チャネル拡大時に直面する“商品戦略”の悩み

通販化粧品専業として成長してきた企業にとって、近年は店頭販売への展開も現実的な選択肢になりつつあります。リテールからの引き合いが増える中で、多くの経営者が直面するのは「通販と店頭で商品を変えるべきか」という問いです。販売チャネル1が拡大すれば市場も広がりますが、その一方で戦略上の判断が求められる場面も出てきます。今回のコラムは、『日本流通産業新聞』3月15日号に掲載された「強い通販化粧品会社になるために 基礎講座Q&A vol.54」です。ぜひご覧ください。

日本流通産業新聞
通販・ネットビジネス・健康食品・美容業界などの最新動向を専門的に取り上げる業界紙です。実務に直結する情報を多角的に発信し、多くのビジネス関係者に支持されています。

忙しい人向け|対談で学ぶ〝店頭か通販か?賢い消費者に響く化粧品販売戦略の本質〟

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同一商品で展開可能。鍵はチャネル特性に応じたコミュニケーション

通販化粧品会社 経営者

店頭販売と通信販売で商品を変えるべきでしょうか。通販化粧品専業として事業をスタートさせましたが、最近リテールから引き合いがあり、店頭販売に卸すことにしました。今はまだ規模が小さいのですが、将来は通信販売と店頭販売で商品を変えるべきか悩んでいます。

最近、多くの通販化粧品会社が店頭販売にも進出するようになりました。

そもそも通販化粧品会社における通販チャネルだけ(国内のみ)の売上高で、500億円を超えている会社はほとんどありません。ブランド力を発揮できる規模になったら、通信販売と店頭販売と両方のチャネルで販売する方がいいと思います。

というのも、販売チャネルは企業側の都合で、お客さまは「いつでも、どこでも、自分の買いたい方法で購入できるほうがいい」と考えているからです。もちろん、戦略的に「当社は通信販売ルートでしか販売しない」という選択肢もあると思います。しかし、これだけ通販会社の規模が大きくなって、顧客数も多くなった今日では、通信販売でも店頭販売でも購入できることが「お客さまメリット」につながると思います。また、国内の通販チャネルだけでは、マーケットシェアに限界があるので、規模を大きくできないという現実もあります。

店頭は“五感で体感”、通販は“理性で判断”

ただし、販売チャネルごとに販売方法の特徴があるので、それをよく知って展開すべきでしょう。

通信販売の場合は時間、空間を選ばずにお客さまに自由に買い物をしていただけますが、店頭販売の場合は時間も空間も限定されます。また、店頭販売はその場で商品を触って確かめることができますが、通信販売の場合、サンプルを取り寄せたとしても、多少時間がずれます。

また、店頭販売は販売員の接客やサービスに大きく左右されることがあります。同じことは通信販売でも言えますが、直接対面していないだけに、体制でフォローできる部分もあります。いわば店頭販売は「五感で感じて買い物をする場」であって、体感する情報量が多くなります。また、通信販売の場合はあらかじめ開示された情報のみの接触になるので、「理性で買い物をする場」になりがちです。

もちろん最近では、消費者の「口コミ」も多く、体験者のコメントで疑似体験することもできます。また、最近の店頭販売は、肌診断などの計測機器類がそろっているところも多く、その場でお客さまの特徴をデータ化することで説得力のある販売を行うことが可能になっています。

しかし、なんといっても通信販売の強みはその販売データが一括管理されていることでしょう。通常、通販会社はお客さまの購入履歴が一括管理されているので、データベースマーケティング2がしやすく、営業効率を上げることができます。

また、施策リリースを一斉に全国規模で展開できることも効率を上げる理由になっています。最近では、より小さな単位のデータも抽出して、お客さまのニーズの芽を先取りした販促活動を展開している会社もあります。

両方のチャネルともお互いの利便性は共通になりつつありますが、根本的には先に述べたようなチャネルの特性に応じたコミュニケーションの優先順位を考慮すべきでしょう。

お客さまが見抜くのは、業態ではなく“価値の本質”

また、私の経験では、基本的に店頭販売は視覚や聴覚での情報が優先するので、店舗やパッケージなどのビジュアルからメッセージを発信すると効果的なようです。そのため、コンセプトをビジュアルで表現することと、販売員を徹底教育することが、成功への鍵のような気がします。

一方、通信販売の場合は、ビジュアルだけではなく、「言葉」で伝えることが多くなるので、どちらかというと「コピーライティング」に注力することが常識的です。

ただし、最近では両業態ともにあまり差がなくなりつつあります。つまり、消費者は業態の差で購入するのではなく、その商品のコンセプトや自分にとっての価値で購入するので、販売のテクニックについては、すでに見破りつつあると考えた方がいいようです。

株式会社フォー・レディー 代表
鯉渕登志子

通販でも店頭でも、最終的にお客さまが求めているのは「商品の価値」と「信頼できる伝え方」です。しかし、その表現方法やコミュニケーション設計は、チャネルごとに工夫が欠かせません。もし「どのように伝えればよいか」と迷われたときこそ、私たちフォー・レディーにご相談ください。

用語解説

  1. チャネル(販売チャネル)-商品を販売する経路や仕組みのこと。通販、店頭、ECモール、ドラッグストアなども含む。 ↩︎
  2. データベースマーケティング-顧客の購入履歴や属性をデータベースで一元管理し、その分析結果をもとに効果的な販促やCRMを行う手法。 ↩︎

深掘りQ&A

ぜ大手通販化粧品会社は店頭販売にも進出するのですか?

通販だけでは売上規模に限界があるからです。国内通販だけで500億円を超える会社はまれで、さらに成長するには店頭や海外など新しいチャネルの開拓が不可欠になります。

店頭販売を始めると、ブランドのイメージはぶれませんか?

商品そのものを変える必要はありませんが、「見せ方」や「接客体験」でブランドの一貫性を保つことが重要です。たとえば、通販の会報誌で語っている世界観を、店頭のPOPや接客マニュアルにも落とし込むことで整合性が保てます。

通販と店頭の両立で一番難しい点は何ですか?

成果の測定方法です。通販はデータで効果検証ができますが、店頭は接客や雰囲気といった定性的要素が多く、成果を数値化しにくい面があります。そのため、両方のチャネルのデータをどう統合・活用するかが大きな課題です。

ABOUT US
株式会社フォー・レディー 代表 鯉渕登志子
日本大学芸術学部卒業後、アパレル業界団体にてファッション経営情報誌の編集に携わり、カネボウファッション研究所を経て、1982年に株式会社フォー・レディーを設立。これまで手がけた化粧品・ファッション通販企業は180社を超えます。一貫して「女性を中心とした生活者ターゲット」に寄り添い、消費者の実感から発想することを信条としています。 「自分が使って心から納得できるものを届ける」というポリシーのもと、コンセプト設計からクリエイティブ制作までを一貫して行っています。また、日本通信販売協会などでの講演実績も多数あり、生活者視点のマーケティングを広く発信しています。

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