「値決め」は経営判断だ。― 通販化粧品ブランドの価格をどう決めるか

新商品を発売する際、最も頭を悩ませるのが「価格設定」です。少しの価格差で反応が変わる今、値決めは単なる数字合わせではなく、ブランドの方向性を決める“経営判断”と言えるでしょう。ではこれからの時代にふさわしい価格とは――。今回のコラムは、『日本流通産業新聞』2月13日号に掲載された「強い通販化粧品会社になるために 基礎講座Q&A vol.111」です。ぜひご覧ください。

日本流通産業新聞
通販・ネットビジネス・健康食品・美容業界などの最新動向を専門的に取り上げる業界紙です。実務に直結する情報を多角的に発信し、多くのビジネス関係者に支持されています。

忙しい人向け|対談で学ぶ〝顧客が本当に求める「価値」でブランドを築く方法〟

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お客さまの声を聞き、安さではなく価値で納得してもらえる価格を

通販化粧品会社 担当者

新商品を発表するのですが、正直なところ価格を決めかねています。最近の売れ行きを見ていると、ちょっとの価格差でお客さまの反応が大きく変化するような気がして、これまでと同じような「値決め」でよいのかどうか、不安になっています。

フォー・レディーで実施している、さまざまな通販化粧品会社のお客さま調査によると、最近の通販化粧品の顧客は、「安く買いたいから」通販化粧品を買っているのではなく、「商品を選び抜いて」購入しています。アイテム別に、購入しているブランドの価格を尋ねてみると、全国平均の化粧品購入価格よりかなり高額です。現実に購入している商品がそのレベルなので、「使ってみたい憧れ商品は?」という問いにはラグジュアリーブランドがずらりと並びます。つまり「安いから通販で買っている」訳ではなく、「欲しいものを通販で買っている」のです。通販は「わざわざ自分から見つけた商品」なので、単に価格が購入の理由ではないようです。

さて「値決め」をどうするか、ということですが、まずはお客さまに対する徹底調査をすることが必要だと思います。既存客ならば、客層(ロイヤル、ライト、離脱などの顧客区分)別に、アンケートやインタビューを駆使して、本音の調査をしたいところです。今使っていただいている自社商品について、ざっくばらんなご意見を伺えるチャンスでもあります。また、自社商品かどうかにかかわらず、「一度は使ってみたい憧れ商品」などを聞き出すことも必要でしょう。そういう場を設けて、お客さまの「価格に対する本音」を集めると参考になることが多いです。

要望価格より“少し高め”がブランドを育てる

しかし本当に「値決め」をする時は、お客さまの要望より少し「高めに」設定してもよいと思います。お客さまにご意見を伺うと、価格に対しては「安くしてほしい」という声が多く上がりますが、実際に安い化粧品を買いたいと思っている訳ではないからです。お客さまは、「本来は価値のある高い商品を、安く手に入れたい」と考えて「安くしてほしい」と言っているのであって、価値の低い安い商品を提供しても喜ぶわけではありません。そのため「値決め」に当たっては、お客さまの希望価格より、「高めの設定」の方が良いです。

要は、「多少高くても欲しい商品」を提供することが化粧品販売には不可欠なのではないでしょうか。価格は化粧品にとって、憧れをキープする重要な要素だと思います。

一方で、商品の品質を確かなものにして、「欲しいと思っていただける価値」を磨き上げることも不可欠です。原料も美容成分もテクスチャーも容器も考えつくされ、使用するたびに大きな喜びを与えてくれて、夢見心地な世界にいざなってくれるもの。そういう出来栄えの商品ならば、「価格などどうでもよい」ものになると思います。

