“カリスマ経営”からの転換点―ブランド価値を守る組織づくりのヒントとは?

創業者のカリスマ性で成長してきた通販化粧品会社が、代替わりを迎えています。全員で分担する体制に変えたものの、思うように機能しない――そんな声も少なくありません。時代が変わる今こそ、ブランド価値を守り育てるための新しい組織づくりが求められています。今回のコラムは、『日本流通産業新聞』5月15日号に掲載された「強い通販化粧品会社になるために 基礎講座Q&A vol.114」です。ぜひご覧ください。

日本流通産業新聞
通販・ネットビジネス・健康食品・美容業界などの最新動向を専門的に取り上げる業界紙です。実務に直結する情報を多角的に発信し、多くのビジネス関係者に支持されています。

忙しい人向け|対談で学ぶ〝組織の縦割りを打破する「ブランドマネージャー制度」〟

忙しくてなかなか文章を読む時間がない方向け、スキマ時間に聞くだけで学べる音声版をご用意しました。

ブランド全体を俯瞰できる“マネージャー”を育てよう

通販化粧品会社 担当者

長年にわたって業務のかじ取り役を、一人で仕切っていた創業者が勇退しました。その後、全社で業務を分担する体制へと移行したものの、なかなかうまくいきません。どんな組織体制が良いのでしょうか。

通販化粧品ビジネスは比較的新しい業界であるため、「創業から約50年を経て今まさに代替わりを迎えている」といった会社も多いようです。ご相談のように、創業者がカリスマ的なリーダーシップで運営してきた会社は、ここ数年で大きく様変わりしています。

通販化粧品の会社は、情報戦略の重要性が増しています。モノづくりも広告宣伝も、幅広い情報を取得したり、さまざまなメディアに精通したりしなければ対応できなくなりました。そのため各業務に多くの専門職人材が不可欠になり、一人ではなくチーム力で業務を運営していく必要が出てきました。

つまりカリスマ経営者が一人で推進してきた時に利点となっていた、「迅速な意思決定」「明確なビジョン」「強い指導力」といったことは影を潜めて、集団の合意形成のための時間・手続きが、より必要とされるようになっています。これではますますスピードアップする競争に勝つことはできません。

縦割りを超えてブランド軸で動く――「マネージャー制」が組織を強くする

では新しい体制は、どのように考えるべきでしょうか。創業者のレガシーを誰か一人の後任者が引き継げば良いかというと、すでにそれは情報量の多さから難しくなっています。

一方で、従来の日本の企業組織に見られる縦割り体制の考え方だけでは、”ブランディング”が不可欠な化粧品は成り立たないはずです。縦割り型の組織では、業務内容に応じた各部署が独立して業務を進めるため、情報共有や意思決定に時間がかかり、部門間の連携が不足しがちです。

顧客視点や製品・ブランド全体に、一貫した戦略が必要となる化粧品ビジネスは、それだけでは難しいのです。

そこでこの一般的な管理体制に加えて、「ブランドマネージャー」制1、あるいは商品に応じた「プロダクトマネージャー」制2を導入してはどうでしょう。

これらは米国で発展したマーケティング手法の一つです。

担当するブランドやプロダクトについて、「消費者の動向」や「マーケットのトレンド」などを分析し、「ブランドに込められたメッセージ」「具体的な商品開発」「効果的な広告宣伝方法」、そして「ターゲット顧客へのコミットメント」といった、すべての戦略に責任を持つ旗振り役を作ることです。

このマネージャーが専門職のプロ集団に指示を出すことで、組織の混乱を防ぎ、ブランドやプロダクトの方向性が明確になり、円滑な運営が可能になります。

“コンセプトの一貫性”こそ信頼の源

化粧品ビジネスでは「コンセプト」はブランドの生命線でもあり、お客さまの心のよりどころです。そのコンセプトにひも付いた、製品開発や販売方法などに、核となる”考え方の一貫性”がないと、お客さまに不信感を与えてしまい、最終的には離脱されてしまいます。

