「LTV重視」実践編―ロイヤル顧客育成は“ビジネスモデル転換”から

前回のコラム「新規偏重からの脱却――LTV重視への転換期」では、新規獲得中心のビジネスから、既存顧客の価値を高めるLTV重視への転換が不可欠であることをお伝えしました。今回はその続編として、ロイヤル顧客を育てるために欠かせない“ビジネスモデルの変換”に焦点を当てます。今回のコラムは、『日本流通産業新聞』12月5日号に掲載された「強い通販化粧品会社になるために 基礎講座Q&A vol.109」です。ぜひご覧ください。

日本流通産業新聞
通販・ネットビジネス・健康食品・美容業界などの最新動向を専門的に取り上げる業界紙です。実務に直結する情報を多角的に発信し、多くのビジネス関係者に支持されています。

忙しい人向け|対談で学ぶ〝「カテゴリー通販」と「ペルソナ重視の獲得戦略」〟

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ロイヤル顧客育成のために、ビジネスモデルを変換する

通販化粧品会社 担当者

最近ロイヤル顧客育成に注力し始めましたが、これまで新規獲得のみに注力してやってきたので何から手を付けてよいか分かりません。また新しい方法を取り入れて効率が良くなるかどうかも不安です。

前回のコラムの最後で「ロイヤル客の育成」について言及しましたが、内容の深掘りが不足していたので、今回はその続きにします。

現在の通販化粧品ビジネスの主流は、「ECによる単品通販」です。そもそも化粧品通販は、店頭販売や訪問販売の品ぞろえ型販売手法のアンチテーゼからスタートしているので、かつて新聞、TVなどの旧マス媒体での新規獲得時代でも、当然単品訴求が主流でした。メディアがECに移行して、ますますその状況は加速され、端的にメッセージが伝えられる単品通販がメインになったのです。

しかし化粧品ビジネスは、単品訴求だけでは、ロイヤル顧客育成はできません。その理由は、化粧品は消耗品であり、おのずと商品単価には限界があり、宝石や自動車のように1品で高い客単価を獲得することはできないからです。そのため化粧品単品通販のビジネスモデルは、「多くのお客さまを集客できること」が基本条件になっていました。ところが「ロイヤル顧客育成」は、1人のお客さまに、「なるべく多くの商品を買っていただいて、年間の購入金額を拡大していただく」ことが条件になるので、そもそもビジネスモデルが異なるのです。

私が推奨しているのは、単品通販という考え方ではなく、美容・化粧に必要なアイテムをある程度品ぞろえした「カテゴリー通販」のようなイメージです。幸い化粧品は複数のアイテムを使用してお手入れをすることが生活習慣に根付いています。そのため代表的な入口商品は不可欠ですが、単品で終わらせるのではなく、必要アイテムをより多く購入していただくことが「ロイヤル顧客育成」には不可欠になります。

そのためには、品ぞろえを変更し、単品訴求の他に「お手入れ訴求」の情報を発信しなくてはなりません。だからビジネスモデルを大きく変換しなくてはならないのです。

“数”から“質”へ――新規獲得の考え方を変える

また、もう一つ大きく変換したいのは、新規獲得の方法です。

現在の新規獲得方法はECが主流なので、反応の良い媒体に出稿し、より多くのお客さまを獲得して、その中から残ってくれるお客さまをフォローしながらロイヤル顧客育成を目指す手法がメインです。

そのため、初回の反応率を上げながらお客さまの残存率を上げる必要があります。となると、最初のお客さまはなるべく1件当たりのコストを安くしつつ、多くのお客さまを獲得することがミッションになります。

この方法で、理想的なロイヤル顧客の集団をスピーディーに形成するというのにはなかなか無理があります。媒体選択、訴求ポイントの設定、施策や特典のテストをしている間に、特典のファンや、メディアのファン、商品のファンなど、バラバラのファンの集団になります。そして最終的には最初に想定したロイヤル顧客とはかけ離れたお客さまの集団になっていることもあります。その理由は各段階での評価基準がコストやレスポンス率を中心に判断しているからです。