それが「多少高くても買う」化粧品の付加価値であり、夢であり、よい化粧品の条件です。

“多少高くても欲しい”と思わせる付加価値を磨く

もう一つ付け加えるなら、販売時点のサービスが充実すれば、大きなプラス要因となります。つまり、お客さまにとっては、購入前に肌診断を実施し、客観的にお客さまの肌質や肌悩みなどの肌状態を調べてくれて、適切な使い方をアドバイスしてもらえれば、これほど安心できる買い物はないでしょう。しかも肌診断を通じて、パーソナルな肌を確認した上でのアドバイスなので、なおさら価値は高いです。そのような徹底したサービスも込みで「値決め」をすれば、そのコストも含んだ金額を設定しなければなりません。そう考えると、「値決め」はブランドの運営方法を含めた、経営全体に影響を及ぼすものになります。

したがって、単なる「価格設定」として考えるのではなく、どのようなブランドに育成するのか、といった大きなフレームから考える必要があります。「どのようなお客さまに買っていただくのか」「商品内容はどんなものか」「競合と比較したポジショニング」「販売チャネルはどこまで広げるのか」「サービスもどのレベルまで実施するのか」─など、考え始めたらきりがありません。しかし化粧品ビジネスにとって、大切な「値決め」は、マーケットを見つめつつ、お客さまの意見に耳を傾け、商品開発の結果を踏まえながら、大きな決断をすることです。「値決め」からブランディングが始まると考えても良いと思います。

株式会社フォー・レディー 代表
鯉渕登志子

通販化粧品の「値決め」は、単なる数字ではなくブランドの意思そのもの。フォー・レディーでは、お客さまの声を活かした価格戦略やブランド設計のご相談を承っています。商品企画や調査設計の段階から、「価値で選ばれるブランドづくり」をご一緒に考えてみませんか。

深掘りQ&A

「値決め」を経営判断と考えるのはなぜですか?

化粧品通販における価格は、単に“利益を出すための数値”ではなく、ブランドの立ち位置とお客さまとの関係性を決めるシグナルだからです。安さを打ち出せば短期的には売れても、「選ばれる理由」が“価格だけ”になりがちです。一方、「価値に見合う価格」を提示すれば、ブランドへの信頼と憧れを育てることができます。つまり、価格は最初のブランディングメッセージなのです。

値決めの際、お客さま調査はどこまで踏み込むべき?

「いくらなら買うか」ではなく、“なぜそう感じるのか”を聞く調査が鍵です。たとえば「高い」と答えた人に、「どんな商品ならその価格でも買いたいと思うか」を掘り下げると、価値基準や理想体験が見えてきます。フォー・レディーの調査では、回答の背景を語ってもらうインタビュー型調査が特に有効です。

「価格以外の価値」をどう設計すればいいですか?

化粧品の場合、「体験価値」「安心感」「ブランドの世界観」が重要です。容器の手触り、香り、開封時の喜び、アフターサポートなど――価格と無関係に思える要素が、実は価格納得度を高めています。特に通販では、商品を開ける瞬間がブランド体験のピーク。そこをデザインすることが“価格の説得力”をつくります。

値決めを見直すタイミングはいつ?

一般的に“商品リニューアル時”や“成分・処方変更時”に再設定しますが、実は顧客構成が変わったときも見直しどきです。リピート顧客が増え、ブランド理解が進んできた段階では、「品質を正当に評価してもらう価格」に上げていく方が自然です。その判断をサポートするのが、フォー・レディーが得意とする“顧客層分析とインサイト調査”です。

ABOUT US
株式会社フォー・レディー 代表 鯉渕登志子
日本大学芸術学部卒業後、アパレル業界団体にてファッション経営情報誌の編集に携わり、カネボウファッション研究所を経て、1982年に株式会社フォー・レディーを設立。これまで手がけた化粧品・ファッション通販企業は180社を超えます。一貫して「女性を中心とした生活者ターゲット」に寄り添い、消費者の実感から発想することを信条としています。 「自分が使って心から納得できるものを届ける」というポリシーのもと、コンセプト設計からクリエイティブ制作までを一貫して行っています。また、日本通信販売協会などでの講演実績も多数あり、生活者視点のマーケティングを広く発信しています。

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