通販で「超高級化粧品」を売ることは本当に可能なのか──。かつて、特許成分をふんだんに使った6万円のクリームを販売した経験があります。しかし結果は、期待通りとはいきませんでした。そこには、高価格帯1を通販で扱ううえでの“見えない壁”と、同時に“新しい可能性”の芽が隠れていたのです。今回のコラムは、『日本流通産業新聞』6月30日号に掲載された「強い通販化粧品会社になるために 基礎講座Q&A vol.82」です。ぜひご覧ください。

日本流通産業新聞
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高級品を売るには、“通販の常識”を超えた仕組みが必要

これまで弊社は、中価格帯のスキンケア化粧品の通信販売がメインでしたが、先日、経営陣から「今後は高価格帯商品を販売する」と言われました。これまでの商品とは全く違うため、どんな販売戦略を採用すればいいのか分かりません。そもそも、通信販売で高級化粧品は売れるのでしょうか。
化粧品の通信販売で一番高い商品を扱った経験は6万円のクリームを販売するツールを作成したこと。特許成分をふんだんに使用した商品でした。でもこれは本当にまれな例で、結果もあまり芳しくありませんでした。
通販化粧品各社の最高級品を見てみると、現状では2~3万円が上限だと思います。ちなみに下限は2,500円~3,000円が通販というシステムを使って利益を出せる限界のような気がします。
ではご質問の通信販売で、「高価格帯商品を販売する」ことが可能かということですが、結論から言うと、店頭販売のラグジュアリーブランドに比較して遜色ない情報提供、サービス、イメージ戦略、ブランディグなどを徹底して行えば、可能性がないとは言えません。
逆に言うと通信販売が、一部の人々に「安いモノを売る業態」と誤解されていることを払拭するいい機会かもしれません。もちろんそのためには従来の通販の発想のままでは難しいでしょう。
高級品を売るためには、店頭販売と同じ価格帯の商品、もしくはそれ以上の商品価値、サービス、情報提供、イメージ戦略が必要です。
まず商品開発では、オリジナルの原料や特許成分などで他社と明確な差別化がされていなくてはなりません。しかもそれがレベルの高い有効成分であり、処方についても研究されつくした方法でなければならないと思います。
そして、その開発プロセスとマッチした美容理論、美容メソッドが確立されていなければなりません。その上で、考え方が反映されたビジュアルやキーワードなど、イメージ戦略(ブランディング)が実施されなければなりません。

「通販なのに、通販じゃない」──高級品販売の新常識

また、サービスについては、高級品の販売にふさわしい「おもてなし2」接客を通信販売でもできるようにしておかないと難しいでしょう。
かつて私は、日本の化粧品業界を代表する店頭販売メーカーのトップブランドを、世界に通用するブランドにリニューアルするプロジェクトに参加したことがあります。そのとき、販売チームが最初に行ったことは、あらゆる業種の超高級品店を取材して、「超高級の接客とはこうあるべきだ」というレポートを担当美容部員の教育のために作ることでした。時には代表メンバーを同席させてサービスを体験してもらったこともあります。
通信販売で高価格帯商品を販売するならば、店頭販売と同様にサービスの研究をするべきだと思います。
そしてその「おもてなしサービス」は、通信販売という手法でも発揮できる内容でなくてはなりません。対面接客でなくとも、お届け方法の工夫、心地よい荷物、開いた時の感動など、考えられることは多くあります。
かつて百貨店通販全盛期に、価格の高い宝飾品を掲載していた会社がありました。高価格帯のパールのネックレスでしたが、後で聞いたところ社員が直接お届けしていたとのことでした。化粧品とは価格帯が比較にならない商材なので当然ともいえます。これは極端な例ですが、場合によっては「通販だけど、通販でない」─こんなサービスも視野に入れておく必要があります。
通販と店販の垣根を越え、“体験を届ける”時代へ

情報提供やお手入れの仕方、使用方法のこつなどは、ウェブのシステムを使えば、比較的簡単に一人一人のニーズに合わせて、さまざまな情報提供ができる時代になりました。実際に使用していらっしゃるお客さまにアドバイスできるので、より具体的にお客さまに合わせて、お伝えすることができます。現在のウェブシステムのカメラは性能も良いので、肌チェックも同時にできるでしょう。お客さまがご自宅にいらっしゃれば、洗面所でドレッサーを前に普段のお手入れを再現してもらうこともできます。
また、フェイシャルサロンを作るのもひとつの方法です。高級なフェイシャルサロンを多店舗展開せずに、1店舗でも作れば購入者限定でご利用いただけるようになり、特別なお客さまへのサービスになります。通販だからといって「直接会わないで販売する」ということに固執するのはナンセンスです。店頭で美容部員に十分な接客アドバイスを受けたお客さまほどLTVが高くなるというデータもあります。
ある意味で、通販と店販の垣根を越えてサービスすることが、高価格帯化粧品を通販で販売できる可能性を広げると言えます。

鯉渕登志子
高価格帯化粧品を“本当に売れる通販”に変えるには、体験価値の設計から見直すことが鍵です。フォー・レディーは、ブランドの世界観をお客さまの心に届ける仕組みづくりを、企画からクリエイティブまで一貫してお手伝いします。
用語解説
- 高価格帯化粧品-一般的なスキンケア商品の中でも、1アイテム2万円以上を超えるラインを指します。成分の希少性や処方の独自性、ブランドの世界観・体験価値など、価格以外の要素による付加価値が重視されます。 ↩︎
- おもてなし接客-単に「丁寧な対応」ではなく、相手の立場に立って先回りし、心地よさや安心感を提供する日本独自のサービス概念。通販でも、パッケージ体験・アフターフォロー・情報提供などを通じて実現できます。 ↩︎
















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