本商品へ進まないのは、トライアル体験に潜む“見えないストレス”

初回トライアルセットは、ブランドとお客さまが初めて出会う場。どんなに品質の高い商品でも、ここで感じた印象がその後の購入意欲を左右します。ところが実際には、開けづらい梱包や使い方のわかりにくさ、届くまでの対応など、思いがけない“見えないストレス”が潜んでいることも。今回のコラムは、『日本流通産業新聞』10月6日号に掲載された「強い通販化粧品会社になるために 基礎講座Q&A vol.85」です。ぜひご覧ください。

日本流通産業新聞
通販・ネットビジネス・健康食品・美容業界などの最新動向を専門的に取り上げる業界紙です。実務に直結する情報を多角的に発信し、多くのビジネス関係者に支持されています。

忙しい人向け|対談で学ぶ〝トライアルセットの「小さなストレス」を根絶する方法〟

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“初対面”が未来を決める――第一印象が定期化の入口になる

通販化粧品会社 担当者

主力ラインアップ商品について、初回のトライアルセットから本商品への引き上げがなかなか成功しません。定期購入につなげるための改善策を求められていますが、予算の制約もある中で、最も重視すべきことは何でしょうか。

ご質問を受けて、弊社で取り寄せている各社の「トライアルセット1」を再度チェックしました。ご存じのように「トライアルセット」は通販化粧品会社が初めてお客さまに試用していただくサンプルで、人間関係で言えば「初対面の場」。ここでの第一印象はとても重要です。

プレゼンテーションとしてきちんと自己紹介ができているか、使い方や使用目的なども分かりやすく伝えているか、快適さを感じられるか、お客さまのご意見もうかがう双方向のコミュニケーションが可能か、などなど心地よい初対面の場になっているかが問われています。

箱を開ける前からブランド体験は始まっている

そこで多くの通販化粧品会社からトライアルセットを取り寄せている弊社だからこそ分かる事例をご紹介します。

通信販売商品をお客さまがうれしい気持ちで受け取れるかどうかは、宅配会社のサービスに委ねられています。「お届け」では、かつてお客さまに集まっていただいたグループインタビューで、「配送会社や地域によってサービスの格差が大きい」ということが話題になり、炎上してしまいました。

最終的には、「配送会社を選べるようにしてほしい」という要望が多く出ました。 配送現場の業務の過酷さは報道で周知されているはずですが、自分の荷物がスムーズに届かないことはお客さまにとってストレスの要因になります。 私の経験では、指定した時間に届かずに受け取れなかったことが、何度かあります。通販会社と配送会社のコミュニケーションミスや、ラベルの貼り忘れなどが原因でした。

また、届いたトライアルセットの箱が、傷がついていたり、一部が破れていたりすると、手に取った瞬間に残念な気持ちになります。 箱や包装そのものでもストレスを感じることがあります。やたら豪華な包装で多くのごみを捨てなくてはならないものや、どこから開けてよいか分からない梱包は問題です。「思いがけず爪を傷つけてしまった」とか、「カッターを使わなければ開けることができない構造」は、できれば避けてほしいです。

使いづらさは、リピートしたい気持ちを遠ざける

サンプルはボトルやチューブ、ジャー型のほか、パウチの場合もありますが、いずれも小さいため、ふたが開けにくい、封が切りにくい、あるいは穴が小さくて粘度のある液体が出にくいといった小さなストレスの要因がたくさんあります。

私の最近の経験では、ミニボトルを台紙から外しにくかった例や、すぐに倒れてしまい内容物をこぼしてしまった例もあります。パウチは濡れている手では封を切りにくく、2回分入っている場合は、2回目の使用まで、どう保管すればいいのか分からず、誤って家族が捨ててしまう心配もあります。 また、本商品とトライアルセットのデザインがあまりに異なるために、本商品の何に当たるのか不明なケースもありました。

