「紹介制度」は新規獲得が難しい時代の突破口

「広告を出しても、思ったように新規顧客が増えない」――そう感じている企業は少なくありません。市場が成熟し、顧客の情報選択眼が厳しくなった今こそ、次の一手が求められています。そのヒントは意外にも、長く使われてきた“ある制度”に隠されているのです。今回のコラムは、『日本流通産業新聞』2月13日号に掲載された「強い通販化粧品会社になるために 基礎講座Q&A vol.61」です。ぜひご覧ください。

日本流通産業新聞
通販・ネットビジネス・健康食品・美容業界などの最新動向を専門的に取り上げる業界紙です。実務に直結する情報を多角的に発信し、多くのビジネス関係者に支持されています。

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広告だけに頼らない、新しい「紹介制度」のかたち

通販化粧品会社 担当者

通販化粧品を立ち上げて10年目になりますが、最近特に新規顧客の獲得に苦戦しています。マス媒体、ウェブなどの広告を中心に模索していますが、どれもうまくいきません。ほかに有効な手法はないでしょうか。

通販広告の中でもマス媒体は、ブランドのイメージアップや信頼性を高めるにはとても有効ですが、その一方で広告費が高く、出稿し続けるには多くの資金が必要です。その上、最近は中高年世代しか獲得できません。1人当たりのCPOはとても高い金額になっているのが現状です。ウェブもまた情報過多になっており、新規顧客を獲得しても簡単にリピート購入してくれないためにてこずることが多いようです。

そこで今回は、昔からある「紹介制度1」を新規獲得に結び付ける方法について考えてみたいと思います。

現在、「紹介制度」を行っていても、積極的に活用している会社はあまり多くないようです。それは「紹介してくれた方には1000円分のクーポンを差し上げます」というような、お金やモノを前面に打ち出した「紹介制度」が広がったために、「紹介する=友達を売る」という怪しげな印象をお客さまに与えることになり、制度自体がマイナスイメージになりかねないからでしょう。しかし、新規顧客獲得がなかなか難しい時代には、自社製品のよき理解者であるお客さまに、新たなお客さまを紹介していただく、という地道な新規獲得も必要ではないでしょうか。そのためには、旧来型の紹介制度ではなく、お客さまが気持ちよく、自発的に知り合いを紹介してくれるような形に改良する必要があると思います。

「友達の輪」を生み出す仕組みづくりが鍵

新しい「紹介制度」の一番のポイントは、自社のファンが新たなファンを呼び込む「友達の輪づくり」のような仕組みをあらかじめ作っておくことです。

手紙、会報誌、イベント、SNSなどさまざまな手法で、紹介者の好意やつながり意識に働き掛け、「ブランドがファン同士のサロン」のような環境づくりをしておくべきでしょう。そのためにはブランドコンセプトが明確でないと賛同を得られません。

お客さまの中にも「同じブランドが好きな人と情報交換したい」というニーズがあります。ウェブサイト上の口コミ検索が盛んなのはそのためです。

そのような環境を整えた上で、例えば購入商品を送る際に「肌あれに悩んでいるお友達にぜひお渡しください」とサンプルセットを同梱する、というような方法で「紹介制度」を案内してはいかがでしょう。

お客さまは親しい友人知人の顔を思い浮かべて、一番使ってほしい人に渡してくれることでしょう。お客さまが愛用者であればあるほど、実感のこもった言葉で商品の説明をしてくれるかもしれません。紹介された方に「信頼できる知り合いが薦めてくれるなら」という意識が働けば、極めて確率の高い新規獲得手法になり得るのではないでしょうか。

ほかにも、お客さま向けの新製品発表会に「ぜひお友達と一緒にご参加ください」と、友達とのペア参加を呼び掛けた会社もあります。当日は軽食でおもてなし、それぞれにサンプルセットを渡しました。イベントは1人より、知り合いと一緒の方が参加しやすいですし、話も弾み、実際に新規顧客獲得にもつながっているようです。

また、会報誌やウェブマガジンの誌面に友達同士で一緒に登場してもらう特集を組んだ会社もあります。「毛穴に悩んでいる友達にぜひ試してほしくて」という紹介エピソードや2人の楽しげな写真を掲載し、お友達紹介のポジティブなイメージを印象付けました。同時に「紹介制度」の仕組みについても説明することで、お客さまに制度をより身近に感じてもらうことができたようです。

「紹介制度」は各社とも通年で運用していますが、いつも同じ案内では目立たないので、定期的にキャンペーンを実施するのも効果的です。その期間中だけプレゼントを変えるなどの工夫があるとなお良いでしょう。

数より質を重視――信頼が生む良質な顧客

「紹介制度」によって、新規顧客が、爆発的に増えることはありません。しかし、愛用者が愛用者を生み出す、自然発生的な「紹介制度」は、信頼関係がもとになっているので、早期の離脱リスクは少なくなるでしょう。むしろ紹介される方は、紹介者が優良顧客であるほど、新しいお客さまも良質な顧客に育つ可能性が高いと言えます。

一人一人と信頼関係を築きながら、新規顧客を獲得していく。長期的にみると「紹介制度」は、目先の人数を増やすこと以上に、将来に向けて効果の高い新規獲得作戦と言えるかもしれません。

株式会社フォー・レディー 代表
鯉渕登志子

フォー・レディーは、お友達紹介制度の見直しにとどまらず、お客様の輪を自然に広げていくための仕組みづくりをご提案します。会報誌やイベントなど多彩なコミュニケーションを通じて、ブランドの魅力を分かち合い、信頼の輪を広げていくお手伝いをいたします。

用語解説

  1. 紹介制度(紹介プログラム)-既存顧客が知人や友人を紹介し、新規顧客獲得につなげる仕組み。紹介者や紹介された人に特典を用意する場合も多い。 ↩︎

深掘りQ&A

なぜ「紹介制度」に注目するのですか?

広告費の高騰や情報過多で新規顧客の獲得効率が下がる中、“信頼できる人からの紹介”は最後の決め手になりやすいからです。特に化粧品は肌に直接使うため口コミや紹介の影響力が大きく、制度を工夫することで広告では届かない層にアプローチできます。

「紹介制度」がうまく機能しない会社に共通する課題は?

制度を「お金やモノで友人を売る仕組み」として設計してしまう点です。紹介の動機が“特典目当て”になると、お客様は気まずさを感じ、積極的に広めようとしません。ブランドの世界観や共感をベースに、自然に友人を招きたくなる仕掛けが必要です。

 紹介されやすい商品・されにくい商品はありますか?

「悩み解決型商品」は紹介されやすい傾向があります。たとえば「肌荒れ」「シミ」「髪の悩み」など、共感しやすくニーズが明確なテーマは、知人を思い浮かべやすいのです。一方で高額すぎる商品や効能が伝わりにくい商品は紹介ハードルが上がります。

ABOUT US
株式会社フォー・レディー 代表 鯉渕登志子
日本大学芸術学部卒業後、アパレル業界団体にてファッション経営情報誌の編集に携わり、カネボウファッション研究所を経て、1982年に株式会社フォー・レディーを設立。これまで手がけた化粧品・ファッション通販企業は180社を超えます。一貫して「女性を中心とした生活者ターゲット」に寄り添い、消費者の実感から発想することを信条としています。 「自分が使って心から納得できるものを届ける」というポリシーのもと、コンセプト設計からクリエイティブ制作までを一貫して行っています。また、日本通信販売協会などでの講演実績も多数あり、生活者視点のマーケティングを広く発信しています。

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