なぜクロスセルは難しいのか――通販化粧品の現実と突破口

通販化粧品の多くの企業が直面する悩みのひとつに、クロスセルの壁があります。洗顔料などの単品で新規顧客を獲得できても、その後に別の商品へとつなげるのは想像以上に難しいもの。サンプル送付やセット割引といった施策を打っても、なかなか成果につながらないケースは少なくありません。なぜクロスセルは難しいのか――そしてどこに突破口があるのか。そのポイントを整理してみましょう。今回のコラムは、『日本流通産業新聞』2月7日号に掲載された「強い通販化粧品会社になるために 基礎講座Q&A vol.53」です。ぜひご覧ください。

日本流通産業新聞
通販・ネットビジネス・健康食品・美容業界などの最新動向を専門的に取り上げる業界紙です。実務に直結する情報を多角的に発信し、多くのビジネス関係者に支持されています。

忙しい人向け|対談で学ぶ〝単品通販で化粧品のクロスセルを成功させる3つの秘訣〟

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クロスセル突破の3条件――関連性・ファン・特典

通販化粧品会社 担当者

洗顔料で新規顧客を獲得しています。その後、他の商品をサンプル送付したり、セット割引キャンペーンなどいろいろ実施していますが、なかなかクロスセルにつながらなくて困っています。何か方法はないでしょうか。

これは、化粧品の通販会社だけでなく、多くの通販会社に共通する悩みだと思います。

そもそも中堅規模で「通販」を展開するなら、「一品売り」が効果を発揮しやすいのではないでしょうか。「単品通販1」は、ユニークな商品を個性的な広告で強くアピールし、購入につなげていくことが得意のはずです。

通販化粧品で、いい例が「オールインワン化粧品」でしょう。通販業界から火がつき、今では店頭販売にも波及して一大ブームを作りました。もし化粧品をラインアップで売ることを目的とするなら、対面販売の「訪販」の方が、はるか適していると言えます。お客さまの自宅など身近なところに伺って、フルコースのお手入れを施し、時間をかけて納得いただくので、高額商品のラインアップの販売が可能なのです。

このように本来、単品通販はクロスセルが難しい業態です。しかしクロスセル販売をしなければ、顧客単価は上がらないので、化粧品販売に不可欠な情報提供や十分なサービスを行うためのコストが捻出できません。そこでクロスセルを広げて、「単品通販」というよりも化粧品というジャンルの「複数通販」を推進しなければならないと思いますが、そのための成功ポイントについて考えてみましょう。

「この商品だからこそ一緒に使いたい」を作る

クロスセルに不可欠な条件として、一つ目は商品に関連性(つながり)があるかということです。関連性とは、共通の考え方やライン使いによる相乗効果などです。例えば最初にオールインワンゲルを売ったら、メークのオールインワンであるBBクリームをクロスセルするなどの方法です。

ここにはスキンケアもメークも「オールインワン」という共通の考え方があります。そして「このBBクリームは、このゲルと相性がいい」など、セット使いする方が他社製品を使うより圧倒的に優位である、と相乗効果をアピールするとクロスセルの機会を広げやすくなります。ただし、他社の安いBBクリームでも効果が変わらなければ、お客さまは安い方に流れます。そう思わせないためには、商品設計の段階から「買わなければならない強い理由」を作っておくことが必要だと思います。

もし、既存商品で薦める場合は「共通成分が配合されて、保湿力が高くW効果」というような関連性を見つけ、ていねいに説明しましょう。関連性やつながりの全くない商品よりは、お客さまも納得し、購入につながるのではないでしょうか。

“商品の先”にある会社の姿を好きになってもらう

二つ目は、商品だけでなく会社のコンセプトや主張もよく知ってもらい、会社のファンになってもらうことです。「自然派の○○」というようにコンセプトにひも付けたブランド名や社名を訴求し、会社のファンを育成すると、最初に購入した商品以外にも関心を広げてもらうことが可能です。

逆に、単品としての「商品の売りイメージ」が強すぎると、「会社=商品」となり、他の商品が売りにくくなります。今は「モノを作って売る」だけではなく、会社の主張やコンセプトも一緒にアピールして、共感、信頼してもらうことが大切だと思います。理想的には新規で単品を売るときから「こういうコンセプトで作っています」とアピールすることです。最初に会社のファンになってもらうと、後のクロスセルが楽になります。

“きれいの証拠”と“お得感”をセットで伝える

三つ目は、「関連商品をラインアップ使いしてきれいになれる」という証明がほしいところです。そのためには、複数点数愛用者には希望があれば、「ご優待として肌診断のサービス」なども喜ばれるでしょう。

もちろん、クロスセルで購入すると、お得、便利というような特典も必要です。同じレベルの商品であれば、少しでもお得に買いたいと思うのは消費者心理です。関連商品のライン使いできれいになれると信じることができて、さらに今ならセットで割引、というメリットが明確に打ち出せたとき、初めてクロスセルが広がってくると思います。

株式会社フォー・レディー 代表
鯉渕登志子

お客さまに寄り添いながら、商品の併せ使いを丁寧に推奨していく――。その仕組みづくりこそ、フォー・レディーが最も得意とする領域です。継続して情報を発信する際の企画立案や仕掛けづくりにお困りでしたら、ぜひ私たちにご相談ください。

用語解説

  1. 単品通販-代表商品となる「一品」を強く訴求し、その商品から顧客を獲得・育成する通販モデル。オールインワン化粧品などが典型例。 ↩︎

深掘りQ&A

なぜ単品通販はクロスセルが難しいのですか?

単品通販は「ユニークな商品を一点突破で売る」ことに強みがあります。最初の商品に惹かれて購入しているため、他の商品には興味を持たれにくいのです。だからこそ、関連性やブランドへの共感を意識した仕掛けが必要になります。

クロスセルとアップセルはどう違うのですか?

クロスセルは「別の商品を追加で買ってもらう」こと、アップセルは「より高価格の商品に切り替えてもらう」ことです。どちらも顧客単価を上げる方法ですが、切り口が違います。

関連性がない商品は絶対にクロスセルできないのでしょうか?

まったく関係のない商品は難しいですが、「生活シーン」や「価値観」でつなげる工夫があれば可能です。例えば“時短志向の女性向け”という切り口で、スキンケアからメークまで提案する方法です。大切なのは、どんな商品でもブランドのコンセプトに基づいていることです。

ABOUT US
株式会社フォー・レディー 代表 鯉渕登志子
日本大学芸術学部卒業後、アパレル業界団体にてファッション経営情報誌の編集に携わり、カネボウファッション研究所を経て、1982年に株式会社フォー・レディーを設立。これまで手がけた化粧品・ファッション通販企業は180社を超えます。一貫して「女性を中心とした生活者ターゲット」に寄り添い、消費者の実感から発想することを信条としています。 「自分が使って心から納得できるものを届ける」というポリシーのもと、コンセプト設計からクリエイティブ制作までを一貫して行っています。また、日本通信販売協会などでの講演実績も多数あり、生活者視点のマーケティングを広く発信しています。

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