また、この方法では、新規顧客獲得に膨大な経費が掛かり、本当にファンになってくれているロイヤル顧客のサービスに必要な資金が圧迫されることになります。そこで当社が考えている新規顧客獲得は、「最初からロイヤル顧客になりそうなお客さまをもっと正確に狙って集客する」という方法です。

ペルソナ設計から始める、LTV最大化の道

それを実現するためには、商品開発の初期の段階から、ターゲットとなるお客さま像(ペルソナ)をきちんと設定し、十分に顧客のライフスタイル分析をして、消費行動や情報収集方法を明確に把握した上で、そんなお客さまがアクセスするようなメディア、時間帯、興味・関心の高いサイトの購入歴にPR&広告を打つべきです。ペルソナたちがアクセスしそうなメディアにしっかり情報発信しておく手法です。そして接点のあったお客さまを確実にロイヤル顧客に育成していくようなCRM設計を行い、きめ細かくタッチポイントを増やして伝えたい情報を確実、分かりやすく提供していきます。

そんな手法であれば、すぐ離脱するような大量の見込み客を集客するよりも、もっと息の長い生涯LTVの高いお客さまを集めることが可能になります。そうすればもっとロイヤル顧客にサービス投資ができるようになるでしょう。それこそロイヤル顧客育成のゴールデンルートになるはずです。

株式会社フォー・レディー 代表
鯉渕登志子

新規獲得の方法を変えるのは、たしかに勇気が必要です。けれども、従来のやり方を続けながらでも、ロイヤル顧客育成の視点を少しずつ取り入れることはできます。まずは通常の新規獲得と併用して、小さな試みから始めてみてください。ペルソナづくりから、ぜひフォー・レディーにご相談ください。

深掘りQ&A

 LTVを高めるための“ビジネスモデル転換”とは、具体的に何から着手すればいいですか?

まずは「お客様がどの段階で離脱しているのか」を把握することです。継続率・平均購入点数・アイテム別売上構成などのデータを可視化し、離脱ポイントを特定すると、どのフェーズ(商品・情報・接点)を改善すべきかが明確になります。いきなり制度やツールを導入するよりも、「現状のボトルネックを発見する」ことが第一歩です。

ロイヤル顧客を増やすために、商品以外でできることはありますか?

あります。実は、コミュニケーションの設計が非常に大きな鍵を握ります。たとえば会報誌やDMで「お客様の声」や「開発ストーリー」を伝えること、お手入れアドバイスを定期的に発信することなど、“使い続ける理由”を育てる接点を増やすことが、長期的なロイヤル化につながります。

新規獲得を減らしてしまうのは不安です。どのようにバランスを取ればよいですか?

無理にどちらか一方に絞る必要はありません。「新規獲得の質を高めながら、既存顧客の育成を並行する」ことが理想です。例えば、既存顧客の購買データをもとに“似た傾向の新規層”を広告で狙うなど、獲得と育成をデータでつなぐことで、効率的なLTV経営が可能になります。

ABOUT US
株式会社フォー・レディー 代表 鯉渕登志子
日本大学芸術学部卒業後、アパレル業界団体にてファッション経営情報誌の編集に携わり、カネボウファッション研究所を経て、1982年に株式会社フォー・レディーを設立。これまで手がけた化粧品・ファッション通販企業は180社を超えます。一貫して「女性を中心とした生活者ターゲット」に寄り添い、消費者の実感から発想することを信条としています。 「自分が使って心から納得できるものを届ける」というポリシーのもと、コンセプト設計からクリエイティブ制作までを一貫して行っています。また、日本通信販売協会などでの講演実績も多数あり、生活者視点のマーケティングを広く発信しています。

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