価値で選ばれるEC戦略とマルチチャネル展開

販売チャネルの多様化が進む今、化粧品通販企業にとって「価値で売る」姿勢と自社サイトでの信頼獲得がますます重要になっています。モール出店や店舗卸などで認知度を高めつつも、D2C1の本質である“ブランド価値の発信”は自社サイトでこそ実現可能。信頼される情報発信とお客さまとの誠実な関係づくりが、これからのブランド戦略の鍵となります。今回のコラムは、『日本流通産業新聞』8月29日号に掲載された「強い通販化粧品会社になるために 基礎講座Q&A vol.106」です。ぜひご覧ください。

日本流通産業新聞
通販・ネットビジネス・健康食品・美容業界などの最新動向を専門的に取り上げる業界紙です。実務に直結する情報を多角的に発信し、多くのビジネス関係者に支持されています。

忙しい人向け|対談で学ぶ「D2Cのマルチチャネル化を成功に導く“価値の発信”とは?

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「価値で売る」鉄則を守ってマルチチャネル化を

通販化粧品会社
執行役員

販売ルートを広げたいと考えています。これまではD2Cらしく、自社のECサイト+ウェブ広告のみで販売してきましたが、なかなか新規獲得も難しいので、店頭販売やショッピングモールへの出店を考えています。

あらゆる企業が販売ルートを広げている中で、自社サイトやウェブ広告のみで販売していてもなかなか認知度は上がらないので、新規獲得は難しいと思います。知名度を上げるためにも、販売ルートを広げることは必要だと思います。

例えば、大手のショッピングモールに出店する、ビューティーの専門ECへの卸や、リアル店舗への卸を検討しても良いでしょう。そうすることで、少しでもお客さまの目に触れる機会を多くできれば大成功です。販売チャンスを増やすだけなら、モールへの出店も店舗への卸も歓迎すべきことですが、商品の価値や会社の魅力を知っていただくためには、それだけでは不十分です。

自社サイトでブランド力の強化を

現在のお客さまは、商品を購入するだけなら、お気に入りのモールでも近くの店舗でも不便はありません。それが単なる受け渡しだけであれば、割引やポイントなどサービスがあるお店を選ぶことでしょう。

しかし、化粧品の購入に必要な「使い方」や「成分」などの十分な情報は、企画し開発した化粧品会社にこそ、オリジナルの資料があるはずです。自社のウェブサイトにはそのような価値ある情報を掲載して、ブランディングの発信源とするべきです。

「価格」ではなく「価値」で売るD2Cの魅力を守る

D2C本来の価値は、「モノづくりをした人たちが、直接消費者に届ける」ということなので、ショッピングモールへの出店や店舗への卸は、本来のビジネススタイルと相いれないかもしれません。しかし、これだけあらゆる業態がEC・通販に参入し、店舗展開も並走しているとなると、頑固にEC・直販だけに頼っていても多くの商品に埋もれてしまいます。なかなか知名度も上がらず、新規獲得も難しいのが現状です。

そのため、D2Cの基本である「他社にはないブランド価値」は、自社サイトで徹底して発信する方向に切り替えてはいかがでしょうか。つまり、自社サイトは、「モノを売るよりも価値を売る」サイトとして位置付け、ブランディングやPRにまい進するべきではないでしょうか。

それらの体制を整えた上で、販売ルートのマルチチャネル2化を推進するのであれば、ブランディングとしての価値を崩さず、販売の間口を広げるということになるので、お客さまにとっても便利になることは間違いありません。その基本方針を曲げずに販売戦略を構築できれば、とても効果的だと思います。

外部サイトとは一線を画した誠実さでブランディングを

そんなECの活用方法ですが、最近気になるのは、お客さまがネットの情報を「信用していない」ということです。こんなに便利で、生活に根付いているネット情報、スマホ一つでなんでもできる身近なメディアですが、お客さまは精査しながら利用しています。

当社が毎月のように実施しているグループインタビューでは、多くのお客さまから「信頼できないサイトの情報は見ない」「そのサイトが正しい情報を発信しているかを先に調べる」といった声が相次ぐことが多く、「ネットへの不信」がたいへん大きいことがよくわかります。特に中高年世代はこの傾向が強く、まだまだ旧来のマス広告信奉者が多いようです。

自社サイトこそ顧客エンゲージメント向上の発信源に

そんな状況の中で、自社サイトはますます発信力の強化が求められるでしょう。そもそもECサイトが信用されていないのならば、徹底的に正しい情報を発信して「信頼される企業」になることがブランディングには不可欠なのかもしれません。マス広告でも、ネット上の広告でも、「作られた情報」ではなく、「あるがままの情報」を正直にさらけ出せば、信用されたり、果ては「推し活3」してもらえたりすることもあるようです。お客さまから「信用される」ためにも各社は、当社が勧める「お客さまを巻き込んだ参加型」を多く取り入れてはどうでしょうか。まじめで真摯(しんし)な取り組みや、運営方法を公開するなどの姿勢を示せば、受け入れられるのではないでしょうか。

いまや会社は、あらゆる方向からお客さまに見られています。「推し活」を期待するためには、自分たち身内の「愛社精神」も見られています。お客さまにも、社員にも、愛される会社を目指したいものです。

株式会社フォー・レディー 代表
鯉渕登志子

フォー・レディーでは、貴社の販路拡大や認知向上にともなうブランド開発やコンセプト設定、サイトリニューアルなど実務に即したトータルサポートをさせていただきます。

用語解説

  1. D2C(ディーツーシー)-「Direct to Consumer」の略。メーカーやブランドが仲介業者を介さず、消費者に直接商品を販売するビジネスモデル。ブランドの世界観やストーリーを自社で伝えやすいのが特徴。 ↩︎
  2. マルチチャネル-商品やサービスを複数の販売経路(ECサイト、実店舗、モールなど)で展開する戦略。顧客接点を増やし、利便性を高める効果がある。 ↩︎
  3. 推し活-好きな企業やブランド、人物などを積極的に応援・紹介する活動のこと。企業にとってはファンの自発的な発信が口コミ効果となる。 ↩︎

ABOUT US
株式会社フォー・レディー 代表 鯉渕登志子
日本大学芸術学部卒業後、アパレル業界団体にてファッション経営情報誌の編集に携わり、カネボウファッション研究所を経て、1982年に株式会社フォー・レディーを設立。これまで手がけた化粧品・ファッション通販企業は180社を超えます。一貫して「女性を中心とした生活者ターゲット」に寄り添い、消費者の実感から発想することを信条としています。 「自分が使って心から納得できるものを届ける」というポリシーのもと、コンセプト設計からクリエイティブ制作までを一貫して行っています。また、日本通信販売協会などでの講演実績も多数あり、生活者視点のマーケティングを広く発信しています。

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