は一概に言えないし、売り上げ規模の多いメイン商品はコモディティ型商品になりがちなので、個性が際立ちにくい。しかし中堅規模の通販化粧品ブランドの場合は、確実に「美容意識」の差が明確に現れる。

顧客タイプは集客の入り口と情報発信で決まる

たとえば新規獲得の入り口を絞っている場合、新聞広告なら「シニア層で新聞を読む知的レベルが高いお客さま」チラシ、インフォマーシャルは「もっと身近で、親しみやすい印象の庶民派」、スマホは同じ中高年でも「よりアクティブな仕事もしている活動派」などとなる。

これに肌悩みの訴求が加わると、同じ美容意識でももう少し細分化されたイメージの意識タイプでまとめられる。ところが会社側が新規獲得のメディアも、訴求の肌悩みも明確に絞っておらず、単に価格訴求のみで販売していると、お客さまは美容意識もバラバラで、コスメを渡り歩く方たちが多く集まってくる。

さらにリピート客になると、お客さまはもっと会社の考え方に近くなる。成分や原料の効果効能を強く打ち出している会社の場合は、お客さまも成分などに詳しくなっていくようだ。かっちりとした真面目な情報発信をしている会社のお客さまはやはり真面目な人が多い。

美容意識が高く、さまざまな美容方法を試した末にたどり着くような人知れず人気のブランドの場合は、いわば美容オタクが多く集まる。忙しいキャリアウーマンを対象にしたような商品のお客さまはやはり働いている人が多い。こんなふうに、通販化粧品会社の場合は、集客の方法やその後のコミュニケーション内容によって、育成されるお客さまタイプが異なってくるようだ。

社員の姿勢がそのまま顧客像を形づくる

そして最近気がついたもう1つのポイントは、通販化粧品会社の社員とお客さまは「少しずつ似てくる」ということだ。弊社ではお客さまのグループインタビューの後に、社員さまにも「全員アンケート」や「ディプスインタビュー2」をお願いしている。 

そこで気がついたことは、お客さまと社員は「似る」ということだ。美容意識が高い社員が揃っているとお客さまも少しずつ美容意識が高くなり、コンセプトが不明確で値引き販売ばかりしているような会社の社員は、意識もバラバラでまとまりがなく、お客さまも同様だ。ロイヤル顧客づくりは、いわば「仲間づくり」なので、運営している会社の社員と似てくるのは当たり前といえば当たり前だ。

そのように考えると、「会えないお客さまのイメージ」をつかむには、自社の女子社員を「よく観察するにかぎる」かもしれない。また、お客さまをロイヤル顧客に育成するためには、自社の社員をきちんと育成して「ロイヤル社員」にできる力がないと難しいのではないかと思ってしまうのは、私の思い過ごしだろうか。

株式会社フォー・レディー 代表
鯉渕登志子

フォーレディーは、お客さまを知ることからすべてが始まると考えています。グループインタビューや調査で得られた声をていねいにひも解き、商品開発やコミュニケーションの具体的なアイデアへとつなげていく――そんな「お客さま理解を形にする力」で、貴社の成長をサポートします。

用語解説

  1. グループインタビュー-複数のお客さまに集まっていただき、自由に意見交換をしてもらう調査手法。会話のやり取りから本音や共通意識を引き出すことができる。 ↩︎
  2. ディプスインタビュー-1対1でじっくり行う深層インタビュー。お客さまの価値観や購買動機を丁寧に掘り下げて理解できる。 ↩︎

深掘りQ&A

なぜ通販化粧品会社では、お客さまと社員が似てくるのでしょうか?

通販では直接会う機会が少ないため、会社の発信する情報やブランドの姿勢がお客さまの意識形成に強く影響します。その一方で、社員自身の価値観や美容意識も情報発信のあり方に反映されるため、結果的に「似てくる」現象が生まれるのです。

価格訴求ばかりしていると、なぜ顧客像が散漫になるのですか?

格だけを理由に集まるお客さまは、美容に対する価値観がさまざまで統一性がありません。ブランドに共感しているわけではないため、長期的なロイヤル顧客にはなりにくいのです。

社員観察以外にお客さま像をつかむ方法はありますか?

定期的な顧客アンケート、グループインタビュー、SNSの発信や反応の分析なども有効です。社員観察と組み合わせることで、より立体的なお客さま像を描くことができます。

ABOUT US
株式会社フォー・レディー 代表 鯉渕登志子
日本大学芸術学部卒業後、アパレル業界団体にてファッション経営情報誌の編集に携わり、カネボウファッション研究所を経て、1982年に株式会社フォー・レディーを設立。これまで手がけた化粧品・ファッション通販企業は180社を超えます。一貫して「女性を中心とした生活者ターゲット」に寄り添い、消費者の実感から発想することを信条としています。 「自分が使って心から納得できるものを届ける」というポリシーのもと、コンセプト設計からクリエイティブ制作までを一貫して行っています。また、日本通信販売協会などでの講演実績も多数あり、生活者視点のマーケティングを広く発信しています。

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