化粧品は“半完成品”──本当の価値は正しい使い方で決まる

通販化粧品の現場では、成分説明やキャンペーン情報が優先され、意外なほど「使い方」の説明が後回しになりがちです。しかし、実はここに大きな課題が潜んでいます。商品本来の力を発揮してもらうために、本当に伝えるべきこととは何か──。今回のコラムは、『週刊粧業』6月21日号に掲載され「激変するコスメマーケット vol.5」です。ぜひご覧ください。

週刊粧業
化粧品、日用品(トイレタリー製品、石鹸洗剤、歯磨き等)、医薬品、美容業、装粧品、エステティック等を中心とした精算・流通産業界の総合専門紙として、日々変化する業界の最新動向を伝えています。

忙しい人向け|対談で学ぶ〝化粧品は半完成品使い方で決まる価値〟

忙しくてなかなか文章を読む時間がない方向け、スキマ時間に聞くだけで学べる音声版をご用意しました。

使用方法ひとつで評価が変わるという気づき

最近私は「紺屋の白袴」と言えるような大失敗をした。ある得意先の通販化粧品の「お試しセット」をモニターとして使用することになったのだが、商品の使用手順と使用方法の解説書を読まずに、ごく一般的な使用方法で、まるまる一週間使い続けてしまったのだ。

その結果「評判ほどすごい商品ではないなあ」と思ってしまったのだが、後になって、その商品ならではの使用手順と使用方法が提案されていることに気がついた。

あらためてそのメーカーが推奨する方法をきちんと試してみたところ、「なるほど、納得」の商品であることを実感した。

私の場合は、自らの失敗が原因で「いかに化粧品は使用方法が大切であるか」ということを今更ながら実感したのだが、最近の化粧品の販売現場では「使い方(使用手順、使用方法、使用量)」の説明がやや不足しているのではないかと思う。

私は、化粧品は単なる工業生産品ではないと思っている。化粧水もクリームも、オールインワンもメイクアイテムさえも、そのままではまだ”半完成品1“。

化粧品は“使ってもらって初めて完成する”

使った人の肌や心に「キレイになった」というプラスの変化をもたらすこと、使った人に「ああよかった」と実感してもらえることで、初めて化粧品は “完成品”となる。

私もいつも実感していることだが、人間の肌を相手にする化粧品は、その使用方法ひとつで実感・効果感に歴然とした差が出てしまう。

したがって、その化粧品の持つ力を最大限に引き出し、肌を良い状態に保つためには、お客様に毎日「正しい方法」で使い続けてもらうことが大切なのだ。

言い換えると、お手入れの手順や製品の使用方法、使用量、使用するタイミングなど、細かな使い方をしっかりと理解し、実践してもらうことが不可欠なのだと思う。

ところが残念なことに、最近の化粧品の販売方法は “完成への手順”とも言える使用方法があまり多く語られていない。

“使い方を伝えない”ことは、価値を半分捨ててしまうこと

もちろん、お客様に注目してもらうためには、話題の成分やキャンペーン情報はとても重要だ。しかし「半完成品」である化粧品は、製品が売れただけで試合終了ではない。製品がお客様の手元に届いた後、”使っていただく”という第二ラウンドが始まるのだ。

それなのに、せっかくの化粧品を「活かす」情報が、お客様の目にとまらないのはとても残念だ。製品特長の訴求と使用方法の解説は、化粧品販売のいわば両輪である。

どの会社も、開発段階では成分の配合と同時に使用方法もトコトン突き詰めて製品化にこぎ着けているはずであるが、いざ売る段階になると、配合成分やキャンペーンなど売り手の都合が優先した話題をついつい訴求してしまい、地道ながら重要な情報である使用方法がすっかり陰に隠れてしまう。

これでは”完成品”として成功するための要素の半分を、自ら捨ててしまっているようなものだと思う。どんなにすばらしい化粧品も、正しく使われなければ効果が削がれ、その結果、不当な過小評価をされてしまう。

そして、一度お客様から「効果なし」と判定されてしまうと、たとえ使い方が間違っていたとしても、同じお客様からの信用は永遠に失われるといってもオーバーではない。正しい使い方のアピールは、その製品の命運を左右するほど重要なことだと思う。

株式会社フォー・レディー 代表
鯉渕 登志子

フォー・レディーは、商品がお客様の手元に届いたその先のコミュニケーションまでを見据え、継続につながるCRMの仕組みづくりをご支援しています。お客様が「続けたい」と思える体験設計から、実感を育てるコンテンツづくりまで──ぜひ私たちにご相談ください。

用語解説

  1. 半完成品-化粧品は「購入された時点では完成していない」という考え方を示す言葉。“正しく使われて初めて価値が完成する” という考え方。 ↩︎

深掘りQ&A

なぜ通販ビジネスでは「使用方法の伝達」が特に重要なのですか?

通販は店頭の対面フォローがないため、お客様が“自己流のまま”使い続けてしまうリスクが高いからです。実感の有無は継続率や定期購入の維持に直結するため、EC・通販企業にとって「使用方法の設計と伝達」は、売上構造そのものを左右します。

使用方法が伝わらないことで、どんなビジネス上の損失が発生しますか?

本来であれば満足して続けてもらえたはずの顧客が、「効果がない」「肌に合わない気がする」と早期離脱し、LTV(顧客生涯価値)が低下します。特に初回お試しや定期引き上げのタイミングで影響が大きくなります。

“正しい使い方”を伝えても、守ってもらえない理由は?

多くの場合、「忘れてしまう」「理解が曖昧」「面倒に感じる」が原因です。そのため、企業側の施策は「忘れにくい導線」「迷わない設計」「行動しやすい一言」を組み込むことが重要です。例えば、「まずは3日だけ集中ケアしてみてください」などでしょうか。

ABOUT US
株式会社フォー・レディー 代表 鯉渕登志子
日本大学芸術学部卒業後、アパレル業界団体にてファッション経営情報誌の編集に携わり、カネボウファッション研究所を経て、1982年に株式会社フォー・レディーを設立。これまで手がけた化粧品・ファッション通販企業は180社を超えます。一貫して「女性を中心とした生活者ターゲット」に寄り添い、消費者の実感から発想することを信条としています。 「自分が使って心から納得できるものを届ける」というポリシーのもと、コンセプト設計からクリエイティブ制作までを一貫して行っています。また、日本通信販売協会などでの講演実績も多数あり、生活者視点のマーケティングを広く発信しています。

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