伝え方ひとつで印象は変わる――わかりやすさも体験のうち

一番困るのは、それぞれの商品の使用方法の解説が分かりやすく記載されていない場合です。

手のひらに内容物を取ってしまった後で、同梱物2の解説書を探すのは四苦八苦するので、水に濡れてもよい説明書などを同梱してくれるとありがたいです。 同梱物の冊子やチラシ類は多すぎる会社と少なすぎる会社によって極端に差があります。

弊社で代表的な通販化粧品会社50社ほどのトライアルセットに同梱されているツール数を調べたところ、最も多い会社で15ツール、最も少ない会社で3ツールでした。 ボリュームはともかくツール数としては平均6.3ツール程度が同梱されていました。 ほとんどの会社の同梱物は、購入を感謝するごあいさつ、ブランドの考え方を記載したブランドブック、ラインアップを紹介する商品カタログ、使用方法の解説書、他のお客さまのコメント集、キャンペーン案内、伝票などです。2ツールがまとまっている場合もあります。

これらのツールは、どこに何が記載されているかが分かりやすい構成になっている場合は、ストレスなく目を通すことができます。 通販化粧品の「初対面の場」であるトライアルセットですら、お客さまにストレスを感じさせるようでは、次の本商品を買っていただくことは難しいかもしれません。まずはもう一度お客さま目線で、自社のトライアルセットをご自身で使ってみてはいかがでしょうか。

株式会社フォー・レディー 代表
鯉渕登志子

お客さまが最初に触れる体験こそ、ブランドの印象を決める入口です。フォー・レディーでは、女性の共感視点から「選ばれるトライアル体験」や「つながりを育てるCRM設計」をご支援しています。まずは、自社の“初対面”を一緒に見直してみませんか。

用語解説

  1. トライアルセット-初回購入者に向けて販売される“お試し用商品”。化粧品通販では、低価格でブランドを体験してもらう入口商品として活用される。「初対面の体験」として、パッケージ・梱包・同梱ツールなども含めた総合的な印象づくりが重要。 ↩︎
  2. 同梱ツール-商品と一緒に送付される印刷物・チラシ・冊子などの総称。ブランドブック、使用方法解説書、キャンペーン案内などがあり、“情報のわかりやすさ”や“感情の伝え方”で顧客の印象を左右する。 ↩︎

深掘りQ&A

トライアルセットを見直すとき、まず何から始めるべき?

まずは「お客さまとして体験してみる」こと。自社サイトで注文し、届くまで・開ける瞬間・使う時の印象を時系列でメモします。その際、社内の複数メンバー(年齢・性別が異なる人)で体験して意見を出すと、気づかなかったストレスや印象のズレが可視化できます。

トライアルセットの“印象設計”を改善するうえで、最も効果的な投資ポイントは?

実は“ツールの増減”ではなく、“情報の整理”が最優先です。冊子やチラシの数を増やすより、どこに何が書かれているかを一目でわかる構成にすること。「情報導線の見直し」はデザインよりもコストを抑えつつ、満足度を大きく高める施策です。

定期化を意識したトライアル設計に欠かせない視点は?

「次の一歩を迷わせない導線」です。試したあとに「どこから本商品を買えるのか」「次の特典は何か」がすぐ分かること。体験後に感想を伝えられるハガキやQRアンケートを入れておくと、ブランドとの双方向コミュニケーションにもつながります。

ABOUT US
株式会社フォー・レディー 代表 鯉渕登志子
日本大学芸術学部卒業後、アパレル業界団体にてファッション経営情報誌の編集に携わり、カネボウファッション研究所を経て、1982年に株式会社フォー・レディーを設立。これまで手がけた化粧品・ファッション通販企業は180社を超えます。一貫して「女性を中心とした生活者ターゲット」に寄り添い、消費者の実感から発想することを信条としています。 「自分が使って心から納得できるものを届ける」というポリシーのもと、コンセプト設計からクリエイティブ制作までを一貫して行っています。また、日本通信販売協会などでの講演実績も多数あり、生活者視点のマーケティングを広く発信しています。

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