カリスマ経営者が活躍できたのも、その一貫性が信頼されていたからです。

であるならば、新時代の一貫性を担保するためには、前述した「マネージャー」制が適しているのではないかと考えます。ブランドを構成する、「ターゲット」から「商品開発」「広告宣伝」「PR」「フルフィルメント」「サービスの分野」までかつてのカリスマ経営者に代わって、コンセプトに沿って、組織全体をその方向に導くのです。

そのような役割のリーダーが存在すれば、意思決定は早くなり、コンセプトがブレることもなくなります。
リーダーは専門職のプロたちに対して、明確な指示を伝え、実行させることになります。

通販化粧品のビジネスは多くのスタッフが業務に関わっていますが、受け取るお客さまはお一人です。
お客さまとのお約束である”コンセプト”から逸脱せず、一人一人のお客さまに寄り添った方法で商品をお届けし、満足していただくことこそが、通販化粧品の大きな役割だといえるでしょう。だからこそ一貫性が大切なのです。

このマネージャー制を導入している通販化粧品会社はまだ少ないようです。
しかし当社が、多くの通販化粧品会社さまと接するたびに思うのは、「トータルで考える戦略」を実施する必要性です。

ブランドあるいはプロダクトのマネージャー制度ができれば、全責任を持ってスタッフをリードする人材が生まれ、チームワークの醸成や組織運営の効率化、顧客満足度の向上など、より大きな成果が期待できるでしょう。

当社フォー・レディーでは、そんなマネージャーさまに寄り添い、同じように「業務をトータルで見る目」を養いながら、業務の支援サービスも行っております。

株式会社フォー・レディー 代表
鯉渕登志子

ブランドの想いを一貫して伝える組織づくりを、私たちはともに考え、実現します。創業者の想いを受け継ぎながら、時代に合わせて進化する――。その両立こそが、通販化粧品ビジネスの新しい成長の形です。フォー・レディーは、ブランドマネージャーの皆さまをサポートし、お客さまに長く愛されるブランドの未来を共に育ててまいります。

用語解説

  1. ブランドマネージャー制-ブランド単位で責任を持ち、企画・開発・広告・販売までを横断的に統括する仕組み。市場分析から商品開発、販促まで一貫した戦略を指揮する“ブランドの司令塔”の役割を担う。 ↩︎
  2. プロダクトマネージャー制-商品単位で責任を持つ体制。ブランド全体ではなく、個々の商品(ライン)にフォーカスして開発・販売戦略を管理する。複数ブランドを持つ企業で導入されることが多い。 ↩︎

深掘りQ&A

ブランドマネージャーと商品企画担当の違いは?

商品企画担当は開発や販促の一部を担うのに対し、ブランドマネージャーは「ブランド全体の方向性」を統括します。マーケット分析から広告・PRまで、複数の専門チームを横断的にまとめる“司令塔”の役割です。

 小規模な通販会社でもマネージャー制は導入できますか?

はい、規模に応じて柔軟に設計できます。たとえば兼任でも「ブランド責任者」を明確にし、週1回の戦略ミーティングで全体方針を共有するだけでも、効果は大きく変わるはずです。

ブランドコンセプトの“一貫性”を保つために、まず何から始めるべき?

まずは全社員が共有できる「ブランドの約束(ブランドステートメント)」を明文化することです。そこに基づいて、商品開発・広告表現・顧客対応のトーンを統一することで、自然に一貫性が生まれます。

ABOUT US
株式会社フォー・レディー 代表 鯉渕登志子
日本大学芸術学部卒業後、アパレル業界団体にてファッション経営情報誌の編集に携わり、カネボウファッション研究所を経て、1982年に株式会社フォー・レディーを設立。これまで手がけた化粧品・ファッション通販企業は180社を超えます。一貫して「女性を中心とした生活者ターゲット」に寄り添い、消費者の実感から発想することを信条としています。 「自分が使って心から納得できるものを届ける」というポリシーのもと、コンセプト設計からクリエイティブ制作までを一貫して行っています。また、日本通信販売協会などでの講演実績も多数あり、生活者視点のマーケティングを広く発信しています。

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